泥むれど織りなし底は清き水「…マヤさんみたいな方が理想ですね。」
どこか遠回しに自分の気持ちを吐く。
けれど、きっとこの聡明な人はもう見抜いている。
「…それは光栄だが、俺みたいなのを好きなると苦労するぞ」
そう、友人のマヤさんは無性別でアロマンティック、つまり他者に恋愛感情を感じないが、性的感情は抱くこと人の事。
「…一方的に好きではダメでしょうか?ほら、体だけとか……せ、ふれとか……」
振られる前提で言葉を紡ぐ。情けなくなって私はもうマヤさんの目は見れずに手元の白ワインの入ったグラスを見つめるしか無かった。
酔った勢いにしたかった。ただお互い酒に強いのを知ってるので、意味は無いのだけど。
「…お前はそう言うの向いてねーだろ。一人の友人として、お前の好意は嬉しく思うが…俺は晶の事を幸せには出来ない。」
バッサリと言いきられる。そりゃそうだ。
解っていたこと。
私は、いつもこんな感じで終わってしまうな……求めても与えられる事はきっと、この先ないだろう。
「ははっやっぱり向いてないですよね。こういうの…」
苦笑いしか出来ない。
「いや、俺が恋愛に向いてないってだけ。
お前は悪くないよ。…恋愛に疲れて死にたくなったらその時は抱いてやる。」
「それはまた…残酷ですね」
「俺はそんな人間なだけ。あと、晶は遊びで割り切れるたちじゃないだろ?」
流石は…よく見抜いている。
真面目しか取り柄がない。勉強ばかりして来た私には他に取り柄もない。
そしてしまいには叶わぬ恋ばかりしてしまう。本当に、私は馬鹿だ。
「ただ、俺の返せる最大の愛は友愛なんだ……それなら、大切な友人のお前に返せる。気持ちは嬉しいんだ。…すまない。」
「…そんなところも好きです。」
残酷なほど優しい。少しぶっきらぼうで口が悪いけれど、そんなところがとても好きだ。
「お前は、けして悪くない。…殴ってもいいぞ。」
マヤさんは不甲斐なさそうに眉間に皺を寄せる。今までもこうやって受け取れない愛を囁かれてきたんだろう。最初の突き放す様な言い方をしないと、相手が次に行けないからと…
1つ深呼吸し、頭を冷静にさせる。
私はきっと酔っていたのだ。
「私の大切な友人を殴ったりなんか致しません!…そうですねぇ、貴方が道に外れたらその時は殴ってやります!」
そう言い切るとマヤさんは吹き出し、やっぱお前は良い奴だよ!とお腹を抱えて笑った。
好きだけれど、人として好きなのだと思う。
この人を好きになって良かった。
まだ、抱えるものはあるけれど。
私は割り切れない人間なので、愛してくれる人が居たら…良いななんて、まだ思っている。
私は馬鹿なので、また報われない恋をしてしまうんでしょうけれど。
そんな中、弟の様に可愛いがっている(と言っても背が高くて私の方が年下に見えるが)あおめさんからシェアハウスに住まないかお誘いがあった。
沢山の人が住むシェアハウス。
出会いと言うよりも、視野を広げるのも悪くないかも知れない。