年の差白杉「白石、俺の事抱いて」
「大人になったらね」
「ケチ!」
もう何回目になるのか思い出せないくらいに繰り返してきた俺のお願いは、いつも通り適当に流される。
基本的に俺のお願いはなんでも聞いてくれる白石だけど、これだけは聞き入れてもらえない。
俺はもうずっと昔から、白石の事が好きだって言ってるのに。
白石の方も俺が好きだと言えば「俺も好きだよ」と言ってはくれるけれど、じゃあ俺を抱いてと言うと次に続く言葉は必ず「杉元が大人になってからね」である。
一番最初に「しらいし、俺とえっちなことしよ」と、白石を誘った当時の俺はまだ小学生。
どこでそんなことを覚えたんだと大層驚かれたが、近頃の小学生のマセガキ具合を舐めないで欲しい。
友達の間でそういうエッチな話をする奴はそこそこいるし、まあこれはごくごく一部の奴らの話にはなるのだけど、既に童貞・処女を卒業した奴だって居たくらいなのだ。
クラスの奴らが話す刺激的な内容に興味津々の俺は、話を聞いては興奮を隠せないでいた。
エッチってそんなに気持ち良いんだ。すごい。
好きな人とするものなんだ。
なら、俺だって白石としたい。
そう思って初めてお誘いをしてみたわけなのだが、白石からの返答は「まあ…そういうのは大人になってからね」だった。
あまりに気の長い話に、今すぐ抱いてほしかった俺は「今すぐしてぇの!」と抗議する。
だけど困ったように眉を下げた白石に頭を撫でられながら「杉元はいい子だから、大人になるまで我慢できるよね」なんて言われてしまえば、大人しく頷くしかなくなってしまう。
俺は白石に抱いてほしいだけで、困らせたいわけじゃなかったから。
それでも明日になったら気が変わっているかもしれない、と翌日同じように「俺とえっちしよ!」とお願いしてみるが、やはり白石の意思は変わらず。
毎日毎日、明日になったら抱いてくれるかもしれないと思いながら誘っては断られ。
そんな日々を繰り返し続けて10年が経過した。
小学生だった俺も高校生になったわけだけど、それでも白石の意見は変わらない。
10年も我慢したんだから、そろそろ俺の事抱いてくれたっていいと思うんだけど。
あれから背も伸びて筋肉もついたし、何なら白石よりも高くなった。知識だって、あの時よりは多少は詳しくなった。
見た目的にも、もう充分すぎるくらい大人に見えるはず。
なのに、どうして白石は抱いてくれないんだろう。
「…あ、まさか白石って、勃たねえの?」
「はぁ~~~~!?勃ちますけどぉ!?いきなり何言っちゃってんのこの子は!」
そう言いながら白石の股間部の方へと視線を落とす。
大人になったらね、なんて言って毎回はぐらかしているけど、本当は勃起不全なんじゃないだろうか。
だからセックスしてくれないんじゃなくて、出来ないのかもしれない。
元々そんなに大きくないちんぽなのに、更に勃たねぇのか…可哀想に。
憐れみの目を白石の股間へと送っていると、俺の言葉に心外だと反論してくる。
「勃たねぇから俺とセックスしてくれねーんだろ?」
「だから勃つってば!」
「ただでさえ、ちっせーちんぽなのにEDなんて……もうどうしようもないな。可哀想に」
必死に言い返す様子が逆に怪しい。あとついでに面白い。
日頃からお願いを断られ続けているのだから、これくらいの仕返しはしたっていいだろう。
そう思って、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら白石のちんぽを憐れむ言葉を口にする。
最初は「違うって!勃つから!ちゃんと勃つからね!?」と言い返していた白石だったけど、次第に口数が減っていって。
「あのさぁ…」
いつもより低い声。
これは怒っている時の白石の声だ。
やべ。からかうだけのつもりだったのに、本気で怒らせてしまった。
普段あまり怒る事のない白石だが以前、俺が無茶をして怪我をしてしまった時に本気で怒られた事がある。
ヘラヘラしている表情もこの時ばかりは真剣な表情で腕を力強く掴んで底冷えするような低い声で、でも頭ごなしに叱りつけるんじゃなくて「これが命に関わるような大怪我だったら、死んでたかもしれないんだぞ」と淡々と怒られた。
いつも明るくて騒々しくて、そして俺に対していつも優しい白石が静かに怒っている姿が怖くて、なんて事をしたんだろうという後悔と恐怖で泣いてしまったのを覚えている。
あの時と同じ声だ。
