バトルイン蒼穹山:砕け散るまで戦え! ~「退屈しきったシステムの遊び」最後に立っているのは誰だ!バトルイン蒼穹山:砕け散るまで戦え!
~「退屈しきったシステムの遊び」最後に立っているのは誰だ!
その日、雲の上の蒼穹山は異様な熱気に包まれていた。
蒼穹山十二峰の峰主たちが戦うというのだ! 武器は無制限。
どんな卑怯な飛び道具でも許される。どんなエグい呪符でもOKだ。
その決まりはただ一つ。
「漢どもよ! メイド姿で戦え!!!!!」
ロングOK、ミニスカOK、スリットOK。見せてはならぬものをポロリさせるのとその場で失格!! むろん命が危険になった時は医師が止めることもできる。
得点方法は五割が強さ、五割が美しさ。
一位に輝いたものの望みは何でもかなえられるのだ。
「そもそもだれがこんなことを考えたんだ!」
柳清歌は怒り狂っていたが、その妹はうっきうきで兄の化粧に余念がなかった。
既に髪はキラキラに結い上げられて白いひらひらのヘッドドレスで飾り立てられていた。泣きぼくろがあざとすぎて失神する乙女が死屍累々。柳清歌がまとっているのはあえてのロングスカートだ。
とにかく皮膚、いや、お肌のきめがまるで白磁のようで、毛穴がない。ちょっと顔に粉を振って紅を口に刺しただけで、堅固な城も土台からガッタガタになるほど美しい。
「お兄様、素晴らしいです。お腰がこんなに細いのですから、もうすこし腰を締めてみましょう!!」
柳溟煙はちょっと涙ぐみながら、兄の腰を「こるせっと」で占めていた。それは安定峰より供給されたものである。
「おい、おい、しめすぎだっ! 息ができん!!」
「がまんなさってお兄様! ほら、ヒッヒッフ~」
「くっ。いっそ殺せ。これも勝つためなのか……」
対戦順序はランダムである。ぶっちゃけそれはシステムが選んでいる。
むろん、勝つのは岳清源に決まっている。この蒼穹山で一番強いのは岳掌門だからだ。
そしてまた美しさでも折り紙付き。仙姝峰のお裁縫名人たちの手にかかれば、この大男でもちゃんと着こなせるメイド服を作ってくれるのだ。
岳清源のムッキムキの胸筋も、名人の手にかかればボンと突き出たバストに見えないこともない。しかしその頑丈な脇腹はどうしたって締められないので寸胴である。
岳清源が着こなすのはあえてのミニスカだが、ゴリゴリの脚を美しく見せるためにニーハイを選んだ。ひらひらのスカートとニーハイの間の絶対領域にはきらきらする何かを塗りたくって美しく装っていた。
どんな姿でも美しい、岳清源。筋肉の鎧をまとって土俵入りである。
「まさかこんな決勝カードが最初に来るとは……システムの奴め、蒼穹山を滅ぼす気なのか!」
沈清秋ははらはらしながら柳VS岳のバトルを見守った。しかし勝負は一瞬でついてしまった。
柔らかなメイド服は岳清源の霊圧に耐えられず、開始二分で砕け散ってしまった。最低限の布切れとニーハイを残して風と共に散っていった。
「勝負は時の運。潔く負けを認めよう」
岳清源はにっこり笑い戦場を後にした。柳清歌は蒼白な顔をして立っていたが、「うっ」と言ったまま失神してしまった。
締めすぎたコルセットのせいか、至近距離で岳清源の半裸ニーハイを拝んだせいか。おそらくその両方だ。
「そこまで!!!! 救護班前へ!」
木清芳が鋭い声で叫んだ。ドクターストップである!
すかさず安定峰の尚清華が叫んだ。
「次の方、戦いのご準備を!」
次の戦いは苦行峰VS萬剣峰。苦行峰なので只管打座して動かない!
