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    あさい

    練習日記とボツと作業進捗の墓場
    気まぐれ隠居

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    あさい

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    ビーストパロ
    零敬
    佐倉山×橋向(蓮巳がやったらいいな……という華道家、ほぼオリジナル)
    突貫工事なのでガチで文章がメチャメチャです 雰囲気で読んでください

    全部うそ 楽しくなってきたから続きも書きたいけどこれは一体、何?

    ##零敬

    Once I met the moonlightOnce I met the moonlight

     かちゃかちゃと鳴るシルバーの音。歓談に勤しむざわめきと、揺れるグラスがぶつかり合う煌びやかな衝突音。それなりの格好に身を包んだ紳士淑女を照らす仰々しいシャンデリア。その全てがこの集まりを何か豪華絢爛なもののように見せかけていた。ビュッフェに並んだ料理も虫が食うように減り始めていて誰も見向きもしない。大体みな手元の酒やら目の前の人間の高慢ちきな話題やらしか召し上がりたくないようだ。大して美味しくもないだろうに──反吐が出る。ここにいる人間の大半は、佐倉山の社交場で得た自分の人脈に酔いしれることが趣味みたいなものなのだろうから、まあ十分に酔わせてやってもいいが。
     俺──この倶楽部の主催の一端を担う佐倉山家の嫡男──は、それをボールルームの片隅の椅子に腰掛けて眺めていた。主催は踊らない。場を提供し、そして転がすのみである。
    「佐倉山さま、このあとはいかがいたしましょうか」
     ホテルのスタッフに声を掛けられる。
    「ああ、もう料理はあらかた下げていただいて構いません。あと一時間もしないうちにお開きにしますから」
    「承りました。またお声かけくださいませ」
    「はい。いつもありがとうございます」
    「とんでもない。こちらこそいつもありがとうございます」
     一礼して彼女は去っていった。
    「佐倉山さ〜ん、もう俺帰っていい?」
     するり、と交代するように羽鳥さんが俺の目の前にやってくる。手元には可愛らしい色のカクテルの入ったピルスナーを揺らしながら、さすがホストとも言うべきであろう──、派手な色のスーツを着こなして、いかにも、といった声色を浮かべている。
    「ええ? 羽鳥さんつれねえなあ、残っていけば。もうあとちょっとで終わるし」
    「今日営業響きそうな女の子少ないんだもん。遊んでくれそうな子もね」
    「何回言ったらわかるんだよ、ここはあんたの仕事場じゃね〜の。やめろったら」
    「今日俺仕事休んでまで来てるんだからね。あんたの勧誘に乗ったのだって、人脈どうこう言われたからだし」
    「はいはい、ありがとうな。でも営業はやめろよ」
    「はーあ。天才外科医さまにはわからないだろうね〜」
    「わかるかよ」
     きゃらきゃら、と軽やかに笑って、手の甲を口元に当てる。その仕草すらそれなりにサマになるのだから、こういう夢を売る仕事こそ天職なのだろう。俺はそう思いながら、この現実離れした顔の男が甘ったるそうな酒を口に含むのを眺めていた。
     不意に、羽鳥さんが声を上げる。
    「あ、佐倉山さん」
    「うん?」
    「あっち。来たよ」
    「え? ……ああ、あいつか」
     羽鳥さんが顎で指した先には、紺の着流しを着こなした美しい男が立っていた。千歳緑の髪を風に揺らし、手元の扇子で以て緩やかに己を仰いでいる。その仕草が我が友人ながらたおやかであった。眼鏡の奥に除く柔らかな色の瞳は今日もうすい瞼の間から月光のごとき甘やかさを呈している。
     ──ああ、今日はそういう日か。
    「佐倉山」
    「やっと来たかよ、橋向クン。もう少ししたらお開きだぜ」
     目の前の麗人は扇子を畳んで腰元に刺した。橋向。いわゆる名の知れた華道家である。優れた美的均衡センスとその甘いルックスで人気を博し、華道界の貴公子だかなんだか呼ばれているらしい。貴公子の名の似合う男ではあると思うが、しかしこの着流姿の美しさを前にそう呼べてしまうのはどうも無粋であるように思う。そもそもこいつがどれだけ美しかろうが、この実力を前にそれだけを取り上げるのもナンセンスだ──無論、俺は芸術には明るくないものだから、こいつの美学を理解できたことはないが。
    「最近は忙しくてね。個展の準備にお教室。あいにく暇人ではなくてな」
