小さな体に大きな器。
命を狙われた相手を篭絡し、味方に引きずり込んでしまう手腕はいっそ見事と拍手してしまいたかった。
だがそれを発揮するのは自分だけにしてほしかったと思うのは我儘でしかないというのに、阿柴花は正当な訴えだと思っていた。
「坊やはあたしを落としたんですから、大事に、それこそ手中の球みたいにしてもらわねぇといけねぇでしょう」
「え、えぇ~?」
分かりやすく困惑を表に表す坊やこと、自分を鞍替えさせた原因である雇い主に阿柴花は腹の奥から沸き立つ感情を持て余す。
「あたしの全てひっちゃかめっちゃかにしておいて……つれねぇお人だ」
そこがまたいい、とは告げずにいた。
「阿柴花、さん……?」
「はぁ……あんたの口からあたしの名を呼ばれるってのはいい気持ちですが」
「んっ?」
柔らかな幼い子供の唇に親指の腹を押し付ける。
フニフニとした触れ心地は、硬い指先に触れると気持ちがよかった。
「それ以上に気持ちよくしてもらいたいですねぇ……」
ねぇ、坊や、と耳朶に囁く。
こんな甘ったるい言葉、閨を共にした女達にも使った事がない。
「あたしの名を呼んじゃあくれませんか……?」
それだけで、雇われた10億の金なんて不要になるほど、いい気持ちになれるでしょうから。