その男は優秀な兵士だった。
若くして周りに頼られ、身分や立場が許す限界まで昇進した。
男には友が居た。
友は男と競い合える程の人物だった。
そして友は、男と僅差で、その前を行った。
友は、男の上官だった。
しかしそれでも男と友は、互いに互いが友であった。
男の助言を友は良く聞いたし。それでも友は自分で良く考えた。男は友の指示に、良く従った。やはり上官である友は、男の先を行って居たからだ。
そして、友は逝くのも先であった。
友は事切れる前、男に生きろと言った。
それは友の指示を良く聞いた男でも、素直に従えるものではなかった。
それでも友は言った。擦り切れるような声で、言った。
「いっぱい食えよ。これから生きて行くんだから。沢山の味を。」
その言葉を聞いた、聞いてしまった男は、友を後追いする選択肢を失った。
手も口も止めることなく、ただ黙々と目の前の食べ物を食べ続ける。
「本当に良くお食べになることで。」
目の前の男が言う。
元々食べる方だったと思うが。それから腹に入る量は、どんどん増えて行った気がする。
「いつお腹いっぱいになるの?」
問いかけだったが、答えの持ち合わせがなかった。
「明日に残しておいても構わないんですよ?」
明日?明日があるとは限らないだろう?……いや、明日は、有る、の、か。
そう、まだ、自分には明日があるのだ。
「……おまえも明日、居るのか?」
「ええ。明日も、わたしが用意して差し上げます。」
今日はもう終わりにしますか?
そうか、明日。こいつが居るのなら、まあ。
「うん。」
自分の意思で食べることをやめたのは、随分久しぶりな気がする。
何をするでもなく、ただただランプの灯りを浪費して、その様子を眺める。
そこは、食事に集まる面々が、今は誰一人として居ない食堂。
「おや、悪い子。」
「おまえに言われちゃあなあ。」
ランプの灯りが、温度を上げた気がした。
「悪い子を指摘するのは、何も良い子ばかりではありませんよ。」
聞いたことがあった。前まで「良い子」とはたった一人のことを指し、「悪い子」もたった一人のことを指すのだと、思っていたのだと。