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    CitrusCat0602

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    CitrusCat0602

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    最終話です 後日談は書きます
    長かった 長かった
    プロチコのCP色強めです よろしくお願いします

    いつか私を忘れて生きて空が青々とした色を湛えている。カノープスは目の前で座っている義妹に目を向けた。彼女は静かに座っている。

    「……来てくれてありがとうございます」

    彼女は閉じていた瞼を開き、目の前の全員を見た。カノープス、乃鏡、幽谷、ユーダリルの四人がいる。チコーニャは彼らに微笑みを浮かべた。
    先日、彼女は自分からプロキオンの魂を切り離すことを決めている。一度は断ったことであるとわかっていてカノープスと乃鏡に頭を下げて頼み込んでいた。無論二人とて友人であり妹のような存在であるチコーニャに何もしてやれないことが悔しかったので、断る理由もなくこうして立っている。

    「……いいか、気をしっかり保つんだぞ。」

    真剣な表情で乃鏡はチコーニャと視線を合わせる。彼女ないし彼を安心させるために、チコーニャは大きく頷いた。

    手筈は以下の通りだ。
    まず、乃鏡の鏡にチコーニャを映す。まだ力の使い方を知らない乃鏡は眠ることで鏡に映したチコーニャの魂の姿を全員に見せることになるだろう。そして、それを視認しながらカノープスが剣で2人を切り離す、というものだった。
    その間完全に無防備になる乃鏡を守り、カノープスの補佐を兼任するためにこの場には幽谷とユーダリルがいた。
    鏡に自ら映る、というのは、発狂するリスクを伴っている。未だ強大な力を持つ彼女が暴走しようものなら、また獣竜が産声を上げながら人々を蹂躙しようとするだろう。

    チコーニャは深呼吸をした。自分の見たくない部分を見て、受け入れられるだろうか、認められるだろうか。そんな心配はある。だが、何があってももう大丈夫だという確信も、不思議と彼女にはあった。

    「……お願いします、ミラちゃん」

    チコーニャは真っ直ぐ乃鏡を見た。乃鏡はこくりと頷き、チコーニャを視る。それと同時に、チコーニャの意識もまた別のところへ向かった。乃鏡はシリウスから渡された即効性のある睡眠薬を懐から取りだし、一息に飲み込む。その細い喉がそれを嚥下し、数秒後身体から力が抜け倒れそうになるのを幽谷が受け止めた。
    その胸の辺りから仄かな光が溢れ、光の粒を纏いながら“鏡”が現れる。円形のそれは数度くるり、くるりとその場で回転し、チコーニャの方を映してぴたりと静止した。
    三人の視界が揺らぐ。チコーニャのヒトとしての姿が揺らぐ。やがてそこには竜が一体と、見覚えのある青年が一人いた。

    「プロキオン……」
    「おひさ。……まあ感動の再会にはまだやることあるねんな、よろしく頼むで」

    プロキオンの言葉に、カノープスは首を縦に振る。そして再度、花に寄生されるように混ざっている彼女に剣先を向けた。

    **

    自分の全てを暴かれる、というのは、こういう感覚なのかと、微睡むようにチコーニャはそう思った。目の前で、色々な過去の回想を見せられている。苦しかったこと、楽しかったこと、全てが写真を見るように暴かれていく。
    自分がプロキオンを食べてしまったあの日のことを見せつけられて、そして自分がどうしようもなく醜い竜であることを見せつけられた。しかし不思議と彼女の心は凪いでいる。

    「このまま切り離したら、プロキオンとお別れになるかもしれないのよ」

    白百合が苛立ったようにそういうのが聞こえた。彼女はこの現状に満足出来ないらしい。

    「プロキオンともう二度と会えなくなっていいの?あんたのものじゃなくなっていいの?」
    「……」
    「何とか言いなさいよ!」

    チコーニャは白百合を見る。白百合の赤い瞳がチコーニャを睨みつけた。なので、チコーニャは笑ってみせる。何故笑うのかわからない、というように呆気に取られた彼女へ、言葉を紡いでみせた。

    「あの人は、自由であるべきだった。星は空でこそ輝くものだから。……手を離すつもりはないけれど、私に縛り付けていい人ではないってことに、ようやく気づいたの」

    ああ、チコーニャはもう覚悟を決めているのだ。何を言ってもその意思が揺らぐことは無いとわかって、白百合は腹立たしげに顔を顰める。彼女は曲がりなりにも、誰かのためなら200年も愚直に耐えることができる女だったから。たった数時間程度、それももう受け入れられたことを見続けることなんて、簡単なことだろう。

    「……後悔するわよ」

    白百合はそう言い残し、霞のように姿を消した。チコーニャは深呼吸をする。後は、カノープスたちを待つだけだ。

    **

    チコーニャは目を閉じたまま微動だにしない。これがいいことなのか悪いことなのか判別は難しいが、しかし暴走する予兆もないのでカノープスは手元に集中していた。切り離した部分から力の残滓が溢れ出て、漂っている。そのうちの一つが地面に触れ、蕾を形成したため幽谷とユーダリルが警戒を顕にした。
    蕾が開花し、獣竜が姿を見せると、二人は戦闘態勢をとる。しかしその竜がその場に伏せたのを見ると、どうやら敵意はないらしいと警戒を解いた。

