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    らんじゅ

    すぎさく運命論者兼杉下に囚われる者
    色々捏造をする
    とみとが、うめ、らぎ辺りも描くかも
    パスは大体「」の中の英訳です

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    らんじゅ

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    ピーチ姫される🌲くんの話
    相棒っていいな、が合言葉
    捏造に捏造を重ねている
    CPなしのつもりで書いてるけど🌲🌸、🍅💊(🍅)、🍅🌲あたりが香るかもしれない
    ぼんやりゆっくり……

    龍討伐クエスト 梅宮一と云う男は、龍である。
     荒ぶ嵐であり、猛る炎であり、人を照らす太陽である。夏の日差しのように灼熱の視線を投げたと思えば、柔らかな春の木漏れ日のように優しく微笑む男であった。屋上から街を見下ろす梅宮と云う龍は、数多の人間を虜にしたのだ。新雪の色の髪を揺らして翡翠の目で真っ直ぐに見つめられれば逸らせはしないし、目が眩むほどの笑みを浮かべて少々強引に腕を引かれてしまえば、老若男女問わず大抵の人間はボウフウリン総代・梅宮一を好きになる。
    ギラギラと降り注ぐ熱と光は、杉下京太郎という男を捕まえて離さなかった。長ランを靡かせ背筋をピンと伸ばして前を向く梅宮の背に、杉下はどうしようもなく憧れを募らせるのである。


    ☀︎


    「ねぇ、お兄ちゃんふーりんの人?」

     キャリン、カラン、と風鈴が澄んだ音を立てる。夕日が映り込んで飴色に光る瞳が、己のスラックスを掴んで見上げていた。見下ろす先の幼い子供は、お世辞にも優しげな印象はない杉下をジッと見つめて静かに返答を待つ。杉下がコクン、と頷けば、肩から夜色の髪がさらさらと流れ落ちた。己を見上げる飴色が数回瞬いてまた口を開こうとするので、杉下は膝を折って子供に目線を合わせる。

    「……なに」
    「あのね、ふーりんの人を呼んできてって言われたの。一緒に来てくれる?」
    「……誰に言われたの」
    「わかんない。知らない人」
    「……そ。どこ?」
    「あっち」

     杉下はため息をひとつこぼして立ち上がると、子供をヒョイと抱えて歩き出す。子供に歩幅を合わせていれば暗くなってしまうからだ。杉下は子供が案内する通りに歩く。
    子供はゆりと名乗った。ゆりは公園で友達とままごとをして遊ぶより知らない路地を曲がって探検をするのが好きらしく、今日も帰りのチャイムが鳴るまで探検をしていたそうだ。チャイムも鳴ったことだし帰ろう、としたところで声をかけられたのだと言う。我らが龍の棲家とはいえ危ないからやめろと言いたいところではあったが、楽しそうに語るゆりの顔を見てしまえば杉下は口を噤むしかなかった。

    「あれ……この辺に……帰っちゃったのかなぁ……」

     辿り着いた空き地には誰も居らず、遠くで民家の軒下に吊されたままの風鈴がコロコロと音を立てるだけである。杉下が見回してみても人影はない。フ、と息をつくと杉下は砂利を巻き込みながら踵を返し、来た道を戻っていく。

    「……家、どこ」
    「あっち」

     ブチ模様の猫を見つけただとか、綺麗な硝子を拾っただとか、やんちゃ盛りのゆりの冒険に、杉下は相槌を打ちながら薄暗くなり始める街を夜の静寂を纏って歩いた。
     面倒で苦手なことから逃げるのを辞めると誓ったのは、丁度梅宮の視線のように太陽がギラつく夏のことだったと思う。その頃より少しばかり涼しくなった今、杉下は人に対して伏せていた目を上げて自ら近づいていくことを実践中である。

    「送ってくれてありがとう、よかったらこれ食べて。ゆり、バイバイは?」
    「お兄ちゃんばいばい!」
    「……あざす……ばい、ばい」

     ニパリと笑顔で手を振るゆりに杉下はぎこちなく手を振って、ゆりの母にもらったたい焼きを齧りながら家路についた。夕飯前に食べて怒られるかな、とぼんやりと考えるが育ち盛りの男子高校生である杉下には杞憂である。

     果たして、誰が風鈴生を呼んだのか?

