「拾ってください」
はあ、と神父ラインハルトは困ったように微笑んだ。インターホンの音に気が付いて、玄関の扉を開けた途端これである。反応に困るだろう。
目の前に立っている男は、影がかたちを持ったような男だった。夜闇のような長髪を黄色いリボンでまとめて、服装も身綺麗なものだ。金に困っているようには見えない。
「なにか困りごとでも?」
拾う拾わないの話はひとまず置いて、ラインハルトはなぜそのような事を言い出したのか、聞いてみることにした。
「情けない話ですが、実は帰るところがないのです」
堂々と言い切る様は困っているようには見えないが、男の妙な自信がにじむ態度は嘘を言っているとも思えなかった。
「そういったことなら、私ではあまり役に立てないと思うが……」
「まさか。あなた以外の誰にできましょう」
なぜこんなに信頼?されているのかも分からず、ラインハルトはどうしたものかなと少し考え込んだ。
「神に仕える聖職者であるあなたにしか頼れないのです」
別にその条件にあてはまるものはごまんといるのではにだろうか。
それに教会の扉をたたいたのならともかく、自宅にいるのだ。さすがに四六時中神父の恰好をしているわけではない。初対面だというのに、仕事を把握されているのはなぜなのか。自分が気が付かなかっただけで、ミサに参加していたのかもしれないが……。
まあでも、良いか。と手繰り寄せていたひらめきを手放す。
困っているというのなら、助けることに否やはない。
「別に一時的に私が拾ってもいいんだが、その後どうするのかね。あてはあるのかな」
「……私を永続的に拾っておくと、なんと一生の友達が出来る……!」
「卿、そういう性格だったか?」