潜椛 進捗(前略)
「……っ。……レッスン、始めましょう」
「おやおや、せっかちなチィツァ。でも、君が誘ったんだからね?」
潜さんは相変わらず感情の読めない顔でにこりと笑って見せた。自分から始めましょうと言った割に、こういう時の作法がわからず一瞬迷っていたのを見逃してはくれない。手持ち無沙汰だった私の腕を掴んだ彼の手は冷たかった。
「チィツァ、こういう時は……」
誘導されるがままに従うと、潜さんの首に手を回すような格好になってしまった。誘うような花の香りが鼻腔をくすぐり、物理的に距離が近づいたことを嫌でも理解してしまう。
導かれた先はいつも身につけているネックレスを留めている金具だった。まずはアクセサリーを外して欲しいということだろう。いつもなら難なく解くことができるであろう小さな金具は、今の状況では素直に言うことを聞いてくれない。
1227