犬と虎「モクマさん。そちらの毛玉殿は、一体どうされたのですか」
チェズレイの秀麗な顔が呆れたように歪み、その瞳は信じられないものを目撃したかのように幾度も瞬きを繰り返す。答えはわかりきっているものの、口にせずにはいられなかったのだろう。戸惑いの色を含んだ紫電の輝きはモクマの開いた胸……ではなく懐に注がれていた。
「いやね。道端をふらふらっとしてるのを見つけて、うっかり目が合っちまったもんだから、ほっとけなくてね」
たはは、と困ったように朗らかに笑いながら、脱いだ羽織に包まれた中身を大事そうに抱えている。その中身はもぞもぞと動き出すと、隙間から頭をぴょこんと覗かせた。
「……クゥン?」
可愛らしい鳴き声に、チェズレイの動きがピタリと止まる。
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