     ペロリとたい焼きを平らげた杉下は慣れぬながらも思考を始める。助けがいるのならば直接声をかけるはずだ。街の住人と風鈴生の関係は密になっていて、連絡先を渡していることもあるのだから、トラブルがあったのならそれこそ四天王の一角・柊や梅宮、その他四天王を筆頭に風鈴生の内で情報が回るはず。しかしそれもなく、夕暮れに子供が呼びに来るというのは、いささか妙な印象があった。
     もうすぐ日が沈む。暗い夜が来る。明日一番に梅宮さんに報告をしよう、とため息混じりに杉下は顔を上げた。

    「優しいね、京太郎お兄ちゃん。一くんみたいだ」

     暗い夜から声がした。ゾワリと肌がざわつき、一瞬酷く驚いた顔をギュウ、と顰めて、杉下は声のした方向を睨みつける。すると一人の男がぬるりと暗がりから浮き出すように街灯の下に出た。顔に影が降りるその男は、軽く首を傾げるとまた口を開く。

    「ゆりちゃんお手柄だなあ、初手でSSR引いて来た。杉下京太郎くん、君に会いたかったんだ」
    「……誰だ」
    「俺が誰かは重要じゃないんだ。……でも呼び名は必要だよね、そうだな……『シャドウ』でどう?」
    「……うぜえ、失せろ」
    「それは君次第かな」

     この男はまだ、何もしていない。けれど、直感がコイツはヤバいと言っている。のらりくらりと掴みどころのない男は一歩杉下に近づく。また一歩男が脚を出せば、自分の背後からも同じ砂利を踏む音がいくつかすることに気づいた。いつから、囲まれている。

    「一緒に来てよ杉下くん。そうすれば俺はすぐにここから『失せる』よ」

     杉下はシャドウを睨みつけて深く深くため息をつく。
     杉下京太郎の長い夜が始まった。


    ☀︎


     ざわざわと騒がしい一年一組の教室にスピーカーから鳴った予鈴が響く。しかしながら武力はあれども偏差値最低の風鈴高校に通う男の子たちが素直に従うかと言えばそうとも限らず、未だわちゃわちゃとおしゃべりを続けていた。

    「アーイ、座れ悪ガキども〜出席取るぞ〜」

     カラリと教室の戸が開き、のそのそと少しばかりよれたシャツの上から白いラインの入った青いジャージを羽織る男が教卓に立てば、ようやく彼らはおしゃべりを中断して席につき始める。男の名は田中。学生時代は族に片足突っ込んだゴリゴリのヤンキーをやっていた。なんやかんや教師になったが元ヤンバレをした保護者からの印象がすこぶる悪く、風鈴高校に飛ばされた男である。ちなみに風鈴の教師に元ヤンは複数おり、なんと養護教諭も元ヤンである。

    「たなセン、悪ガキはねえだろうよ〜オレたち防風鈴だぜ〜?」
    「そうだそうだ!ゲリラ小テスト反対!」
    「うるせ〜〜!定期テストでどうにもならんお前らに救済を与えてんだろうが感謝しろ!級長!しっかり指導しとけ!」

     先日田中が実施したサプライズ小テストに絡めてブーブーと不満をこぼす男の子たちを田中は心底めんどくさそうにいなし、窓際でぼうっと外を眺めていた級長・桜遥を一喝した。桜はキョトン、と目を丸くした後くしゃりと顰めてぽつりと呟く。

    「……テストはやだ」
    「お前もか!副!」
    「はぁい」
    「はいっす」

     唇を尖らせてむちゃりと拗ねる桜にニコニコと微笑みながら「教えるから頑張ろう?」とピアスのタッセルを揺らして副級長・蘇枋が言えば、同じく副級長・楡井が「勉強会!しましょう!みんなで!」とフンフンとやる気十分に計画を始めた。田中はフ、とため息をつき、手元に視線を落とすと学級名簿の表紙に貼り付けられた付箋で連絡事項を思い出す。

