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    かやめき

    かやめきと申します。TRPGとVが好き。絵も小説もかきます。

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    かやめき

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    実白とコージーの『1072』パロ小説
    ⚠️caution⚠️
    ・本作品は、コーサカ様作エモクロアTRPG『1072』のパロディ小説です。よって、『1072』のシナリオバレが多分に含まれます。
    ・作者は『1072』のシナリオを所持しており、シナリオ本編から描写や台詞をそのまま拝借している箇所があります。
    ・狂気山脈第5陣、ジゴクノケンのネタバレが含まれます。
    ・本当になんでも許せる方向け

    『黒に尾を引くその白は』 鈍い痛みがある。
     閉じた瞼はやけに赤い。きっと日差しが強い所為だ。

    「──なあ、おい!」
     声がする。遠くに──いや、近くに。

    「起きてくれよ……」
     懇願にも似たその声を合図に、目を覚ました。


     俺の名前はコージー・オスコー。一流のアルピニストだ。それは分かる。
     今強く差しているのは日光で。今自分が、 浜辺に続く長い階段の下に居るのも分かる。
     分かるが──なぜここに居るのかが分からない。
     というか、

    「お前、誰だ……?」
     目の前にいるこの男。あいつとそっくりなようで、白い髪に青い瞳はまるで正反対……って、「あいつ」とは誰のことだろう。
    「僕は、懐緒実白。あなたの……その……ファンだ」
     男は少し照れたようにそっぽを向いた。
     ファン。その言葉にこれまでの思考が吹っ飛んだ。俺のファン。
    「ふ、ふーん……俺のファン、な。それならば俺にお目にかかれてさぞ光栄だろう」
    「ああ、本当に。やっと、やっと会えた」
     心底嬉しそうな顔を見て、調子が狂うなと思った。俺の周りの人間はだいたい二種類に分けられる。俺に羨望と侮蔑の眼差しを直接向けてくる奴と、その心を隠して貼り付けた笑みで近づいてくる奴。まあ、神に二物も三物も与えられてしまった俺だ。嫉妬するのも仕方あるまい。
     それなのにこの懐緒実白という男は、一体なんなんだ。純粋な尊敬の眼差しを向けられたのは初めてと言ってよくて、正直どうしていいのか分からない。

    「おい、お前、実白と言ったか」
    「!」
    「な、なんだその顔は……」
    「いや……あの……な、名前……」
    「名前?」
     実白は「呼んでくれた……コージーが僕の名前呼んでくれた……」とぶつぶつ繰り返している。変な奴だ。
    「なあ、ここはどこだ?」
     見慣れない浜辺。どこの海だろうか。
    「日本。イタリアの街並みを模した、港町の観光地だ」
    「ふうん」
     周りを見渡すが、この浜辺には俺とこいつの二人しかいないようだ。観光地というわりには、しけてるな。
    「こ、コージー」
     おそるおそる、一音ずつ噛み締めるように呼ばれる。どこかこそばゆい心地がした俺は、目線だけで返事をする。
    「見せたいものがあるんだが……」
    「見せたいもの?」
     ついてきてくれ。そう言う彼の後ろに続いて歩みを進めると、だんだんと洞窟らしきものが見えてきた。

     ぴちょん、ぴちょん。洞窟の中に入ると、どこからか水滴の落ちる音が反響する。観光地だからか、道は随分と整備されている印象を受けた。
     ふと、ある看板が目に止まる。
    「なあ」
    「ん?」
    「こっち、行かないか?」
     立入禁止の文字の先に、何かがある気がしてしまった。第六感というやつだ。
    「そっちって……危なくないか?」
    「俺を誰だと思ってる、この程度余裕に決まってる」
    「何があるか分からないだろ」
    「なんだ、ビビってんのか? まあいいぜ、お前が来なくても俺は一人で行く」
    「それはダメだ!」
     実白は俺の腕を強く掴んだかと思えば、瞬時に離す。
    「あ……すまない……」
     何故そこで顔を赤らめる。やはりよく分からない奴だ。
    「とにかく、一人はダメだ。僕も一緒に行くから」
     僕はあなたを、実白はそこまでで言い淀んだ。
    「なんだよ」
    「いや、なんでもない。行こう」

