ショートカットの理由 かわいた秋風が花梨のうなじを撫でた。その冷たさに、思わず首の後ろに手を当てる。もし、髪を切っていなかったら──、と久しぶりに思う。
「……え、花梨の髪って、長かったのか?」
振り返ったイサトが、驚いた顔をして花梨をみた。声に出ていたのだろうか、と思いながら、花梨は答えた。
「うん、そうだよ。イサト君とまでは言わないけど、結構長かったんだ」
「へえ、貴族の姫様みてぇな?」
「うーん、彰紋君みたいな感じにパーマかけてた、かな」
「僕のような、ですか?」
今度は隣を歩いていた彰紋が口を挟む。やはり、驚いていた。
「うん、夏休みに入ってすぐパーマかけて、新学期が始まる前にそこだけ切ったの」
校則に引っかかるから、と花梨は言った。言っていることの半分ほどわからないイサトと彰紋は顔を見合わせる。
そんな二人の様子には気づかない花梨の脳裏には、この世界に来る前のことが思い出されていた。新学期に合わせて、髪を切って、靴も下した。友達に誘われた寄り道をなんとなく断って校門をくぐったら、流れ星と紅葉に導かれて、この世界に来ることになって──。
と、
「僕は、あなたのその髪型、好きです」
「え、本当?」
「はい、はじめは驚きましたが……花梨さんらしいなと思います」
「オレもそう思うぜ」
「ありがとう、ふたりとも」
正直切りすぎたかな、と思っていたので、ふたりの言葉に、花梨は少しうれしくなる。それに、長い髪のままだったら、こちらの生活は骨が折れただろう。なんせ入浴が一週間に一回くらいなのだ。その内容も、花梨のいた世界とはまったく違う。最初は戸惑ったが、今はキャンプしているような気持ちで過ごしている。
でも、と花梨は自分の、短い後ろ髪を撫でた。髪を切った日から、今日までが、すべてつながっているような気がした。