    「あ、そうだ。昨日杉下見た奴いるか?」
    「杉下さん昨日は桜さんとペアで商店街の外周見回りしてましたよね?」
    「鐘鳴った瞬間帰ったぞアイツ」
    「女の子抱っこしてたの見たぜ、東の住宅街の方」
    「迷子でも見つけたか?」
    「そういえばお休みは珍しい……何かあったんですか?」
    「家に帰ってねえみたいなんだわ。栗田、後で職員室。見た場所教えろ」

     杉下が家に帰っていない。教室の空気がピリつき、ある者は眉を寄せ、ある者は近くの者と目を見合わせた。杉下の性格上無断外泊をするような奴ではないことは皆知っている。どこかで動けなくなっているのか、それとも。田中はパンッ!と手を叩いて名簿を開く。

    「ハイ!まずは出席取るぞ、杏西!」
    「……へぇーい」

     楡井が青い顔で桜を伺えば、桜は静かに虚空を睨みつけていた。




    「杉下が?」
    「HRで言ってたの杉下だったのかよ……」

     柊の席で当たり前のようにくつろぐ梅宮は、タレ目を大きく見開いて桜に問いかけた。側で聞いていた松本は驚いたように目を見開くと、適当な椅子を引っ張って来て眉を寄せる柊の横を陣取る。桜たちはHRが終わってすぐ三年一組の教室に訪れた。おにぎりを頬張っていた梅宮は二口で食べ終えるとにこにこと三人を迎えたのだ。

    「……来ねえのに連絡ねえな、とは思ってたんだが……」
    「東の住宅街の方に歩いていくのを栗田が見てる。その後に多分何かあった」
    「さっきから連絡を入れてはみてるんですが既読はつきません」
    「……梅宮」
    「……ああ」

     ジリ、と肌が灼ける。教室全体が熱を帯びて、青く、青く、温度を上げる炎はやがて龍の瞳に宿る。統一までを共に走り抜けた三年生たちは懐かしさすら覚える梅宮の圧は、一年坊のまだ一際か弱い楡井にとっては冷や汗が止まらないものだった。胸の前で拳を握りしめて青い顔をする楡井に気づくと、松本は軽く小突いてくしゃりと頭を撫でる。それを見た柊は机の下でガン、と梅宮の脚を蹴りつけた。柊が顎をしゃくって楡井を指すと梅宮はパッと圧を引っ込めて笑う。

    「教えてくれてありがとうな!あとはお兄ちゃんたちに任せなさい」

     ニッと微笑む梅宮を見てやっと息をつく楡井はいつの間にか入っていた力を抜いた。しかし傍らの桜はバン、と机に手をついて梅宮を睨みつける。

    「仲間が手ェ出されたかもしれねえのに何もするなって?」

     三年生たちがキョトンとする中、蘇枋と楡井は軽く顔を見合わせて笑った。梅宮がちらりと柊を見れば、柊は片眉をあげて応える。ふう、と息をつくと梅宮は桜に向き直った。

    「そうだ、まだ」
    「アイツがそう簡単にやられるわきゃねえだろ。あるとすれば不意打ちか囲んだかだ。そんな奴らが来てんだぞ、動かないで何がボウフウリンだ」
    「棪堂の時とは違う」

     横から口を出した柊をギロリと桜は睨みつける。椅子の背にもたれていた柊はゆったりと身体を起こし、机の上で指を組んだ。下から睨めつけるように桜を見て、柊は話し出す。

    「下手に動いて、勘づかれて、今以上に杉下に危険が及んだらどうする?相手は?規模は?目的は?何か一つでもわかるのか?」
    「それは……」
    「手ェ出すなって言ってるわけじゃねえよ桜。準備をしようって言ってんだ。お前の言う通り杉下はやわじゃない」

