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    s_toukouyou

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    水銀黄金前提
    刹那入りキャラ崩壊ギャグ

     うつむいてしまった香純を前に、蓮は沈黙を返すしかなかった。
     夕食を終わらせたあと、少し話がしたいと切り出された。近頃続いている殺人事件のことや、蓮がなにかを隠していること、それについて話し合いたいと彼女は言った。
     しかし香純を巻き込むつもりがない蓮が、彼女に言えることはなかった。
    「……色々聞いちゃって、ごめんね。もう私、寝るね!」
     わざと明るく言っているが、その声は震えていた。ぱっと身をひるがえして、部屋から出ていくその横顔から、涙がひとつぶ飛び立った。もたもたと壁に開いた穴から自身の部屋に帰っていくのをなんとも言い難い表情で見送る。締まらないな……。
    「まったく。卿の代役は女の扱いが下手だな」
    「うわあああああ!?」
     いきなり聞こえた知らない男の声に、蓮はその場で跳びあがらんばかりに驚いた。声のほうに視線をむけると、恐ろしいほど美しい男がいた。腕を組んで壁に寄り掛かりながら、呆れた様子で蓮のことを見ている。この男を視界に入れた途端、世界の彩度がおかしくなったような気がした。この男から離れれば離れるほど、味気をなくしていくのだ。強制的に男に焦点が合う。
     青いスリーピーススーツに身を包んで、その上から白いコートの袖に腕は通さず、肩にかけていた。光でつむいだような黄金の髪はゆるく結ばれて、肩から前に流されている。知らない男だ。知らないというのに、妙ななつかしさが皮膚の下を這いまわる。
    「まあ、親が親なのだから仕方がないか」
    「今、私も女の扱いが下手と言われたような気がするのですが」
    「自覚があるようでなによりだよ」
     光の化身のような男のそばに、もうひとり誰かがいるのに、その時初めて気が付いた。声が聞くまで、そこにもう一人いると気が付けなかったことにも動揺したが、影のような男の顔がなにより蓮を動揺させた。自分自身にそっくりなのだ。髪の長さや身長に差があるものの、あまりにも瓜二つであった。というか今なんと言った? 親って言ったか?
     あまりの情報量に脳が悲鳴をあげていた。だから影のような男が勝手に自分のクローゼットをあさりはじめたことにも気が回らなかった。
    「ろくな服がないな……まあ、これでいいか」
     いくつか見繕って、影のような男はぽいと光のような男に投げ渡す。それを見もせずに受け取って、光のような男は蓮の服装を整え始めた。
     流されるまま着替えて、最後にジャケットを着せられた上に、襟を整えられる。手袋につつまれた長い指が蓮の髪の毛も撫でつけて離れていく。
    「よし、では行くぞ」
     といわれても、まだ何がなんだか分かっていないのだが。


     結局蓮は家から引きずり出された。光のような男を見ると精神がハレーションを起こし、影のような男を見ると深淵をのぞきこんだような心地になって、蓮の頭はおかしくなりそうだった。たぶんもうおかしくなってる。
     光のような男がつらつらと女の扱い方を語っているのを右から左に流しつつ、蓮は一周回って冷静になりはじめてきた。そもそも誰なんだ、こいつらは。
    「そらみろ、また私の話を聞いていない。卿はそういうところがあるな。ほかのことを考えているのは、案外相手に伝わるものだぞ」
     黒い手袋につつまれた指が蓮のあごを捕らえた。無理やり目線をあわせられて、一瞬息が止まる。世界のすべてが色あせて、蕩けた黄金の瞳しか見えない。
    「女といるときは、きちんと女の話をきいてやれ。いいな?」
     まともに舌がまわらず、蓮はこくこくと頷いた。
     すると光のような男はにこりと微笑んで、蓮の額にちゅっと口づけを落とした。
    「良い子だ」
     ひゃ~~~~~。
     言語能力を失って呆然としていると、影のような男から冷たい一瞥をいただいた。
    「卿もだぞ、他人事のような顔をしているが」
    「私も!? まさか。私が女神の言葉を聞き漏らすわけがない」
    「どうだかな。なぜ計画が行き詰っているのか、卿も分かっているだろうに」
     ふたりの会話も脳みそをすりぬけていく。蓮の意識は光に焼かれてホワイトアウトしていた。


     気が付いたらホテルの受付に居た。ぎょっと周囲を見回す。
     ホテルだ。並みのホテルではない。前にラブとかつくほうのホテルだ。
     チェックインの手続きはあまりにも手慣れたもので、あれよあれよという間に部屋につれこまれた。
     室内の調度品は、こういった場所にしては品の良いものだと思った。
     ゆったりとした空間に大きいベッド、ガラス張りのシャワールームに、ナイトプール。…………ナイトプール!? 室内に!?
    「こういった部屋は初めてか? まあ女とくる時の予行演習だとでも思いたまえ」
     そうしてラブホの部屋でなにをしたかというと、光のような男による女の扱い方講座であった。どのように相手の機微を読むのか、どうやって相手の要望に応えるか。必要であるなら性交にもちこむ流れと、性交をする上で気を付けるべき事柄についてみっちりと教わった。場合によっては実演付きで。
     卿も聞け、と影のような男も蓮の隣に座らされて授業を受ける羽目になっていたのだけ、ざまあみろと思った。まあ蓮も人のことを言えない状況というか、五十歩百歩なのだが。
    「どうだ? 今日の話で分からなかったところはあるか?」
     頭から煙が出てそうな状況だが、問題ないと勢いよく答えると、光のような男は満足げに頷いた。
    「よろしい、ではここまでだ。もう帰ってもいいが……どうだ、ついでにプールで遊んでいくか?」
     まだ時間はあるし、と言われて、なにをトチ狂ったのか、蓮はうっかりうなずいていた。
     人工的に作られた波にゆられながら、蓮は手中のビーチボールを見下ろした。
     ほら、こっちだと言われて、ボールを投げ渡す。良い感じに三人の間でボールを回しつつ、蓮は思った。
     俺、なにしてるんだろうなあ。
     ちらりとふたりの表情を見ると、光のような男はそれは楽し気であったが、影のような男は、蓮によく似た表情を浮かべていた。
     俺、ほんと何してるんだろ。
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