藤丸立香は性生活に疎かった。カルデアに数合わせのマスターとして呼ばれた時点では、まだ幼さの残る少年だった。そこから人理修復の旅と異聞帯切除という大きな戦いに巻き込まれてしまったのだから、そういった経験が少なくなってしまうのも道理である。
そんな人類最後のマスターが今、窮地に立たされていた。
「はぁ……」
藤丸は自室で昨夜の事を思い出す。
『きもち、いいよマスター♡』
彼の恋人、オベロン·ヴォーティガーンが藤丸のベッドの上で幾度となく口にした言葉。そう、大嘘つきの彼が、甘ったるい声で、顔で言っていた言葉である。
「…気持ちよく無いんだろうなぁ…」
藤丸立香は性生活に疎かった。必要に迫られて自らを慰める事はあっても、他者に快楽を与える手練手管なぞ持ち合わせていなかった。だからこそ、彼は非常に思い悩んでいた。
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