赤竜亭カプリチョーゾ　いらっしゃいませ、ようこそ赤竜亭へ。
　外は暑かったですか？ふふ、すみません。お顔が少し赤いようなので……お水お持ちしますね。
　初めてのご来店ですよね。ええまあ、うちは常連の人が多いですから。それに僕は人の顔を覚えるのが得意なんですよ。
　今日はたまたまこちらに？お友達から聞いて来られたんですか、それは嬉しいですね。
　え、変わったものを食べられる店って？……チッもうそんな噂に……
　あ、いえ、お客様が聞いたのはシェフの気まぐれメニューのことだと思います。いつもあるわけじゃないんですけど、食材が入荷された時だけやってるんです。
　今日はどうかな？ちょっと確認してきますね。
　…………
　お待たせしました。あるそうです。ちょうどさっき入荷したようです……あいつら、先にサラダの作り置きしとけって言ったのにもう作り始めて……

入れ筆はT「君って公文書に姓を書かないんだな」
　書類の端に綺麗な筆致で書かれたサインを見ながら、ライオスはまるで今気がついたかのように呟いた。
　いや、興味のないことにはとんと注意を払わないこの男のことだ。実際今まさに気がついたのかもしれない。
　地方によっての例外はあるものの、大抵のトールマンは親から受け継いだ姓を名乗るものだ。例えばライオス・トーデン。トーデン家は爵位こそなくとも、代々北方の小さな村で村長を務めてきた格式ある姓である。
　執務室の机を前に、ライオスがしげしげと見つめている書類の署名欄にはただ「カブルー」とだけ書かれていた。
「ミルシリルの養子ということでトール家を名乗ることは一応許されているんですが、どうもしっくりこなくて」