同室のくりへし①
始まりは手だった。
秋の入り口の少し肌寒い夜。寝ぼけていたんだろう、俺は近くに感じた温もりを両手で挟み冷えた頬の下に敷き込んで眠ってしまった。
障子越の朝日で目を覚ますと眼前に布団に片肘をついてまじろぎもせず俺をじっと見つめる大倶利伽羅。俺が挟んで敷きこんでいるアタタカイモノの先に大倶利伽羅。
声にならない声とともに布団から飛び起きた俺を気にかける様子もなく大倶利伽羅は部屋を出ていった。
静かに障子が閉まり遠ざかっていく足音。過度の馴れ合いを嫌う奴だ、近いうちに主から同室の解消について打診されるのだろうか。今晩からでも大倶利伽羅は伊達の部屋に戻るのだろうか。失われるであろう大倶利伽羅と過ごすこの部屋が長谷部にとって心地いい空間であったことに気づき再び深くため息をもらした。
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