アガルタ島初日報告~登場人物(ヴィンス視点)~ヴィンス(31):新しくアガルタ島に駐在として赴任してきた。最近"ドデカイ仕事"を終わらせたばかりで、疲れている。口が悪いという自覚がある。酒が好き。
モーリス(64):現駐在の爺さん。昔、世話になったことがある。いつ会っても、のほほんとしている。駐在所内ではなく、ジルと一緒に暮らしているようだ。
ジル(22):馬車小屋を切り盛りする、生意気で背のでかい女。恐らく昔荒れていたところを爺さんに拾われ、恩義を感じている…といったところだろう。
ディーター(34):島の酒場の店主。目つきがカタギじゃない。チャカを持ってそう。俺とあまり歳は変わらないらしい。恐らくマリエに惚れている。
マリエ(19):酒場の看板娘。美人。愛想はいいが、腹の中では何を考えてるか読みにくい女。こういう手合いが一番厄介。恐らくディーターに惚れている。
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ヴィンス
(ここがアガルタ島か…思ってた以上に寂れた島だな。)
??
「おい。」
ヴィンス
「あ…?」
ジル
「おいおい、お巡りさんなら『あ?』じゃなくて『どうかしましたか?』だろ?」
ヴィンス
「何故俺の事を知ってる。」
ジル
「爺さんにアンタを迎えに行くよう頼まれただけだよ。」
ヴィンス
「あぁ…モーリス爺さんのお使いか。よく俺がそうだとわかったな。」
ジル
「ハッ、わざわざ観光でこの島に来る物好きなんかいないからね。アタシはジル。この島で馬車小屋を営んでる。さっさとついてきな。ついでに島を案内してやる。」
ヴィンス
(口の減らねぇ女だな…。)
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ジル
「爺さん、戻ったよ。」
モーリス
「おお、戻ったかね。ご苦労さん。」
ヴィンス
「よぉ、久し振りだな。元気そうで何よりだ。」
モーリス
「ほっほっ。まだまだ、くたばるような歳じゃあないからねぇ。」
ヴィンス
「にしても、随分なじゃじゃ馬を抱えてるじゃねぇか。さぞ飼い馴らすのに苦労しただろ。」
モーリス
「ジルのことかい?あの子は優しい子だよ。」
ジル
「よせよ、ヴィンス。この爺さん、アタシの事になると急に頭のネジが飛んじまうんだ。」
モーリス
「ううむ…本当にそう思っているんだけれどねぇ。」
ヴィンス
(爺さんの人を見る目は、俺なんかより何枚も上手だ。優しい…ってのはジジバカのような気もするが、少なくとも悪いヤツではない…と記憶しておこう。大方、昔ヤンチャしていたところを保護された恩がある…ってとこだろうな。)
モーリス
「ヴィンス君。」
ヴィンス
「あ…?あぁ、何だ?」
モーリス
「この島を見て、どう思ったかね?君の率直な意見を聞かせてほしいんだが…。」
ヴィンス
「何というか…アンタから聞いてた話より、随分寂れた島だとは思った。何かあったのか?」
モーリス
「ううむ…やはりそうかね。島全体が疲れているような気がするだろう?聞くところによると、ここ10年くらいの間で色々な不幸や災害が重なっていたそうなんだ。」
ヴィンス
「港で船の転覆事故の話は聞いた。」
モーリス
「そうかね…その話はね、港や島で長く暮らす人の前ではあまりしない方がいい。その事故で身内を亡くされた方が、今も多くいるからね。」
ヴィンス
「わかった、覚えておく。で、仕事の引き継ぎの件だが…。」
モーリス
「ほっほっ。そう急かさない急かさない…時間はたっぷりある。君も働き詰めだったんだろう?のんびりやろうじゃないか。ここはね、確かに今は元気がない。けれど、目に見えないエネルギーのようなものを私は感じるんだよ。こういう話をすると、ジルは笑うんだけどね。」
ジル
「笑うかよ。心配になるだけだ…ついにボケちまったんじゃないかってね。」
モーリス
「君も現実的な人だからね、信じられないかもしれないけれど。」
ヴィンス
「え?あー…まぁ、そういうこともあるんじゃないのか?」
ジル
「ハハ、アンタって正直なんだな。」
モーリス
「ほっほっ。相変わらず、思ってもないことを言うのは苦手なようだねヴィンス君。」
ヴィンス
「…返す言葉もねぇ。」
モーリス
「いやいや、正直なのはいいことさ。ただ、そのせいで随分肩身が狭かったと思うがね。でも安心しなさい。ここでは周りの目を気にして、取り繕う必要はないからね。」
ヴィンス
「…そうかい、そりゃ何よりだ。」
ジル
「爺さん、いつまでそいつを拘束するつもりだ?長旅で疲れてんだ、酒の一杯でもやってさっさと寝ちまいたいだろ。そろそろ帰してやりなよ。」
モーリス
「おお、そうだね。ジルは気が利くだろう?本当にいい子なんだ。私はいささか、のんびりしているからつい話し込んでしまうんだよ。詳しいことは、また明日話そう。送っていこうかね?」
ヴィンス
「いや、少し歩きたい。道も覚えなきゃならんからな。明日からまた、よろしく頼む。」
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ヴィンス
(相変わらず、話が長ェ…悪気は無ェし、実際尊敬もしているが…とりあえず島の酒場とやらに顔を出すとするか。)
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マリエ
「いらっしゃいませ。お一人ですか?」
ヴィンス
(ほう…?こりゃ、なかなかの…。)
ディーター
「マリエ、そいつの相手は俺がする。…来い。」
ヴィンス
(何だ?まだ口説いちゃいねぇだろ?この島の人間は、どいつもこいつも読心術の心得でもあんのか?)
ディーター
「…新しい駐在だろ。モーリスさんに話は聞いてる。初日から飲みにくるとは思わなかったがな。」
ヴィンス
「新しい場所に来たら、まず酒場に行く。情報も手に入りやすい。それに…酒の質は、地域の質でもあるっていうのが俺の持論だ。何か適当に出してくれ。」
ディーター
「…くたびれたジジイと、うるせぇガキしか来ねぇところで情報もクソもあるか。」
マリエ
「もう、マスター?大事なお客様に、何て口の利き方なの?…ごめんなさい、気を悪くしないでね?」
ヴィンス
(この二人…いや、デキてる様子はない。まぁ、歳も相当離れてそうだからな…悪い虫がつかないようにしてるようだが…。)
マリエ
「あの、お客さん…?」
ヴィンス
「…いや、悪い。それと、口の悪さなら俺も負けちゃいないぜ。気にするな。」
マリエ
「うふふ…そういうことなら、マスターといいお友達になれるかもね。」
ヴィンス
「かもな。」
ディーター
「フン……。」
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ヴィンス
(あの陰険野郎…!!適当に出せとは言ったが、普通あんなドギツイ酒出すか!?ったく、こりゃ明日は仕事にならねぇな……まあ、それもいいか。酒の質は、地域の質……どうやらあの爺さんの言う通り、ここはただの寂れた島ってわけじゃあなさそうだ。)
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これが大体、本編が始まる1年くらい前です。
お酒はだいぶ美味しかったみたいです。よかったね。(尚、二日酔い)
いい人ぶったことを言うのが下手くそすぎて、署内でも大分煙たがられていたんでしょうね。のんびりのびのび暮らせるようになってよかったね。