     立入禁止の看板の先は舗装されていない道が続いたが、一流のアルピニストである俺には造作もなかった。
     突如、開けた空間に出る。
    「これだ、僕があなたに見せたかったもの! まさかここにもあるなんて……」
     そこには天井から一筋の光が伸びており、まるで天然のスポットライトと言うに相応しい神秘的な光景が広がっていた。
    「まあ、悪くないな。満点の星空も日の出も見飽きていたところだ」
    「気に入ってもらえたなら良かった」
     実白はニコニコという効果音が聞こえてきそうな笑みを溢す。正直憎まれ口を叩いている自覚はあるから、なんだか居心地が悪い。そう思っていたところで、視界の端に何かが光った。なんだろう。立入禁止の看板を見たときから感じていた、何かに惹かれる感覚が強くなる。
    「コージー?」
     実白の呼びかけを無視して手に取った光るものの正体は、琥珀だった。綺麗だ。目が離せない。誰かの瞳の色に似ているような。思考を巡らせようとしたところで、視界は暗転した。


       * * *


     見知らぬ天井。実家のものと遜色ない質感のソファ。
    「コージー!」
     今にも泣きそうな声だ。右手にぬくもりを感じて視線を向けると、震えた両手で握られていた。
    「よかった……どこか痛かったりしないか?」
    「ああ。俺は、一体……?」
    「洞窟で何か拾い上げたかと思えば、その後すぐぶっ倒れたんだ」
     無理をさせてしまったのだろうか、やっぱり立入禁止の場所になんか入るべきじゃなかったのかも、と実白は独り言を続けている。あたりを見渡すと、ここはどうやらホテルのスイートルームらしかった。

     ぐーきゅるるるる。

    「ち、違う!」
     何が違うのか自分でも分からないが盛大な腹の音がとにかく恥ずかしくて、顔に熱が集まる。
    「なに食べたい?」
     馬鹿にされると思っていたのに、穏やかにそう聞かれて拍子抜けした。
    「お、おう。ルームサービス、何がある?」
    「いや、良ければ僕に作らせてほしい」
    「お前、料理できるのか?」
    「それなりには。それに、食材は冷蔵庫に一通り揃ってる」
    「ふうん。じゃあ、そうだな……海鮮が食いたい。ここは港町なんだろ」
    「わかった、すぐ作るから待っててくれ」
     そう言うと実白はキッチンへと駆けてゆく。

     30分後。俺の目の前には、カルパッチョからマリネ、フライまで多種多様な方法で調理された色とりどりの魚介類が並んでいた。
    「見た目は悪くないじゃねえか」
     サーモンのカルパッチョを一口、口へ運ぶ。美味い。空腹もあり、俺は次々と料理へ手をつける。
    「ワインもあるが、飲むか?」
     俺の様子を見ていた実白が嬉しそうに尋ねた。
    「そうだな、白が飲みたい」
    「わかった」
     実白は少し不慣れな手つきでグラスにワインを注ぐと、俺に差し出す。やはり魚には白だ。最高の料理。それに合う良い酒。当然、上機嫌になる。
    「おい、お前も見てないで座れよ」
    「え、いいのか……?」
    「ああ、許可してやる。俺と飯を食えるなんてそうそうないことだぞ」
    「そう、だな……本当にそうだ」
     おずおずと向かいの席に座る実白に、ワインを注いでやる。今の俺は機嫌がいいんだ。
    「ほら、乾杯」
    「ん、乾杯」
     カランと煌びやかな音が響いた。


    「はー、食った食った。お前、なかなか料理上手いんだな」
    「口に合ったなら良かった」
    「それに俺のファンというのもどの程度のものかと思っていたが、まさか地方誌の記事まで読んでいるとはな」
    「まあ、そりゃ、ファンだから」
    「そうかそうか」
    「なあ、コージー」
    「なんだ?」
    「せっかくの観光地だ。色々見て回らないか?」
    「いいだろう。俺を案内してみろ」
    「わかった」



     ジェラート屋。服屋。ゲーセン。あらゆる場所に行った。実白は俺が振った話題には大体なんでも答えられたし、あちらの話もまあまあ面白い。悪くない時間だった。取り巻きじゃない「友人」というのはこういう感じなのかもしれない、なんて。
     ただ、ただ。楽しいという気持ちで蓋をしきれない違和感が胸に渦巻いている。どこに行っても、誰もいない。ジェラート屋ではカウンターを越えて実白がジェラートを盛り付けていたし、服屋でも勝手に試着してそのまま会計をせず店を出た。街全体を貸し切ったのか? とも思ったが、だとしても店員くらいは置いておかない方がおかしい。
     そんな違和感を誤魔化しながら、俺は実白とこの街が一望できる展望台に来ていた。

    「高いところは、いいな」
     景色を見ながら、実白が呟いた。空は朱に染まり始めている。
    「僕はずっと、あなたのことを追いかけていて。高い山に登れば登るほど、あなたに近づけたようで嬉しかった」
     視線は交わらない。独り言にも近いその言葉を聞いて、俺にとっての山とは何なんだろうかと思った。

