落ち込んだ様子のチコーニャがぎゅう、とプロキオンにしがみついている。大方今日ドグマがかました爆弾発言が原因だろうなとプロキオンはため息を吐きたい気持ちになりながら、そのまろい頭を優しく撫でてやった。
「……チコちゃん?」
名前を呼んでみれば、ぴょこりと少女の耳が揺れる。しかしそれ以上の反応はなく、プロキオンは少し苦々しい気持ちになった。
「……もう寝よか、抱っこしたままでええよね」
「……て、ください」
「ん?」
ベッドの上に寝転がり、ぽんぽんと彼女の背中を撫でてやると、ふと自分の胸に突っ伏すようにしていた少女が何かを口にする。生憎それがあまりに小さい声だったので、プロキオンは聞き取ることが出来ずに聞き返した。
少女が顔を上げる。その瞳があまりに据わっていたので、プロキオンは思わず眉を寄せた。チコーニャはそのまま身体を持ち上げ、彼の腰に跨り見下ろす。
「私のこと、抱いてください」
じっと青年の瞳を見つめながらそう言って、彼女は目を細めた。プロキオンは少しの間何も言わずじっと彼女を見上げていたが、やがて困ったような顔をする。
「……あかんよ、チコちゃん。今日はダメや」
「なんでですか」
「チコちゃんが傷つくだけだから」
「……傷ついてもいいから、お願いです」
「ダメ。それ以外のお願いならなるたけ聞いたるさかい、別のにしよ。な?」
チコーニャは何も言わず、納得してくれただろうかとプロキオンは様子を伺った。少女はぎゅう、とプロキオンの服を握りしめる。暫くその状態が続いたかと思えば、ぐず、と鼻をすする音が聞こえた。
「わ、私より、あいつの方が、ずっとあなたに近いじゃないですかっ」
「そんなことは……」
「ありますっ」
元々嫉妬深いタチなのに、自分がまだ知り得ていないプロキオンの話をされるのが耐え難かったのだろう。ぐずぐず泣きながらぺちぺちと彼の胸を叩いて主張し始めた。
「なんで私じゃだめなんですかっ」
「いや、ダメってことじゃなくてな?ただ今日はやめとこってだけで……」
「おんなじですっ」
プロキオンは困り果てている。おのれドグマ、と思いつつも、とりあえず宥めないとどうしようもないので上半身を起こしてチコーニャを抱きしめてやった。
「プロキオンさんは私のなのにっ」
「うん、そうやんな」
「あ、あいつばっかりっ、オラクルさんのこと知ってるっ!ずるいっ」
「これから沢山知ってこうな」
身体は大人でも精神面がこんな風だから、プロキオンもあまり手を出していないわけなのだが。あやすように背中をとんとんと叩いてみたり、軽く揺れてみるだけで、もう泣き言の勢いがそげるので、プロキオンは幼児を相手している気分になる。
「ぐすん……私だってオラクルさんのこと大好きなのに……」
「知っとるよ」
「取られちゃう……」
「取られないよ、安心しぃ」
チコーニャがぐりぐりと頭を擦り付けてくるので、プロキオンはなでなでとその頭を撫でてやった。静かになったな、と思ったら寝息が聞こえてきたので、プロキオンはほう、と息をつく。本当に子供のようだなあと思いつつ、彼はもう一度おのれドグマ、と思うのだった。