萬剣峰の峰主・魏清巍は、百万の剣が地面にズブズブと突き刺さる固有結界を出して、苦行峰の峰主の隙を狙うが、つけ入るすきなどない。そしてその恐ろしい心象風景は、戦う二人にしか見えないものだった。
なので見た目には剃り上げた苦行峰の峰主のまぶしい禿げ頭が光るのが珍しいだけだった。二人ともメイド姿は全然似合わない。
何が起こっているのか誰にもわからない。ふたりは全然動かないのでこれは千日くらい続くのではないかと思われたとき。
魏清巍が立ち上がり、「私の負けだ」と言った。
わけが分からないうちに二人の心の中だけで行われたバトルだった。
滞りなく誰も怪我せず(苦行峰峰主も怪我無く勝ち進んだ、毛が無いだけに)峰主たちの仁義なき戦いは続いていった。
斉清萋VS沈清秋の戦いは、岳清源VS柳清歌についで掛け金が高いものとなった。斉清萋のメイド姿は、胸元を大きく開いた大胆なもので、寄せて上げた胸の谷間が白いレースの襟から透けて見える。なかなかの絶景である。
いっぽう沈清秋は漆黒のロングドレス姿、手袋も黒、いつもよりも肌の露出度が低いほどである。メイドというより美しい死神のように見える。
たて襟が首まで覆っており、ごくわずか頬のあたりに編んだレースがあしらわれている。沈清秋は長いドレスをこともなげにさばきながら、まるで舞踏会に行く貴婦人のように斉清萋の前に立った。
「言うまでもないが、師兄よ、わらわ相手といって手加減無用じゃ」
「もとより。舞の名手である師妹相手に、むさくるしい私が手加減などできるはずがない。さあ、本気で行くぞ!」
そこから始まった斉清萋VS沈清秋の戦いは、世にも美しいダンスバトルとなった! 二人が戦って、いや、舞っているところは男どもの汗をさんざん吸った百戦峰だというのに、まるで花園であるかのようだ。おまけにいい匂いまでしてきて、見物人たちは勝負の掛け金も忘れてうっとりと見入っていた。いっそ音楽がほしいところである。
舞の勝負は斉清萋に利があると見えた。常日頃、洛冰河とあれやこれやしてすっかり腰が鍛えられている沈清秋も、かなり粘った! しかし勝負は一瞬であった。沈清秋が一瞬バランスを崩し、優雅に手をついて、「私の負けだ」とあっさり降参したのである。しかし尻もちをついたわけではない。
「あ~」
沈清秋に賭けていた見物人たちが悲鳴を上げた。負けた沈清秋が立ち上がると、きれいな手布に何かを包んで、そのまま斉清萋の手の中に押し込んだ。すると斉清萋はわずかに顔を赤らめた。手布に包まれていたのは、踊っている最中に斉清萋が落っことした、胸の詰め物だった……。
沈清秋はわざと手をついて、落ちていた胸の詰め物を隠したのだった。しかし勝負は勝負である。勝ち進んだのは斉清萋。そのことに気づいたのは尚清華一人だった。尚清華は思わず独り言を言った。
「瓜兄、紳士じゃん……惚れてまうやろ」
そうして順調にバトルは進んだ。優勝候補が相次いで脱落してしまったので勝負の行方は見えなくなった。
さて、ダークホースが最後まで勝ち進んでいた。安定峰の峰主、尚清華である! 比較的小柄な彼は、桜色の愛らしいメイドドレスに身を包んでおり、明るい色の髪を二つに分けて、化粧まで抜かりなく「きれいというよりカワイイ」仕上がりだった。
か弱い尚清華は、試合が始まると意外な強さを発揮した。
剣の腕前に関しては大したことはない。だが逃げ足が速い。賢いネズミのように、すごくすばしこい。
投げて飛ばしてくる剣すら避ける。そうして逃げている間に、不思議なことに対戦相手が動けなくなる。わけがわからないうちに体が凍ってしまうのだ。
