メタクロマジー: トルイジンブルーの苦悩 日曜日の夜。家で仕事をしながら夕飯のことを考えていたらインターホンのチャイムが鳴る。
「こんばんは。突然ごめん。」
扉を開くと同じ学校に勤務している保健室の先生、紫嵜流がいた。
「実は、ご飯作りすぎたから持ってきたんだけど。」
嘘。明らかに2人分作ってきている。…あの日からだ。あの日から流先生はご飯がどうとか色々理由をつけて私の家にやってくるようになった。
「お土産のお菓子も持って来た。あの店の練り切り餡が好きって言ってたよね?」
流先生は何度も突き放しては逃げている私を必ず追いかけて捕まえようとしてくる。年頃の2人が学校という狭い世界でずっと一緒にいたら周りからどうなのって噂されるだろう。彼は自分の素性は全く明かさない人にずっと振り回されている。こんな人間の相手は嫌でしょ?流先生。それなのに。それなのに….なのに!
「…な、なんで!?」
「うわっ!?な、何!?」
私は他人に迷惑をかける体質をしているから、周りに被害がでないようにちょうどいい距離感と関係性を保つためにわざと迷惑をかけることをしている。自分や他人の恋愛なんて興味ない。化学にしか興味ない。今まで周りにも生徒たちにも自分のことは話さなかった。流先生からお願いされたって、自分のことは必要最低限しか話さないし。…いや、もう少しは話すかな?これからだって、この先も…そう、なのかな?
…ん?私が自分のことを話す?これから?この先?
「本当になんで…?どういうこと!?」
「今度は何!?本当に何!?怖いんだけど!?あ、もしかして変なものでも食べた…!?それとも今来ちゃダメだった!?ダメなら帰るけど…」
「えっ、あ、こっちの話!違うの!だ、大丈夫!大丈夫だから!来てくれて嬉しいし、変なものは食べてない!食べてないよ!玄関で放置してごめんね、ずっと外いたら風邪引いちゃうし入って!」
「ん、お邪魔します。キッチン借りるね。」
いつも通り、キッチンに立って料理を温め直しつつ、なにか作り始めた。なんだか最近キッチンに物が増えているような?私の家なのにキッチン周りのことは流先生の方が詳しそう。
「あ、お皿並べてもらってもいい?...割らないようにね。」
「もうしないよ!あの後お皿弁償したじゃん!」
「ほんとかな〜。…お皿並べたら何もしないで座って待っててね。」
「だからしないってば!!」
流先生に言われた通り座って待つ。少ししたらキッチンからいい匂いがしてくる。流先生の作るご飯はなんでも美味しい。流先生が家に来る度に今日は何を作ってもらえるかな、とワクワクしている自分がいる。最初は作ってもらっちゃった〜!くらいでいたけど、最近は一緒に食事する度にあ〜胃袋掴まれてるな〜と思うようになった。
「はい、できたよ。」
「美味しそう!いつもありがとね、な〜ちゃん!いただきます!」
「よし、俺も食べようかな。いただきます。」
学校のこと、美味しいお店があること、今日のこと、明日のこと...くだらない話をして笑い合う。
「…これがトルイジンブルーの気持ちなのかな?...気をつけないと、私もすぐ染まっちゃうかも。」
「…トル….なんの話?」
「な〜ちゃんにはわかんなくていい話だよ!ごちそうさまでした!」