眠れる夜を抱えて彼は眠らない。
正確には、体力が切れて気絶するまで眠らない――の方が正しい気がする。
その習慣は、研究所を出てから顕著になった。
「アネ〜。」
寝ようよ。
私がそう声をかけても、彼は眠ろうとするその動作を一切しなかった。
「アネモネさん、先に寝てていいよ。僕はまだやらなくちゃいけないことがあるから。」
そう言った彼の虚ろな目の下には、酷い隈がある。長いこと取れていない、その影。
普段は隠しているそれが、二人きりの今だけ顔を覗かせる。
忙しなく手を動かす彼は、一切こちらに顔を向けずただひたすらに作業に没頭していく。
この様子だと、明日には気絶するかな。
そう考えながら彼の作業を眺めているうちに、いつの間にか私は眠っていて気づけばいつもの檻の中。
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