とある手紙先生へ
お元気でいらっしゃいますか?
先生に言葉をどうしてもお伝えしたく、こうして貴方宛の手紙を綴っております。
突然の出来事で先生や僕の友人達にお別れの言葉一つも伝えられずに先立ってしまい、申し訳ございません。きっとリュカもナジェズダもロマンも、僕に怒っていると思います。本当にごめんなさい。
先生には、本当にお世話になりました。
僕にとって、貴方の存在は他の先生よりも少し特別なものでした。少々抜けているところがあっても、誰よりも心優しく、生徒一人ひとりをきちんと見て、大切にしてくださって。その優しさが、以前僕と出会った人間に似ているところがあって、僕にはとても心地の良いものでした。
貴方とお菓子を食べながら他愛のない話をしている時間はとても楽しくて、穏やかな時間がゆっくりと流れていたような気がします。
あの陽だまりのような暖かな時間が、僕は本当にお気に入りでした。
…先生。
僕がお渡ししたイヤリング、先生は今でも付けて下さっているでしょうか?先生のピアス穴はもう塞がってしまっていたので、ピアスの代わりにとお渡しした、小さな小さな銀色のイヤリングです。
『先生はピアスを付けないのか』、そう先生にお伝えした事が以前ありましたね。貴方は覚えていらっしゃるでしょうか?
あの時の先生の、なんだか自分に自身がないような少し沈んだ表情を、僕は忘れられません。
あの表情を見て、僕は昔の醜い自分を少しだけ思い出してしまって。そして少しだけ、ほんの少しだけ、貴方に苛立ちを覚えてしまって。それが嫌で気が付いたら咄嗟にあのイヤリングをお渡ししておりました。
先生、結局貴方には伝えることは出来なかったけれども。
貴方は、貴方が思っている以上に綺麗で美しいものを沢山持っていると、悲しくなる程に貴方は心優しい人間なのだと、僕は思います。
眩しすぎる程に。
僕が心から羨む程に。
だから先生、
その優しさで、生徒達に寄り添ってあげてね。先生と同じくらい、みんな僕が欲しかった輝きを沢山持っている子達ばかりなんだ。その輝きが失われないように、またみんなが笑顔で笑える日が来るように、僕の代わりに大切にしてあげてね。
僕との、約束だよ。
…な〜んてね、こんな約束ももう届かないことくらい知ってるよ。でも言葉が届かないって、なんだかもどかしくて悲しいね。なんだかお腹が空いた時みたい。
でもね。先生なら、この約束もなんだか何処かで聞いてくれてる気がするんだ。なんでだろう。
それでは先生、これからより一層、冷え込む季節になっていきますが、くれぐれもお身体ご自愛ください。
まあ、貴方のことだから、きっと仕事に追われてまともに寝る事もしていないでしょうけれども。
今度は優しい世界で、一緒にお茶でもしながらお話しましょうね、先生。
ゼブルス・ハールマンより