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    CitrusCat0602

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    CitrusCat0602

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    これは庭園に来た男の子と竜がなんかしてるだけ

     ざあざあと木の葉が擦れる音がする。鳥の鳴く声が聞こえた。東屋で微睡んでいた竜はゆっくり首を持ち上げる。

    「ひ、」

     少年が尻もちを着くのに気がついて、竜は不思議そうに首を少年に近づけた。桜色の鼻先がぐっと近づいてきたので、少年は食べられやしないかと気が気でない。

    「あ、あ、あのっ」
    「?」
    「ぼ、僕、お花を一輪もらいたくてっ」

     竜はふわりと尾を揺らす。反応らしい反応がないので、もしかして話が通じる訳では無いのだろうかと少年は焦った。
     先程、優しげな金髪の女性に『ここには願いを叶える花がある』と言われてやってきたのだが、目の前の巨大な竜については一言も言っていない。甘い話には裏があるのだと少年は泣きそうになった。
     それをどう思ったか、竜は首を元の場所に戻す。続いてその姿が揺らいでいくので、少年はあ、と声をこぼした。瞬きほどの間にその巨体が姿を消し、足元できゅい、と鳴く声がする。見れば、先程の竜の幼体のような小さくて丸っこい何かがいた。それは未だに目を閉じているが、しきりに耳を揺らしている。

    「えっと……」
    「きゅぅ」

     ぽてぽてとそれは庭園の方へ向かった。少し離れたところで立ち止まって少年の方を見るので、少年はそれについていく。
     花の香りと竜のなんとも言えない足音を聴きながら、少年は歩いた。どれがその花なのだろう、と思っていれば、竜が立ち止まる。

    《願いを教えて》

     脳裏に突然女性の声が聞こえたので、少年はまた驚いて声を上げた。竜は首をかしげ、もう一度同じことを口にする。

    「ぁ……っ、い、妹の、病気を治してあげたくて」
    《病気。病気。ならあげる。》

     ぽてぽてと竜が移動し、一輪花を見繕うと、ぺろりと花弁を舐めた。青い花だったそれが僅かに揺れて、次の瞬間には薄い桜色に変わっている。ぷちり、と茎を噛みちぎり、竜はその花を咥えて少年の足元までやってきた。

    「……これが、願いを叶える花」

     少年はごくりと生唾を飲み込んでそれを受け取ろうとする。しかし竜はそれをするりとかわした。

    《何にでも対価があるものよ》
    「え!?あ……、でも僕何も持っていなくて……」
    《できたらでいいからやって欲しいことがあるの》

     竜は東屋の方に跳ねていく。少年はその背中を慌てて追いかけた。東屋の椅子の下、何やら物がいくつか置いてある場所の中から、竜は頭の上に何かの紙を乗せて出てくる。やや不格好に便箋に入ったそれを、少年は手に取った。

    《この手紙を渡して欲しいの》
    「……誰に、ですか?」
    《……思い出せなくて。私が中に何を書いたのか、誰にこれを渡すつもりで書いたのか。でも、確か、そう。私が信じ切れずにいた、ひどく優しい子たちに渡したかったの。》
    「……」
    《できたらでいいわ。宛先の分からない手紙だもの、どこに出したって届くはずがないのだから》
    「……やります、きっと。妹を救っていただけるなら、きっとやってみせます」

     少年はぐ、と握りこぶしを作ってそういった。竜が笑う気配がする。彼女はもう何も言わず、桜色の花を少年に持たせた。

    《まっすぐ門から出なさい。門を出たら白い百合の花に沿って歩けば帰れるわ》

     竜が言う。少年はしっかりと手紙と花を抱きしめて、門の前までやってきた。淡く光る百合の花から目を離し、竜を見る。彼女は少し離れたところにちょこんと座っていた。それをもう一度見て、少年は足を踏み出す。その背中が小さくなって見えなくなるまで、竜はただただそこにいた。
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