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    am_mhko

    @am_genkooo

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    am_mhko

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    盗賊団時代のブラネロ
    時期的にはそんなに死にてえなら…あたりです。
    ※これは少し長めのポエムです

    ある夜のはなし「てめえら、裏閉めてこい。あと、備蓄の確認も」
     
     おす!と威勢の良い声が重なり、てきぱきと動き出す。部下たちの指示が済んだら次は自分の番だ。調理場に向かって、頭の中で今ある食料で何日凌げるかを計算していく。肉が足りないから豆を使うか、しかしそれだとこの盗賊団の首領であり、ネロの相棒である男、ブラッドリーが満足しないだろう。
     
     こりゃしばらくは猛吹雪でろくに出れねえな、と帰ってすぐブラッドリーが言ったのは数時間前だった。盗賊団にはそれほど強くない魔法使いもいる。ブラッドリーやネロなら吹雪の中でも耐え凌げるだろうが、仲間たちみんなとなると引きこもる方が安全だ。
     ブラッドリーが言うには、オズの機嫌がどうにも悪いらしい。オズというのは世界最強の魔法使い、規格外の強さを持つ、伝承に出てくるような、燃えるような赤い瞳をした怪物なのだとか、ネロはあまり見たことがないためよく知らない。
     ただブラッドリーが時折城に盗みに入ろうとし、雷鳴の轟く吹雪の中、死にかけて帰ってくることがあったので、今回もそれに似たものを感じたのだろうと推測した。脳天から稲妻に撃たれて仲間がマナ石になるのは見たくない。
     あの城に行ってよく帰ってこれるものだと、仲間たちと共にボスを称賛し羨望した頃もあった。
     今では、そんなに死にたいのかと、半ば諦めのような気持ちが背中に張り付いている。それなのに、死なないで帰ってきてほしいという願いが心臓を動かして血を巡らせている。
     ブラッドリーが帰らない夜、鼓動がやけにはっきりと聞こえ、ベッドに沈めた背中は硬く強張って、目を瞑っても眠気が訪れないことがある。
     
     今日もそんな夜の明けた、ブラッドリーの数日ぶりの帰還だった。珍しく血塗れになってない姿にほっと息を吐いて、ネロは数日籠るための準備を始めたのだった。
     
     ◇
     
     夕食の後、片付けをしながら晩酌のつまみを用意する。これがネロにとってのルーティンだ。当人がいない間もいつでも用意できるようにと乾き物や木の実のオイル漬けを作っていた。ただ、肉を所望される方が圧倒的に多く、これらはネロがつまんでいるのを奪うように食べられることが多いが。
     なにもしないというのがかえって難しいのだ。習慣とはそういうものだろう。
     しかし今日は本人がいる。数日間外に出れないことを考えても久しぶりに肉を食べたいだろうし、何を作ろうかと戸棚を確認していると、ブラッドリーが顔を覗かせる。
     
    「ネロ、今日はいい」
     
    「………え?」
    「聞こえなかったか?
     今日はいらねえから、片付けたら終わりでいい」
     
     ガツンと、鈍器で殴られたような衝撃に胸が軋み、頭の中は真っ白になった。なにか返事をしなければ不自然極まりないと、どうにか絞り出して、わかったと返事をする。
     何か貰ってきたか奪ってきたか、自分の作るものより優先されるなにかがあるのだろうか。
     自分が碌な顔をしていないのがわかる。ブラッドリーの顔が見れず、俯いたまま冷たくなった指先が所在なさげに洗い場の端を撫でた。
     
    「あー…ちげえ、そうじゃねえよ、ネロ」
    「……なんだよ」
    「こっち向け、おら、顔見せろ」
     
     ブラッドリーが近づいて来て、白くなった頬にそっと手を添える。日陰者の太陽と称される幸運の指輪が、冷たく、しかし優しげに触れた。指に促されて視線だけあげると、そこにあったのはどこか困ったような顔をした相棒の姿だった。
     
    「ブラッド」
     
     ネロの言葉が続かなかった代わりにブラッドリーの口から息が漏れた。
     
    「ひでえ顔してんな」
    「…………うるせえ」

     どんな顔をしているんだ。自分は。自分でもわからないのだ。これが、どんな感情なのか。
     飯が食えればいいんだろう、自分じゃなくて、自分がいなくてもブラッドリーはやっていけるし、だからここで傷ついた顔をするのはおかしいんだ。
     それがわかっているから、ネロは自分がどんな顔をしているのか、知るのが怖かった。知ってしまったら、認めるしかなくなるだろう。
     
    「あいつらが、てめえが最近寝てねえって言ってたからよ。今日は早めに寝させてやろうってな。それだけだ」
    「別に、このくらい大したことじゃねえし……」
    「俺様の晩酌の用意を大したことねえっつうなら、それこそらしくねぇだろうがよ」
    「………わかったよ」
     