     眉を寄せて黙り込む桜を見上げてニコニコと笑いながら梅宮は立ち上がると、パッキリと分かれた白黒の頭をくしゃりと撫でた。
     先の大火では、棪堂によって宣戦布告がなされている。誰が、いつ、何のために、は事前に知らされていた為、四天王率いる全ての衆が戦力増強の特訓をして守りに備えられた。結果的には棪堂が一枚上手で数を揃えて来たのだが、桜の援軍を呼ぶという機転でようやく鎮静化したのだ。それでも彼らが到着するまで耐えたのは訓練をして守りに徹した風鈴の生徒であったし、街が受けた被害は甚大である。それがわかっているから桜は黙るしかなかった。悔しげに俯きされるがままになる桜を見て、蘇枋は僅かに目を細めると、梅宮に向き直り口を開く。
     
    「情報戦には適任がいますよ。ね、にれくん」
    「はえ?」

     蘇枋がニコッと煌めきをたたえて微笑めば、楡井はポカンと数秒読み込みに費やして、それからドッと汗をかいて固まった。桜は身体を仰け反らせて梅宮の手を振り払うとまだ少し不満げに頭を掻いて楡井を振り返る。蘇枋は楡井の背後に回り込むと肩に手を置いてズイ、と梅宮に向かって押し出した。

    「我らが一年一組の情報通です。街の外のことも色々知ってるんですよ」
    「おおおおおオレすか!?」
    「よく質問してくるもんな」
    「ウワァッすみませんッ!!情報収集が趣味なもので!!特に強くてかっこいい人は気になってしまうというか!!」
    「おぉ、落ち着け」

     アワアワと手のひらを擦り合わせて狼狽する楡井を柊は落ち着かせようとするも、柊自身も楡井の『強くてかっこいい』枠に入る人物であるため余計にダバダバと汗をかいて震える。はた、と柊がやけに静かな梅宮を見れば話したくてウズウズとしているモンスターが目を輝かせながら楡井を見ていた。

    「……待て、待て!放課後にしろ!コイツは話し出すと止まんねえ……ッ」

     半ば叫ぶように柊が制止するも叶わず、梅宮は口を開いた。

    「わかるッ!わかるぞ!面白え奴とか強い奴とか気になっちまうよなぁ!オレも風鈴来る前見回りしながら放課後わざわざ柊んとこ通ったんだぜ!?橋の向こうにさぁ!」
    「通った!?いつの話ですか!?詳しくお聞きしても!?」
    「おお、良いぞ!あの頃はボウフウリンの構想を練って準備をしてるときでな?柊の噂を聞いて、どんな奴なんだろ〜ってちょっかいかけてさぁ!そしたらこんな腕っ節が強くて筋が通った良い男じゃんか!もう最高だよな!絶対欲しい〜って思って!大変だったんだぜ!柊説得するの!」
    「なるほど……!?ということは獅子頭連のときのあれは……!」
    「〜〜……コイツまじで……ッ」
     
     鉄砲水のように繰り出されるエピソードは楡井にとってはとんでもないお宝情報であり、きらきらと目に星を煌めかせながらどこからともなく取り出した表紙にマル秘と書かれたノートにガリガリと書き込んでいく。聞きたがりと話したがりが一緒になったら止まらないのである。立ち上がりかけていた柊はへたりと再び座り込んで机の上に突っ伏して深くため息をこぼし、また胃痛がするのか地の底を這うような声を絞り出す。その様を見た松本はブハッと吹き出してカラカラとひと通り笑うと、まだ柊とのエピソードを話し続ける梅宮に声をかけた。

    「ックク……梅宮!母ちゃんが困ってんぞ」
    「誰が母ちゃんだッ!!」
    「……お前だろ」
    「ウオッ背後を取るな柳田ッ!!」
    「さっきから居たわ……」
    「ァッ!クソッ!梅宮ッ!」

     ゴソゴソと柊がポケットを漁ると棒付きの飴玉を取り出して包装を破り、梅宮の口に捩じ込んだ。梅宮は急に口の中に押し込まれた飴玉にキョトン!とすると、そのままモゴモゴと舐め始める。柊はイライラとした様子で「クソ……梶にやろうと思ってたのに……!」とこぼして桜たちを睨みつけた。