     山。山?
     何か、大切なことを忘れている気がする。
     誰かが俺の名を呼んでいる。叫ぶように、泣くように、祈るように。
     頭が痛い。


     ──暗転。



     俺の名前はコージー・オスコー。一流のアルピニストだ。おいおい、御曹司なんて呼び方やめてくれよ。ムスコーじゃない、オスコーだ!
     それにしても良かったよな、第一次登山隊が失敗してくれて。は? 何怒ってんだよ。
     俺はもう登らない。お前たち狂ってるんだよ。おかしい。おかしい。おかしい。俺は降りる。

     俺が、登る。登らせてくれ。

     大黒壁。フリークライミング。確かに掴んだはずの右手から崩れ落ちた。ビレイの命綱が誓うように固く引っ張られるが、落ちる勢いは止まらない。
     空が、綺麗だった。最期に見たのは、あいつの見開かれた琥珀色。



     ──再び、暗転。誰かの記憶が、流入する。



     懐緒実白さん。突然お呼び立てしてしまい申し訳ありません。私は特務機関『Les(リス)』のエージェント、遊雲五月と申します。いきなり何を、と思われるかもしれませんが、貴方にお伝えしなければならないことがあります。

     そうです、貴方と隕石が相関している。我々も日々、全力で研究をしていますが、隕石の地球への衝突を免れる方法は現状ひとつしかありません。


     はい。最後の日々を、我々は保証します。残された時間に貴方が願うことはすべて、我々の出来る範囲であれば叶えましょう。

     死者と、会いたい? それが、貴方の唯一の願いですか。そうですね……現実世界に死者を蘇らせることはできませんが、夢の中であれば、あるいは。夢──精神世界は、現実世界よりも魂の干渉がしやすいんです。死者の魂を精神世界に召喚する。そういったことができるマジカルアーティファクトは確かに存在します。

     分かりました。貴方の夢に、かつて貴方が夢に見たコージー・オスコーを召喚しましょう。





     気づけば、窓の外は暗かった。何かを悟った顔で、実白がこちらを見ている。

    「あの星」
     黒に尾を引く流星を、あいつに似た、あいつと正反対の彼が指差した。

    「ラッキーだって思った。コージー。僕はあなたに、どうしても会いたかったから」
     俺の瞳よりも深い青が、こちらを見つめて離さない。
    「何故、そこまでして俺に?」
    「ある日、夢を見たんだ。夢の中の僕は、滑落したあなたを救えなかった。あなたを救うために、登山家になった。できる努力はすべてした。もっとすごくなったらあなたに会いに行くんだ、って。そう思ってたら、狂気山脈に行ったあなたは還って来なかった。あなたを探しに、狂気山脈へ登った。でも、もう……」
    「お前、狂気山脈を登頂したのか?」
    「ああ、そうだ」
    「そして生還、した……?」

     実白は無言で頷く。脳が沸騰しそうだった。気づけば目の前の頬を殴りつけていた。実白の身体がぐらついて、展望台の壁に寄りかかる。

    「ふざけんなよ、何がラッキーだ。なに満足そうにしてんだよ」
    「コージー……?」
    「お前、登ったんだろ。生きて帰ったんだろ。あの狂気山脈から! それなのに、死ぬなよ。こんなくだらないことで死ぬなよ!」
    「くだらないって……」
    「くだらねえよ! 俺は、俺はあそこで死んだ。山頂の景色すら拝めなかった。でもお前は違う。人類初登頂。その栄誉を、実力を、運を、すべてを。お前は持っている。それがどういうことか分かってるのか?」

     叫ぶように吐き捨てた。俺が肩で息をする音以外聞こえない、静寂は耳が痛くなるほどで。

    「ごめん」
     聞き逃してしまいそうな小さな声で、実白が零した。

    「違う、違うんだ。あなたがいない世界なんて、僕にはなんの意味もない。確かにそう思ってた。途中までは。でも、あの山で仲間ができた。あなた以外にも大切に思える存在ができた。だから、だから」

     だから僕は死ななくちゃいけない。大切な存在を今度こそ救うために。

     実白の声からは強い意志を感じた。それでも俺は、

    「許さねえよ。お前は、生きろ」
    「……無茶言うなよ。僕が生きてたら、あの隕石は地球にまっしぐらだ。そうなったらどのみち僕も死ぬ」
    「そもそもその前提が腑に落ちないな。だってこんな、死人の魂持って来れるような力がある奴らがいるんだろ? じゃあ隕石のひとつやふたつどうにかできねえのかよ」
    「いま僕があなたに会えているのは、マジカルアーティファクトという人智を超越した代物のおかげだ。隕石に関しても、そのひとつである『予言書』とやらを頼りにしているらしい。だが、隕石と特定の人間が相関しているということまでは突き止められても、その相関を絶ったりすることはできないそうだ」
    「くそ、なんだよそれ……」
    「コージー、会えて良かった。ありがとう」
     そう言った実白はどこから取り出したのか、拳銃を自らのこめかみに向けていた。
    「おい、やめろ、」
    「お別れだ。これが、この精神世界を終わらせるトリガー」

