夕焼けに照らされた海面が黄金に輝く。寄せては返す波に光が乱反射して、まぶしかった。
二人分の長い金髪が潮風に揺れる。女は無垢に瞬いている。男は面白げに微笑んだ。
「やあ、会うのはこれで二回目かな」
「えっと……、はじめまして、だとおもう」
喋りなれていない様子の舌足らずさとつたなさであった。女のたどたどしい喋りを急かすこともなく、男は女がしゃべり終わるまで待った。
「おや失敬。そうだった、今回は初めましてだ。ふふ、カールからよく話を聞いていたもので、初対面の気がしないな」
くすくすと口元に指先を添えて男が笑う。
「あなたは、カリオストロの、おともだち?」
「ああ、ふふ。会えた良かった、カールの女神」
なごやかな出会いであった。風が通り過ぎるたび、さらさらと砂が流れて、刻一刻とその姿を変え続ける浜辺で、とつとつと共通の知り合いについて語る。男は話題の間に養子のことも女に語って聞かせた。友人の計画ではこのふたりが恋人となるのが正道らしい。となれば、いずれは養子の恋人ということになる。勧めておけば多少良い方に事が動くのではないだろうか、と考えた。
「ねえ、ラインハルト。今日のあなたはとてもうすいね」
そんな風に語り合った何度目かの夕暮れに、女はそういった。遠くから血を求めるギロチンの歌が聞こえてくるなか、男はただ微笑んだ。
「残念ながら、そろそろ燃料切れでな」
「もう会えなくなっちゃうの?」
「いいや、また会える。だが少し先のことになるな」
「そうなんだ……」
あまりにも淡泊な心の動きではあるが、女はたしかに肩を多少落とした。
「なに、私の息子がそばにいる。そう寂しがることもない」
「うん」
「いい子だ」
素直にうなずいた女の頭を撫でて、男は自らの行いに苦笑した。子供と接している期間が長くて、つい同じ感覚で対応してしまっていた。
男は遠くに目をやった。ここではない、しかしここと著しく近いところで、群衆に囲まれて、ギロチンに押し込まれた息子を、界をこえて見ている。女もそうした。
「私の息子はいささか甘えたがりでな、良ければ付き合ってやってくれ」
「うん、まかせて。わたしが面倒を見るよ」
えへんと胸を張る女と、我が子の首が飛ぶのを同時に見届けて、男は意識を溶かした。
最後の瞬間、群衆にまぎれたよく知った男に笑みをひとつ残して。