    「そりゃよかった。あ、でももう料理は下げちまったんだよな。なんか頼むか?」
    「構わん。……ああ、何か飲みたい気分ではある」
    「ソフトドリンク?」
    「ふん、餓鬼扱いするな。シャンパンを」
    「ロゼもあるぜ。どうする」
    「いい、シャルドネで」
    「はいよ。あ、すみません。シャンパンを……ああ、これ下げて赤も一杯いただけます」
    「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
     俺のグラスを受け取ると、給仕はペコリと頭を下げてその場を立ち去った。
    「あんた白の方が好きじゃなかったか」
    「こないだ同僚に飲まされまくってな。しばらくは赤でいい」
    「そうか」
     橋向が俺の隣の椅子に腰掛ける。紺碧の着物が、この男の白皙の艶やかな肌によく映えている。髪と装い、そして肌と瞳。その濃淡のコントラストが、この男の現実味のない月光のような美貌を際立てている。まるで、夜の湖に浮かぶ満月のような──、もう十年かそこらは見てきたはずの相貌に見慣れることはない。
    「相変わらずよくもまあ賑わっているな。いいことだ」
    「何が楽しいんだかな。美味い料理は食えるけど」
    「はは。……そんなこと言って、貴様のところのお父さまが体調崩されてから貴様もいつも出ているらしいじゃないか」
    「仕方がなく、な。こちとらもう飽き飽きだ」
    「まあ、そうだろうな。でなけりゃ主人公はこんな隅に寄っていては駄目だし。そんな作品は駄作に違いないから」
    「主人公でもなんでもねえよ。主催はむしろ黒子だろ」
    「先代は黒子ってタイプじゃなかったろう」
    「先代って。まあそうだけど。親父は目立ちたがり屋だから」
    「あんたが言えたタマか?」
    「親父に比べりゃだいぶおとなしいだろ」
     はっ、と短く隣の男が笑った。低くも芯のあるあでやかな声である。
    「それこそ橋向なんて、今日来なくたってよかったんじゃねえの。忙しいんだろ」
    「貴様の辛気臭い顔を拝めるのはここくらいなものだからな」
    「そういうのなんていうか知ってるか? 悪趣味、だぜ」
    「結構」
     橋向が、おずおずと現れたスタッフからシャンパングラスを受け取る。「どうも」と小さく会釈して、ひとくち分嚥下する。顔色を微塵も変えずに緩く微笑んで見せた。
    「『ビースト』。佐倉山、今日はお仕事すると思うか?」
    「……ええ? 何、野次馬ならごめんなんだけど」
    「明日は我が身だろう」
    「だからそんな心配するなら来るなって」
    「貴様とだけ話していれば問題はない。衆人の目を気にせずにおかせるような犯罪でもあるまいし」
     フルートグラスをくるくると回しながら、橋向は「あんたは主催だ。どうしても目につくだろう」と付け足す。紺の袖をくるりと翻して、膝の上にやった。それからうやうやしく口元に手をやって、小さく咳き込む。
    「おまえなあ。俺と話したいだけならデートでもなんでもすりゃいいだろ」
    「デート? そんなかわいいものにはあいにく興味がなくてな。というか、あんたと俺は大体生活リズムが合わん。これが一番手っ取り早いだろう」
    「俺のこと好きなんだか嫌いなんだか……」
    「どちらでもない」
    「可愛くねーな」
     俺は、ぐい、っと残った赤ワインを一気飲みした。ぐらりと鼻腔から、その芳醇な甘い葡萄の香りが脳幹に響き渡る。グラスを見やると、それは空になったはずなのに明確に赤ワインの残滓が残ってぼんやりと赤く染まっていた。
    「『ビースト』ねえ……こちとら風評被害だっての。嗅ぎ回られて仕方ねえし」
    「いつも同じ手口で完全犯罪を成し遂げる、正体不明の連続殺人犯」
    「クソみたいな社交場であることは認めるが、人殺しを匿う趣味もねえんだっつの」
    「あんたはその辺の嗅覚はいいはずだからな」
    「嗅覚って言われると腹立つな。犬扱いかよ」
    「まさか」
     橋向が笑う。笑った時にふと気が緩むのか、妖しい雰囲気が和らいで無垢な雰囲気に変わるのが愛らしい。俺としてはこちらの方が見慣れている。言い忘れていたが、俺とこいつとは二十年来の友人である。小学生の頃からそれなりに家同士付き合いもあったし、何より中高の男子校が一緒だったので──その後の進路はお互い違えたものの、しかしそれなりの付き合いであることを自負している。それに、あの頃の俺たちは──
     橋向が思い出したように「あ、」と声を上げた。
    「どうした」
    「……そうだ、お気に入りの画家崩れの子っていうのは?」
    「崩れって言ってやるなよ」
    「崩れだ。あんたみたいな大きい後ろ盾がいてアレならな」