     パァン。
     銃声とともに聞こえたのは、肉を裂く音──ではなくガラスの割れる音だった。

    「手、震えてんじゃねえかよ」
    「……邪魔、しないでくれ」
     俺が咄嗟に腕を掴んだことにより、実白の頭を貫くはずだった弾丸は展望台の窓ガラスに穴を開けた。
    「勝手に終わらせてんじゃねえよ。お前は、そいつらは、全部試したのかよ。隕石にこの弾のひとつでも撃ってみたのかよ」
    「何かしら試してみたのかもしれないが、隕石の軌道は、どれだけ手を尽くしても計算できないって」
    「じゃあ今俺が試してやる。全部試すまで諦めるな」
    「……はは、あなたからそんな言葉が出るとは」
     こんな諦めの悪さ、どこかの誰かに影響されたとしか思えない。最悪だ。だが俺はもう、7000mじゃ降りない。
    「とりあえずその銃を寄越せ」
    「それは構わないが……生憎、さっきの一発しか弾がない」
    「くそ、何かないのかよ……代わりになるような……」
     考えろ。思い出せ。弾になりそうな何か。
    「あ、」

    「おい、俺が洞窟で拾った琥珀、どうした」
    「それなら僕が持ってるが……」
     実白はポケットからあの琥珀を取り出す。琥珀は記憶より二回りほど大きく、弾になりそうにはなかった。
    「さすがにこのままじゃどうしようもないか……」
    「これならどうだ?」
     その言葉とともに先ほどの拳銃は宙に浮き、形を変える。
    「なんだ、これ……」
    「これもあの人たちから借りたマジカルアーティファクトの一種なんだ。ここは精神世界だから、想像通りに形が変わるようになってる」
     はい、これ。と実白が手渡してきたのは、ピッケルだった。
    「なんでもありかよ」
    「夢なんてそんなもんだろ」
    「まあ、好都合だ」
     ピッケルを右手に握り、琥珀へと振りかざす。ヴァイオリンのような悲鳴のような、聞いたことのない甲高い音が鼓膜を揺らし、琥珀は砕けた。その断面は、照明の反射ではなく内から光っているように見える。何か大きな力が眠っているような。
    「よし、これくらいの大きさならちょうどいい」
     俺はピッケルを正面に持ち直し、とあるものを思い浮かべる。するとピッケルは再び宙に浮き、その姿をライフルに変えた。

    「コージー、本気でやる気か?」
    「当たり前だ。俺を誰だと思ってる」
    「コージー・オスコー。一流のアルピニスト、だろ?」
    「わかってるじゃねえか。そしてこれからお前と世界を救う男だ」
     不思議と気持ちは落ち着いていた。ライフルのスコープ越しに、流星もとい隕石を見る。息を吸って、吐いて。トリガーに人差し指をかけた。


     隕石めがけて、撃つ。


     ──それは一瞬の出来事だった。
     星が、まるで線香花火のように散った。皮肉にもそれは、今まで見たどんな景色よりも綺麗で。



    「消え、た……」
    「やったのか……?」
    「ああ、やった、やったんだ! コージー、やっぱり凄い人だ。本当に。僕が憧れた、焦がれた、見込んだコージー・オスコーはやっぱり凄いんだ!」
    「当然だろ、俺だからな」
     歓喜と安堵がない混ぜになった気持ちでそう答えた刹那、世界が鳴動する。

    「なんだ!?」
    「コージー、空に亀裂が……!」
     実白に言われて見上げると、先ほどの隕石があったところから空がひび割れていた。
     それだけじゃない。俺はとある予感をする。
    「実白、手貸せ」
     ぐいっと彼の右手をこちらへ引き寄せて、握手をする。俺の手は、透け始めていた。
    「懐緒実白。俺のファン。俺の、友達。ありがとう」
    「コージー……ありがとう。僕は、あなたのことを救いたいってずっと思ってた。なのに、僕が救われてばかりだ」
    「存分に救われとけ。で、生きろ」
     ぎゅっと握った手は、今度は震えていなかった。





     ──鈍い痛みがある。
     閉じた瞼には、あの線香花火の残像がある。

    「実白」
     声がする。遠くに、遠くに。

    「ああ……生きる、生きるよ」
     右手に残る感触を抱き締めた。

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