ひらひら、ひらひら、ひらひら。
薄紅色の広がる景色に、立香は自身の双眼を何度も瞬いた。
まさかレイシフト先で、見事な満開の桜を眺めれることになるとは思いもよらず、故郷にいた頃にも何度か見た眺めに、ついついとして同行するサーヴァント、アーサーの腕を引いた。
アーサーも桜については知識はあるようで、少年に引かれがちに歩きながらも「綺麗だね」と笑ってくれた。
「よし、お花見しよう!団子食べよう!!」
「こらこら、先に通信」
立香がはしゃぐ隣で、アーサーは苦笑を浮かべながらも宥めにかかる。
一応としてはレイシフト。短期で終了目的としているから、同行しているサーヴァントもアーサーのみだ。定時連絡は怠るわけにはいかなかった。
騎士に促されそうだった、と立香は腕に装着していた通信機器で急いでカルデアとの通信を試みた。
通信状況は問題なかったようで、すぐにマシュらとの連絡は繋がった。
その間にアーサーは視線を上げ、頭上で咲く桜を見上げる。
薄紅色の花弁たちが風に揺られる度、一枚、また一枚と舞い上がっていく。
綺麗だなと思うと同時、こんなゆるい風でもあっという間に散ってしまうのかとその儚さにもアーサーは瞳を細める。
何だかいつまでも眺めていたくなるな、と思っていた所、不意に、やや強めに腕を引かれる。
おや、とアーサーが視線を落とせば、目を丸くする立香がすぐ側に立っていた。
「や、その…、どっか連れてかれそうに見えちゃった、」
笑いつつも気恥ずかしげに視線を泳がせるマスターの少年の言葉に、アーサーはしばし、目を丸くする。
程なくしてアーサーは少年が掴んできていた手に自身の手を添えた。
「そんな簡単に連れて行かれたりしないよ」
アーサーの言葉に安心したのか、立香もすぐに笑顔を向け、何度も頷いた。
そろそろ移動しようか、と立香に腕を引かれて、騎士も足を動かし出す。
そんなに心配になってしまったのか、と立香はアーサーの腕をがっしりと掴んで離さない。
そんなわけないだろうに、と微かに笑いそうになるアーサーではあったが、その心配を少しでも和らげば、と少年の手を握りしめた。
花弁の舞う道の中、立香が少し驚きに振り返るも、アーサーの手の感触に目を細めて微笑んで、騎士の手を握り締め返してきた。