    「オラッ!解散だッ!あと二分で始業だぞ走って戻れッ!ぐずぐずしてんじゃねえッ!」
    「はぁい」
    「へーへー」
    「ワァァッすみませんッすみませんッ!!」

     ガルルッ!と威嚇しながら柊と梅宮は桜たちが渋々去っていくのを廊下に出て見送った。柊がフウ、と息をつけば隣からバキン、と飴玉の割れる音がする。ジリジリと梅宮がいる側の肌が灼ける心地がした。酷く苛立った様子を隠さない梅宮を蹴り付けようとすれば、後ろから声がする。

    「梅宮氏、いたずらに一年生を怖がらせるのは感心しない」

     梅宮が肩越しに振り返れば、ピシリと背筋を伸ばして佇む男、広目衆筆頭・水木が眼鏡のフレームを押し上げて位置を調整した。コツコツと水木は二人に近づくと、スマホを取り出して軽く振る。

    「柳田氏から概要は聞いたのだよ。既に四天王には通達済みだ、広目衆に目撃情報は今のところ上がっていない」
    「広目衆に上がってねえなら今聞いた話以上に情報はねえかもな……梅宮、昨日の夜に拉致られたんだったらもう猶予はねえぞ。杉下は様子見ができるほど器用じゃねえ」
    「わかってる」

     ガリ、ゴリ、と飴玉を噛み砕きながら梅宮は壁に寄りかかり、眉間を揉みしだく。飴で糖分も補給し天井を見上げて梅宮は思考を始め、柊はため息と共に首筋を撫でた。
     風鈴高校の東、在来線が走る高架を抜けた先の飲み屋街は、力の絶対信仰を掲げる獅子頭連のシマだ。過去にはいがみ合い、喧嘩が耐えなかった風鈴と獅子頭連は高架を挟んで不可侵を貫いていたが、今や友達である。タイマン勝負のおりに兎耳山にすっかり潰れたあんぱんをあげたのだが、それがどうにもお気に召したらしく時折道に迷いながらも買いに来るようになっていた。

    「見回りを増員するにしたって放課後じゃ……」
    「……東の住宅街……少し逸れれば高架だな……」
    「あっちに行ったかもわからねえ。それに高架のこっちで起こったことまでわからんだろ」
    「兎耳山氏はいたくサボテンのパンを気に入ったと言っていたのだよ、もしかすれば……」

     梅宮はスイ、とスマホを取り出してチャットアプリを開きスクロールして兎耳山のアカウントを探しだす。それを見て柊はギョッとして声を上げる。

    「ンな希望的観測を……梅宮!」
    「知らなければ知らないということがわかるだろ」
    「〜〜ッハァ……聞くなら十亀だ。兎耳山がスマホ見ねえってぼやいてた。オレが聞く」
    「サンキュー、柊」

     本日何度目かもわからないため息をついて、柊はスマホを取り出し踊り場にツカツカと歩いていった。水木が中指で眼鏡の位置を調整しているとポコン、と同時にチャットの通知が鳴る。水木と梅宮がそれぞれ確認すれば持国衆筆頭・椿野、増長衆筆頭・桃瀬が情報がない旨を知らせるものだった。

    「……獅子の手も借りたいものだな」
    「そうだなぁ……全く手のかかる弟だこと……せめて大人しくしてろよ杉下〜!」




    「ハ……ッハァ……」
    「頑張るね〜大人しくしてれば良いのに」
    「……黙れ……ッ」

     ボタ、と汗と共に鼻血が煤けた地面に流れ落ちた。あちこちに擦り傷を作り、ふらふらと夜色の髪と共にその巨体を揺らす杉下は、正面のパイプ椅子に前後逆に座る男を睨みつけた。ぜえぜえとどうにか酸素を取り込もうと喘ぐ杉下の足元には意識のない十数人の男が転がっている。

     全く思い通りにならない狂犬。
     それこそが杉下京太郎なのであった。
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    🙏☺🙏
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