そんな感じで酔仙峰の峰主はすっかり酔いが醒めた様子で、自分の凍った足を見つめていた。
「これはこれは。酒が足りなかったようだな……」
「そこまで!」
千草峰の木清芳が駆け寄ってきて、戦いの中止を命じた。いつもまとっている地味な朽葉色の衣の上に、ゆったりとした白い衣をまとい、髪も白い頭巾で覆っている。手術をするときの身支度のようだ。
木清芳が急いで呪符を使って応急処置をすると、酔仙峰の峰主は歩けるようになった。
弟子たちが駆け寄ってきて、急ごしらえの救護所まで肩を貸して連れて行こうとしている。木清芳は弟子のあとについて行きかけて、振り返って言った。
「尚師兄。次の試合は誰と誰ですか」
そういわれて尚清華はきょろきょろとあたりを見回した。そして何かに気づいたように木清芳を見上げた。
「次は木師弟と私のようだ。きみは無理しないで棄権したらどうか」
木清芳はにっこりと笑った。その刹那、白い衣を脱ぎ捨てたと思うと、下から朽葉色のメイド服が現れた!! ひげのメイドここに爆誕す。
そして木清芳はほんのちょっと怒っていた、たとえ最弱の峰主であってもプライドはある。
「か弱い師姉でさえ戦ったのですから、男の私が逃げるわけにはいきません」
「か弱いって? 君よりは強いよ。きみは蒼穹山十二峰でも最弱、無理すんな、そういうふうにできてるんだよ!」
「やってみなければわかりませんぞ、ここで師兄に勝てば私は少なくとも最弱じゃなくりますな!」
ヒゲのメイドの手から種のようなものが放たれた! それはあっという間にバトルアリーナに草を生やし、尚清華のブーツをはいた両の足をがっちりと止めたものだから、もう尚清華は動けなかった。
「卑怯なり、木師弟!」
「弱いものは弱いものなりの勝ち方がある! 師兄、師姉を倒し、お予算を手に入れます」
木清芳はメイド服の袖をちょっとめくり上げた。すると手品のように手術用のハサミが現れた。シャレにならない風情である。
「何をする気だ!!」
「師兄を痛めつける気はありません。お召し物を切らせていただくだけです、その時点であなたは失格です」
そういって悪徳医師は二、三歩歩きかけた。尚清華は小声で言った。
「助けて大王」
白いつむじ風がひゅんととんで、もう木清芳はそこには居なかった。放物線を描いて飛び、池に頭から突っ込んで、泥池に生えたスケキヨのようになっていたからだ。
こうして番狂わせがあったが、最終戦は尚清華と、斉清萋の一騎打ちとなった。今度ももちろん、尚清華は勝てるつもりだった。大王にそっと手を貸してもらってずっと勝って来た、案外楽勝だ!
もちろん尚清華は踊れないのでダンスバトルはしない。剣で決着をつけるのだ。表向きは。
「先に降参しても良いぞ、師兄」
斉清萋が冷たく言い放った。さっき尚清華が木清芳に言ったのと同じセリフだ。
「言われて気持のいい言葉ではないな。あとで木師弟に謝っておかなければ」
「何だ?」
「師妹こそ無理をしないでいいよ、もう若くないんだから」
「なんじゃと〜〜!!!」
怒った斉清萋が剣を振りかざして飛んでくる。
「大王、出番ですよ!」
しかし漠北君は影響されやすい男だった。尚清華に「惚れられる」には、沈清秋みたいに、女に優しくしなければならないらしい。
「女は、殴れない」
「なんで!!」
気が付いたら尚清華の体は吹っ飛んで、遠くの泥池に投げ込まれ、スケキヨ第二号となっていた。
こうしてバトルイン蒼穹山は終わった。
「強いのは私! 尊いのも私じゃ!」
男どもはしばらく斉清萋のドヤ顔のに耐えなければならなかったとさ。