身勝手な自己犠牲「ピエール、肩を貸してくれ、デボラを馬車へ!ピエールはそのまま出てこい!」
気を失わずに済んだのがよかったのかいけなかったのか。
耳にうっすら滑り込む夫の言葉は意識を浮上させるには十分な内容だった。
「ちょっと…どういうつもり…」
わかっている、回復手段がないのだ。
回復ができるピエールと交代させられた。
わかっている、足手まといであることは。
子供たちが私を呼んでいる。
ピエールが大丈夫ですよと宥めている。
息子は唇を噛み締め、剣を持つ手が震えている。
娘は青ざめながら母と父の名前を交互に叫んでいる。
「参ったな、負けるつもりはないんだが」
夫は…
あのミルドラースよりも巨大なエスタークを見上げて苦笑した。
「王子、回復はピエールに任せろ。フバーハはキミにしか唱えられない」
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