    「……チコーニャが頑張っているのでしょうね」

    ユーダリルがぽつりと呟く。幽谷は一度ユーダリルを見て、それからカノープスたちを見た。

    **

    随分長いことそうしていたような気がする。ふ、と、チコーニャは目を開いた。気を張る作業を終えたカノープスが座り込んで肩を落としているのが見える。乃鏡も目を覚まし、きょろきょろと辺りを見回していた。戦闘の痕跡がないのを見て胸を撫で下ろしている。
    ユーダリルと目が合った。彼女はチコーニャに優しげに微笑んでゆっくり手を振ってくる。それに振り返し、隣で腕を組み目を閉じている幽谷をちらりと見た。

    「きゅう」

    足元で鳴く声がして、下を向く。獣竜がはたはたと尾を揺らしていた。それに手を伸ばして撫でてやる。

    「……無事に終わって良かったわ、よう頑張ったな、チコちゃん」

    プロキオンがそう言うので、チコーニャはふわりと笑った。

    **

    一人の竜が起こした騒動は、これにて終幕を迎えた。だがしかし、物語はまだもう少しだけ続く。

    **

    シリウスから渡された水晶を見て、チコーニャはきょとんとした。それからは、果実の香りがする。

    「お前の竜の因子を結晶に封じ込めたものだ。」

    シリウスが話し出すのを聞いて、ぱちりとチコーニャは瞬きをした。竜の因子。……あの日から一日経った今、チコーニャは自分の身体がひどく弱体化していることに気がついていた。竜の力の分離は彼女からカノープスに事前に頼んでいたことで、もう二度と執着している相手……もとい、プロキオンに害を与えることがないようにと殆どを切り離してもらっていたのだ。その切り離した後の力がどこに行ったのか、彼女には知る由もなかったのだが。
    彼女は両手でしっかりと水晶を握り締める。

    「必要になったら使うといい」

    シリウスはそう言い残し、チコーニャに背を向けた。

    「……ありがとうございます、シリウス」

    彼女はその背中に感謝の言葉を投げかける。それを聞いて、彼は一度足を止めたものの、しかしそのまま何も言わずに立ち去った。

    **

    チコーニャは草原に座って青々と輝く湖を眺めていた。どうやったのかは皆目見当もつかないが、ガラークチカが繋げてくれた場所で、彼女以外に今は誰もいない。要するにここはニヴルヘルのある世界ではないのだが、それはともかくとして。

    「よっこらせっと」

    隣にそんな声を上げながら、プロキオンが座ってくる。チコーニャはちらりと彼を見た。

    「いやー、チカさんすごいな、こんな場所用意できるなんて。まあニヴルヘルって色んな人おるし今更やんな。」

    そう言ってのんびり笑う彼には、未だに肉体がない。チコーニャはもぞりと身じろいで、プロキオンに向き直った。プロキオンは数度瞬きをし、にこりと笑う。

    「……ところで、なんか話あるんやっけ。」
    「はい。」
    「そうかあ。」

    プロキオンもまた、チコーニャに向き直った。

    「……私は……初めて罪を犯すほど人を愛しました。……愛しているんです、プロキオン。あなたを。」

    プロキオンが瞬く。言葉が出ない、というか予想していなかったのだろう、今言われたことをうまく飲み込めていない様子だった。チコーニャは微笑みを浮かべる。それでいいと思った。謝罪の言葉を聞いたらきっと、悲しくなってしまう。

    「……私があなたにしてあげられる最大限のことを、私が満足する為に、勝手にします。……あなたの未来に幸多からんことを。」

    握りしめた水晶が優しく光をこぼす。ぱき、と音を立てて砕けたそれは、プロキオンに彼女のほぼ全ての力を譲渡した。唯一譲渡されなかった竜産みの力が、雷の竜としての役目を放棄させる代わりにプロキオンに肉体を与える。

    「……あなたが、もう何者にも害されないように。私の力、全部、あげる。だから……」

    だから。その言葉の続きが出てこない。ひどい眠気に襲われて、チコーニャは朦朧としたまま懸命に唇を動かした。
    プロキオンの金色の瞳がまあるくなっているのを見て、何だかおかしくなって笑ってしまったのを最後に、チコーニャの意識は飛んだ。
    このまま、もう二度と起きることがなければ良いのに、と、そう思った。

    **

    ふと、目を覚ます。彼女はあの草原ではなくて、ベッドに寝かされていた。いよいよ身体が重い。人はこんな身体で生きているのか、と、最早神の娘でも竜の娘でもなくなった彼女はそう思った。ふうーーーー、と長く息を吐き、一度上体を起こす。ベッドの脇にプロキオンがいたので、思わず驚いて声をあげそうになった。
    どうにか声を飲み込み、恐る恐る顔を覗き込む。どうやら寝ているらしい、目を閉じていた。寝息が聞こえてきたので、彼女はもう一度ベッドに横になる。ああまた目覚めてしまっただとか、これからどうしようだとか色々と考えながら目を閉じた。寝息と時計の音を聴きながら、とりあえずプロキオンが目を覚ましたら簡単に力の制御でも教えようか、だなんて思う。突然渡したものがあんまりにも重いから、もしかして怒られるかも、とも思いながら、彼女はまた眠りについた。
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