肴は、思い出話で「おや」
「……なぜ」
別当殿の眉間に皺が寄った。文でも挟めそうな、秋の京を彩る紅葉のように見事なものだ。
「伊予の大海賊ともあろう貴方が、なぜ京を闊歩しているのかと聞いているのです」
まるで尋問のような問いかけに、やれやれと肩をすくめる。久方ぶりに遠路はるばる京にやってきて、さっそく知り合いに出くわしてしまうとは奇妙なものだ。やはり京は狭い。
「交易だよ。さして珍しくはないだろう? 検非違使別当兼中納言……いや、今は大納言殿だったか」
「どこでそれを」
「検非違使別当殿の噂なら、京にいなくても耳に入ってくるよ」
別当殿の働きぶりは、帝の覚えもめざましく、かつて彼が院と親密だったことも忘れられているのではないか、と邪推するのほどにね、と片目を詰むって見せる。別当殿のため息が聞こえる。
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