梶、犬になったんか……。
それも、柴犬。小っこいやつ。しかもワシが世話見るんか。
保護者はどうしたん?
柴犬、否、梶隆臣(犬)は器用にもその首のバンダナ─に挟まっていたメモ用紙─を咥え、門倉に渡した。
犬唾液でほんのり湿ったその紙に(うぇっばっちぃのォ)と思いつつも顔には出さず、目を通す。
『ごめん門倉さん!梶ちゃんが犬になっちゃったけど、俺達ジンバブエに出張なの(^_^;)あとシクヨロ☆斑目貘』
「何も分からんわ!!」「ァ゚ウ゚ッ」
「ああちゃう、梶……?に怒ったんやないよぉ」
犬おびえ秋の空、天高く往くジェットの影を常人離れした視力でガン付けながらあんのクソ上司、と吐き捨てる。
覚えとけよ。
その培った眼力で機上の斑目を心胆寒からしめながら、門倉は犬(て言うか、梶。)に向き合った。
大人しくもお座りで門倉の様子を伺っている。
プルプル、それはそれは不安げなマズル。
「梶、大丈夫よ。ええ子やね〜、伏せッ!」「シャッ」
「お手ッ」「ワフッ!」
「おかわりッ!」「ダウッ!」
「やるのォおどれ!!!!」「ワゥ〜ン!!!!」
アォォ〜ン!!
豆柴梶隆臣の利口ぶり、そしてそのポチッとしたお目目を見た門倉はすっかり嬉しくなってしまった。
キラキラ、輝く黒目の艶は梶隆臣そのものなのだ。
門倉優大を惹き付けた、あの綺麗な白目の上で燃ゆる若い闘志。
斑目貘に惹かれてイカレた門倉を、また違う所から魅了した一介の若造ギャンブラー。
ワシの専属、マジで犬になったんか。マジか。
「…仕方ありませんね」「パゥン」
梶は(よろしくお願いします!)と言わんばかりに再度スチャッ、伏せ、尻尾をプリプリ。
濡れた鼻と隙間無く閉じたマズルをクイッと持ち上げて、門倉と視線を交えるのだった。