    「俺は芸術には門外漢だからわからんねえけど、一生懸命なやつは見てて楽しいよ。パトロンになってやろうと思うくらいには」
    「貴様、あの子の何が気に入っているのか知らないが……金持ちの道楽に子供を使ってやるなよ。子供が貴様に酔って破滅するだけだ」
    「人聞きの悪い。あしながおじさんだぜ」
    「どうだか……貴様の手癖の悪さは俺が一番知っているからな」
    「同意だったろ」
    「そういう言い方をするやつはろくでもないだろう」
     今度は声をあげて笑い始める橋向に眉を顰める。
    「……ああ、やはり少しつまめるものが欲しいかもしれんな。空きっ腹に酒は毒らしい」
    「言わんこっちゃねえ。オリーブは?」
    「いいな。頼む」
     近くにいたスタッフに軽く手招きをして、オリーブを注文した。生真面目そうに一礼して去っていく。
    「……佐倉山さん」
     ぽん、と、落ち着いた低音が降ってくる。
    「ん? ああ、猪狩さんこんばんは。どうしました」
     目の前の青年──名を、猪狩というが──は、好青年然とした柔らかな微笑みを浮かべて、目の前の男は俺に手を差し出した。握手する。体温の低くなりがちな俺と比べて、この人はいつも熱い人だな、とぼんやり思った。浅黒い肌がぼんやりほてっているあたり、それなりにこの人ものんだあとということになろう。
    「少々お先に、失礼しようかと思って」
    「ああ、いつも律儀なんだから……。はい。わかりました。ではまた」
    「ええ。いつもありがとうございます。では」
    「またよろしくお願いしますね」
     猪狩がコツコツと質の良い革靴を鳴らして去っていく。 
    「……今のは?」
    「猪狩さん。外交官なんだよ。温厚な人でね」
    「へえ」
    「……お前は何のためにこの倶楽部にいるんだよ。ちったあ興味を持て興味を」
    「だから言ったろう。俺がここにいるのは貴様の退屈そうな顔を拝むためだ」
    「何が楽しいんだか」
    「ま、個展諸々のコネも欲しいしな」
    「そっちを目的の本命にしておけよ」
     時計を見る。二十二時になったことを確認して、俺はすっくと立ち上がった。少々凝った肩をぐるりと回すと、何か不健康な音が己から鳴って苦笑する。人々のざわめきは止むことを知らない様子だった。何をそんなに話すことがあるのか何度きても理解はできないが、それなりに着飾った人々とて蓋を開ければそんなものなのだと思うと愉快である。人生とは、何たるエンターテインメント。
    「さて、と。そろそろ開くかな」
    「……そうか」
    「いつもの部屋で待ってろ。906のスイート。……そういうこと、だろ?」
    「察しが良くて助かるな。わかった。ではまた後で、主催様の佐倉山ご子息」
    「やめろ、気持ち悪い」
    「ははっ。じゃあ」
     上品なしぐさで立ち上がると、当然と言わんばかりに俺にその飲み切ったフルートグラスとオリーブの乗っていた小皿を預けてきた。指の背で細い銀縁の眼鏡を少しばかりあげて、薄く形のいい唇に笑みを浮かべる。人混みの中に紛れるように、ボールルームを去っていくその背中は、しかし何にも邪魔されることなく俺の視線を奪い続けるのだ。
    「では、この辺りでお開きに。ご歓談も尽きないこととは思いますが」
     橋向──人呼んで、華道界の貴公子。現実離れした美しさの中に、誰にも惑わされぬ己の感性と信念をはっきりと抱く者。年々磨きがかかるように輝きを増すとはいえ、そのなかに潜む本人の気質には一切の変化はない。真っ直ぐで、賢い。生けられる側の花にも負けぬ慎まやかな美と、生命の示す猛々しい志。ふいに彼を手に入れたいと願うほうが囚われて、きっとこの男から逃れることができなくなる。
     さて、今夜の集いを閉じるとしよう。俺は主演ではないが、しかしいつだって幕をあげ、幕を閉じることができるこの集いのマスターである。マイクを持って軽く挨拶をする俺に集まる視線が、みな佐倉山に取り入ろうと蠢く欲望を隠しもしないのを悟りながら、人好きのする笑顔を浮かべれば良いだけの簡単な仕事である。
    「皆様本日もお集まりいただきありがとうございました」
     拍手喝采。この拍手は何に向けられたものか? さあ、知るはずもない。部屋いっぱいに鳴り響く拍手の音に、先ほどまで鳴っていたはずのささやかなシルバーの音たちは掻き消されていく。
     人間はみな獣だ。富と権力、はたまた何か。手に入れたいもののために、きっとずっと、月の下で狂ったように踊るだけが生業の。その群れを俺は、ぼんやりと眺めていた。
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