sleep sheepこれはただ気持ちの良いことだと言う自己暗示。
10歳の頃の記憶はもうほぼ覚えてない。
思い出さない為に。
16歳の頃の記憶は酷く鮮明に。
痛みだけが酷く残る。
ソレはいつの間にかボクのコミュニケーションのひとつになっていた。
悪循環だと叱られたし、何度も自分を大切にしろと言われた。
ピアノさえ弾ければもう何でも良かった。
大人になってからは人もちゃんと見極めるようになったし怖いこともないし楽しく過ごしていた。でもきっとこれは自暴自棄。
綺麗なボクはもう居ないから、きっと王子様は選んでくれない。選ばれてはいけない。
きっとずっとこんな感じに生きて、いつか誰かに恨まれて殺されるか。プレイの一つとして首を締められうっかり死んじゃうんだと思ってた。
それくらい、ボクはすっかり落ちていた。
だけど
まっすぐな眸と心優しい言葉を紡ぐその唇に恋をしてから、乖離してしまっていた心と体が少しずつ繋ぎ合わさるような気がした。
『何で君が?』
16歳のボクが話しかけてくる。
何がと訊けば暗い冷たい目をしてこちらを見つめる。
『何で君なんかが、幸せになろうとしてるの?』
「ーーーはっ!!」
午前3時。夢だった。最近見る嫌な夢。
分散してる。意識が散り散りになって、心と体が乖離する。謎の不安感に苛まれる。
お腹の奥が疼き、ぐるぐると頭の中や目が回り体に熱が溜まる。
「…最近してなかったから?……ぐるぐる、あつい。」
(こーゆー時のってあんまり気持ち良くないんだよなぁ)
嫌な夢を見た後の不快感の中、少し強めに前を扱いて汚れぬようにゴムを装着する。
前だけではすっかりイケない体なので長い指に唾液を絡ませ後ろもくちくちと弄る。
くちゅ、ぐちっと小さな水音と少しだけ荒くなる呼吸。
『何で君なんかが、幸せになろうとしてるの?』
昔のボクはあんなに泣きそうな顔してたんだろうか。夢の中だから妄想でしかないのだけど…。
そんなことよりこのぐるぐるとする熱を早く終わらせてしまいたかった。
「ふっ、っあ………ひっ…ひっく…うぅ、ぐすっ」
好きな人へ捧げられなかった体はずっと昔にばらばらになって、自分をどうひっくり返しても浅ましく熱ばかりを求めている。
レイプをされてから、人伝に嫌な噂がたち脅され逃げられず自己防衛として体を渡す。
そんな過去を思い出し、なんて自分は汚いのだろうかと、声を殺しながら涙はシーツにぽつぽつと滲んでいく。
熱がこもるのであれば、好きな人の事を思えば良いのだけれど、こんな気持ちでは相手に失礼な気がして手が止まってしまう。
「……っ、あいせくん…」
心や体はすっかり相手に惚れているのは確かなのに、体にまとわりつくこの感覚がずっとずっと蝕んでいく。
酷く酷く自分が醜くて仕方がない。
不意に、暗い部屋が怖くなる。冷や汗と激しく鼓動が乱れ、フラッシュバックする前に枕元の明かりをつけ、無理やり落ち着かせる。
過呼吸になりかけ酷く噎せる。
「ゲホッ…はぁ、バラバラなのくっつけるの…なんで、こんなに難しいの…?」
忙しい心と体について行かず、ぽろぽろ涙が零れる。ぐるぐるした熱は消えないが、欲を吐き出す気分には結局なれない。
洗面所で手を綺麗に洗い流し、顔を洗う。
冷たい水が燻った熱を冷やす。
このまま眠れるのだろうか?
ちゃんと朝には好きな人の前で笑顔で居られるだろうか?
10歳のボクを慰め、16歳のボクに謝らなければ…君たちを幸せにしてあげる為に
ボクは今のボクを大事にしたい。
羊を数えて、さあ、もう一度。
あとがき
あいせくんと恋人同士になる前〜初夜になるまで、沢山の散り散りになった意識を日々あおめくんは取り戻していったのだと思い書き綴りました。
そして眠れない日がとても多かったあおめくんは、お付き合いをはじめてから暫くしてある日を境にあいせくんと夜、何もせず同じベッドで眠ることが多くなります。
最初はドキドキとするも相手の心音が心地よく、満たされるように穏やかに眠ることが出来たようです。良かったね。
愛情は体を繋げる事だけでは無いと理解しあいせくんの真摯な愛を受け取りました。
可哀想なお姫様は、過去の自分を幸せにする為に、今の自分や愛する人を大事にして愛を育んで行くのだと思います。
終わり