     こいつのこういう馬鹿じゃねえところが、堪らなくさせるのだ。揺さぶられる感情を他所に、ブラッドリーという掟の中での正論をぶつけられる。それは相手の心臓を的確に射抜くのだ。そうなるともう、降参するしかない。
     はたして寝れるんだろうか。ルーティンというのは一つの儀式のようなもので、ネロにとって寝る前にブラッドリーのために食事を作るというのが当たり前で、取り上げられてしまったら、どう振る舞うのが正解なのか分からなくなる。
     
    「子守唄でも歌ってやろうか?」
     迷子のように瞳を揺らしていたネロの隙を縫って、ブラッドリーがエプロンを外しながら耳元で囁いてくる。耳にカッと血液が集まって熱を帯びた。
     
    「なっ、ンな歳でもねえよ、やめろ!」
    「あっはっはっ!ちっとは健康的な色になったな」
     
     軽快に笑ってから頬をつまんでぐにぐにと弄ってくるので、ネロも仕返しにブラッドリーの脛を爪先に力を込めて蹴る。ちなみにこれは結構痛いやつだ。ブラッドリーにもちゃんと効いたらしい、が、頬をつまんだ手は意地でも離さなかったせいで、ネロの頬が赤く染まることになった。
     先程まで体に埋まっていた氷が溶けて、甘ったるい感情が湧いてきて、氷砂糖が溶けたコーヒーのように苦味と甘味がネロの心に共存している。
     
    「………寝る」
    「おう」
     
     なんだか照れ臭くなってきて、触れた手を振り切って部屋に戻ろうとした時、異変に気づいた。
     
     魔力の気配がする。ブラッドリーの腹から。
     近づいても触れてもすぐにはわからなかった、というより先程までは心が揺れすぎて気づけなかったのだろう。
     悟ったことを隠す気もなく、ネロはブラッドリーを睨みつけた。
     
    「ネロ」
     
     低く冷たい声が、言外に踏み入れてはいけない矜持のラインを示していた。どうやら知られたくないことらしい。そんなの構っていられるか、と腹に触れようとした手を掴まれる。
     
    「ひしゃげたりんごみてえにゃ、なりたかねぇだろ。触るんじゃねえよ」
    「……何を隠してんだ」
    「説明すっから、部屋来い。
     けど絶対触るんじゃねえ」
     
     スキンシップが好きな男からこんな台詞が出る日が来るとは、引き絞られた胸の痛みなど無視して、ネロはブラッドリーの背を追いかけた。
     
     ◇
     
     それは、呪いのようなものらしい。
     オズの攻撃が流れ弾のように腹に当たったはずだったのに、特に外傷もなくその違和感よりもさらに戦える高揚感を優先した結果、その後使った魔力が跳ね返るように蝕んでいる、らしい。
     
    「見たところ、本当に何もねえ…」
    「だろう?」
    「触ったらてめえに返るかもしんねえからな」
    「……別に、いいだろ」
    「あ?」
     
    「よかねぇよ。てめえがいねえと困るぞ」
     
     ブラッドリーが眉を顰めてから、ふっと目を細めた。こんなときはいつも、頭をくしゃりと撫でて、不敵に笑いながら自分を大事にしろという顔をするのだ。
     だが今日はいつもより少し遠めに座ったから、髪を掻き撫でられることもなく、凪いだ瞳でネロを見つめている。
     
     自己犠牲的に聞こえて、そうではなく、ブラッドリーとネロが揃えば無敵になれる気がする、そんな瞬間を幾度も共有してきた。だからネロが必要なのだと、強くなるために、強くあるために、必要なのだ。
     
     死ぬかもしれない戦いのために。
     
     そういうものなのだ。
     相棒という関係の行き着く先に、ネロは幾度も別れを予感した。
     
    「ブラッド」
    「今日はさみいから」
     
    「は……っ、珍しいこともあんだな」
     
    「…………うるせえ」
     
     寒さを分け合うように共寝した夜を、血が乾いた指先同士を触れさせて、肩を寄せた夜を、思い出すように、言う。
     寒さなんてどうにかできるようになった。それでも共にいたい夜の、まじないのような、そういう言葉。語るまでもなく理解したブラッドリーがベッドから柔らかい布を二人にかかるように引き寄せた。
     
     寝ているうちに間違って腹に触れないようにと施された防護の魔法の優しさが残酷だ。いっそ、道連れにしてくれるような男なら、楽なのにと目を閉じた。
     
     聞こえる鼓動が自分のものじゃない夜、なぜだろうか、深く眠ることができた。
     
     
     終
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