さすがに言い過ぎたかと思った瞬間、白石に勢いよく押し倒された。
固いフローリングの床に背中から倒れ込んで、ゴツっと鈍い音と共に体をぶつけて痛みが走る。
だけど俺が痛みを訴える前にすぐに覆い被さられ、こちらを無表情で見下ろす白石に言葉を詰まらせてしまう。
「白石…?」
「さっきから聞いてれば失礼な事ばっかり言って。俺がどんだけ我慢してるのか知らない癖に」
「ひっ…」
そう言いながら俺の膝にぐりっと自身の股間部を押し付けてきて、その感触に硬直してしまう。
白石…勃ってる。
押し当てられた硬い感触に動揺している間に、白石の手が俺の服の中に差し込まれる。
直接肌に白石の手のひらの温度を感じて、思わず悲鳴を漏らしてしまう。
腹筋に触れた後に白石の手がするすると移動して、脇腹や腰を撫で始める。
今まで白石には勿論、他人にそんな場所を触られたのは初めての事で、体に触れる他人の手の感覚と温度に頭の中が混乱していく。
すっかりパニックになっている俺の体を撫で回しながら、白石は言葉を続ける。
「し、白石、待って」
「待たない。毎日毎日、杉元の事をどろどろのぐっちゃぐちゃにしてやりたいって思ってるんだよ、俺は」
「…っ」
「泣いてもやめてやらないし、気持ち良すぎて何にも考えられないくらいに抱き潰したいって衝動を必死に抑えてるの、知らないだろ」
耳元で囁かれて、体がぞくぞくと震えてしまう。
いつもいつも俺の誘いを断ってばかりで、きっと俺の事なんて近所のマセガキくらいにしか見てないんだと思ってた白石が、本当はそんな事を考えていたなんて。
今までそんな素振り、全然見せなかったくせに。
やがて白石の手が下へと降りていって、俺のズボンのゴム部分に指が引っ掛けられる。
これは、まずいかもしれない。
そりゃあ白石とセックスしたいのは本当だけれど、どうせ今日も断られて終わりだろうと思っていた。
なのに、予想に反して押し倒されてこの展開。
このままだと本当に抱かれてしまう。
白石が囁いてきたように、めちゃくちゃに抱き潰されてしまうかもしれない。
そんな事されたら一体どうなっちゃうんだろう。
俺、初めてなのに。
泣いてもやめてくれないつもりなんだ、そう思うと怖くて堪らなくなってしまって。
「あっ、やだ…」
くいっと指でズボンを引っ張られた時、思わずそんな言葉を漏らしてしまった。
すると俺の言葉を聞いた白石はズボンから手を離して、覆い被さっていた体を起こす。
突然解放された俺は今がチャンスだと勢いよく起き上がり、じりじりと白石から離れるように後ずさった。
しかし警戒している俺とは対照的に白石はさっきまでの無表情ではなく、いつものヘラヘラした優しい顔に戻っていて。
ああ、いつもの白石だ。酷く安心して、体の力が抜けていく。
「これくらいでビビっちゃって。抱かれる覚悟もないのに、大人をからかうんじゃありません」
後ずさりした俺の方へと近づいて、頭をぽんぽんと優しく叩きながらそう言った。
次に撫でながら「もう少しで卒業でしょ」と言葉を続ける。
「あと少しじゃん。あともうちょっとだけ、一緒に頑張ろうよ」
「うぅ……」
確かにいざ白石とそういう事が出来るかもしれないと思った時、期待よりも恐怖が勝ったのは確かだ。
俺がからかったせいで白石を怒らせてしまったから自業自得ではあるのだが、覆い被さられて無表情で俺を見下ろしてくる白石を怖いと思ってしまった。
膝に勃起した白石のちんぽを押し当てられて、俺の事を本当にそういう対象として見ている事を自覚させられ。
白石の事は好きなはずなのに、何だか別人みたいに感じて怖くて。
そう思うと、つい拒絶の言葉を口にしてしまっていたのだった。
本当に抱くつもりはなかったらしい白石はあっさり俺を解放したけれど、未遂に終わってホッとした自分がいる。
悔しいけれど、まだ俺には心の準備が出来ていなかったようだ。
なんだか白石にしてやられたような気がしたのが余計に悔しくて、子供のように頬を膨らませる。
そして、頭を撫でてくる白石の手を受け入れながら俺が渋々頷けば、白石は満足そうに微笑んだ。
「卒業まで頑張ろうね、杉元」
卒業して本当に大人になった時、あの表情をまた向けられてしまうのだろうか。
俺の頭を撫でながらのほほんと言う白石に再びあの顔で覆い被さられた時、今度は怖いと思わなくなってるのかな。
でも、今はまだ怖いから、それまではいつもの優しい白石でいて欲しい。
膨れっ面のまま白石に撫でられながら、そんな事を考えた。