我儘 約束の時間が過ぎていることはわかっていた。それでもまだ、アイツは待っているだろうか。待っていてくれるだろうか。強面の見かけに反してなにごとにも誠実なアイツのことだ。現れないオレに愛想を尽かして帰ってしまっているだろうか。ため息をつきながら、それでも、まだ待っているだろうか。
やっと来たか。溜息まじりの声を思い出す。眉を潜めてしかたがねぇなという顔をして、心地良い沁み通る声でオレを呼ぶ。
あの声があの囁きがあの息遣いが忘れられないはずなのに。シナプスの奥をゆらりと不安げに揺れ、ぷかり浮かび現れるのは、宙を切り割く殺傷音と腹を突き刺し厚い肉を抉る重い感触と、硬い骨を砕く音。
なんどでも頭の中を腐食し劣化した残像がフラッシュバックする。鼓膜を突き抜け弾半規管をざわりと撫でる閃光が一緒くたに混ざり合って嘲笑い、アイツの輪郭をかき消していく。
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