ある職員の昔話ある大雨の日、普段なら鬱陶しい雨も今日はどうってことない
傘を差し真っ赤な長髪を嬉しそうに揺らして家路につく
今日は珍しく出来立てのパンを買うことができた
偶には両親に美味しいものを食べさせたいとコツコツお金を貯めていた
ジョシュアの家はけして裕福ではないが暖かく周りに恵まれて過ごしていた
「喜んでくれるかな」
早く食べてもらいたいと自然と帰る足が早まる
少ない人混みだったが反対側から傘をささずふらつく男と肩が軽くぶつかった
「あ…!」
男はそのまま倒れてしまった
よくよく観察すると、着物を着た男の体には包帯が巻かれておりますかに見える隙間からはひどい火傷を負っている
「ごめんなさい、余所見してて…大丈夫?」
傘を傾けて男を入れてあげる
「ァ゙…ゥ…」
顔を上げた男と目が合うすべてを諦めたかのような暗い赤い目
何度見てもひどい火傷だ、生きているのが不思議なほど
酷いことでもされたのだろうか
「傘、無いんですか?貸してあげますよ!」
少し無理やりだが立たせると男に傘を握らせる
「……。」
「そんな悲しい顔しないでください、きっと晴れれば気持ちも明るくなりますよ。笑ってください…貴方に何があったかは分かりませんが、どうか幸せが見つかりますように。」
子供に接するように優しく頭を撫でてあげると男を置いて走って帰った
「……しあわせ…」
微かに男の目に生気が戻る無理矢理笑った姿は少し怪しかった
数カ月後、夕焼けが見えるが激しい雨がジョシュアの家を叩いている
窓からボーっとその景色を眺めている
「天気雨…綺麗だなぁ」
でも…と後ろに目をやると雨漏りが酷く溜息が出る
お金があれば屋根くらいは直せるだろうかと考えていた時
珍しく家の戸を叩く音がした
「私行くねー」
家事をしている母を止めてジョシュアが戸を開ける、
そこには顔は見えないが男が傘をさして立っていた
男のもつ傘はあの時ジョシュアが貸した傘だった
キョトンとしていると男が傘を退かし顔を上げる、包帯が取れて初めて分かった整った顔立ち、真っ赤な瞳と目が合った瞬間背筋が凍り足がすくんだ
「迎えに来たよ」
男は不気味に笑うとジョシュアを引き寄せた
途端に意識が朦朧として男の方へ倒れた
母親が異変に気づき外に出たとき、ジョシュアと男の姿はもうそこにはなかった
お礼に代わりなのだろうか、扉の前には大量の現金が入ったケースが置かれていた
現在
「…っいったぁい!」
サミュエルはジョシュアに強く頭部を殴られわざとらしく泣いている
「何でもかんでもアンタの常識を押しつけないでくれるかしら?」
「酷いよ、殴るほどじゃないじゃん…」
フンッとジョシュアはそっぽを向く
ご機嫌を取ろうとサミュエルは周りを彷徨く
昔よりはまともになったとはいえ、常識外れで自分の未来を奪ったこの男が憎くて許せない
「なんで私に執着するんだか。」
ポロッと出た言葉のサミュエルは首を傾げて応える
「だって、俺の目を見て笑ってくれたの…君が初めてだったんだもん。すごく嬉しかったんだよ?」
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