夢と知りせば 今思うと、あれはきっと「虫の知らせ」だったのだろう。
カラン、とプラスチックのコップが転がり、足元に広がったオレンジ色の海を呆気にとられながら眺める。遅れて、隣にいた友人の声が耳に届いた。
「実彩? どげんしたと急に」
「っ、あ……ごめん、ちょっと目眩しただけやけん……服濡れとらん?」
「私はへーき。実彩は?」
「ウチも汚れとらんよ。ティッシュ持ってくる」
先生、ティッシュください。そんなことを言いながら、先ほど一瞬、ぞわりと背中を撫でた不快感を思い出していた。
せっかく最後に塾の友達と会う機会である、合格祝賀会だったのに。いったいどうしてコップを落とすなんて、幼い子どもみたいな失態を晒してしまったのだろう。心配をかけてしまったし、床も汚してしまったし、とんだ災難だった。早く片付けなければ、そう思いティッシュの箱から数枚の紙を適当にむしり取る。
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