割れたオレンジ二つ「欲のねえ奴だなあ」
ブラッドリーが呆れたように言っても、曇り空の色をした頭はぼんやりと揺れただけだった。
「そう、ですかね」
「もっと、なんかねえのかよ。お宝が欲しいだとか、女を抱きたいだとか」
「……あんまり」
強がりでもなく、ピンと来ない風に首を傾げた。まだ痩せっぽちの身体は枯れ枝のように佇む。再度じっくりと目を見ても、虚空を捉えるように輪郭がぼやけていた。
妙な奴だ、と思った。北の国に住めば、大なり小なり欲のある者ばかりだ。奪い、奪われ、盗み、盗まれ。そも、欲のない者などここでは生きていけない。己の持ち物にしがみつけないのなら奪われるばかりだからだ。空っぽになった生き物はなす術もなく死ぬ。それだけだ。
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