現パロおめがばいんしゅーむらよーり(酷い。庭が出る。傭←あゑふぁ、リ←おぬが、庭←べ一た。 靴底が土の地表を蹴る。舗装のされていない土地だった。
案内してくれている、当然慣れた様子の現地民、村娘に、遅れを取ることなく続く。
「……前に来た時より人が減ったな」
「田舎なんて何処もそんなものなんじゃないの?」
ね、旅人さん?とにこやかに応対する村の女性は、同時にβ性である。
旅人、なんて揶揄われはしたが、各地を転々としているのは確かなので、例え皮肉掛かっていようとも、否定はしない。
それに、普段なら気にならない筈なのだ、文明の開発から離れた場所から人が離れてゆく様子は。ただ、時を経て再来したこの村は、他とは違う静けさを感じた。孤独を覚える、ような。そんな。
「こちらなの。」
「ああ。」
一々案内役に、同性を求めて孤独感を埋めたいなんて考えたこともないが、短い間だが歩みを共にした相手がいるにもかかわらず、寂しさは拭い切れなかった。
それもこの場に案内される迄のこと。
目的地に、寂しさを埋めるものがある。
そこは、厳重に閉じられた扉の大袈裟な程の鍵、鍵、鍵の量にこそ目を瞑れば、外面こそ家屋のていを為していた。
だが窓が無い。正確には天井高く造られたその家屋の、その天井近くにぽっつりと有るだけだ。
光の当たらない場所。自分がそこで暮らしたわけでも無いのに、既に寂しい。
それは前に来た時も感じた寂しさだ。同じだ、あの時と。それでもその寂しさを埋めてくれる存在は、この中にある。それも、同じだった。この感覚。
村娘が急ぐでも遅くとも無い早さで鍵を開けてゆく姿が、落ち着か無い気持ちの儘視界に入る。
がちゃりがちゃりと外されてゆく鍵の音を聞くのは、これが初めてだ。
この中に自分が足を踏み入れたことは無い。ここで暮らす相手と、直にまみえたことも無い。
ただ匂いだけが。
それだけを存在のよすがにして縋った。開かぬ扉を引っ掻いた。外れぬ鍵に額をこすり付けた。
鍵が全て放られた。
重たいだろうかんぬきを持ち上げた娘がそれをも放る。ぎいと開けられた扉をご丁寧に抑えられ、どうぞと促される。
やはり中は真っ暗だった。
文明が行き届いていないことは言い訳になら無い。寧ろ断ち切られていると言って良い。
更には屋内は部屋らしい壁は無く、間仕切りされた向こう側はおそらくただ水回りであろう。都心部で言えばワンルームと小洒落た言いようも有るが、ここはそうでは無い。何せ、家屋で有るのは外面なのだから。
ここは牢屋だ。
知っている。大きく息を吸う。ああ知っているとも。懐かしく、恋焦がれた芳香よ。扉も壁も隔てぬ香りはこうも魅力的だ。向こうも感じ取ってくれているだろうか?一歩屋内に踏み出す。
ぴくりと暗闇の中の闇が動いた。可愛くて堪らない。
「……こっちへ来て、よく見えるようにしてくれないか?」
前は会えなかった、姿を。
「いやです……」
前は隔たり越しに聞いて声が、今は直ぐそこの闇の中から聞こえる。
「光は嫌……ずっとここにいたんですもの、眩しくて耐えられない」
「……ならおれが陰に成るから。頼む。」
暫くじっとしていた影が、ゆっくりと動いた。そば迄近寄って来てくれている。ああ堪らないな。這う程長い肢体に、ああ背が高いんだなと思った。
薄暗い迄明度を上げた玄関近くに、漸く来てくれた焦がれた相手は、あたたかい、と小さく呟いた口を、すっとこちらに上げた。
「ああ、暗所の君。」
ふっと思わず笑みが溢れた。顔の全てが白く、いまいち口の場所を正確に見付けることが出来無かった。白い顔の相手からは、目すら見付けられ無かった。
相手は気を悪くするでも無く、気にしてい無いようだった。
「肌が白いんだな。」
「日に当たりませんし。」
相手は少し黙って、じっとこちらを見上げていた。
「おまえは小さいですね。陰が狭いです。」
「ああ、すまない。」
今度こそ明確に笑みを上げてしまった。
それでも相手は気にせず、暗闇に戻らずいてくれた。
こちらは眩しくもない筈なのに、相手を見て思わず目が細まる。
「ああ、馨しい芳香だ……」
「……締め切ってじめ付いた納戸の匂いでは」
今度はわらわなかった。
「どこであろうと、おまえの匂いを嗅ぎ分けるよ。」
相手は何もこたえなかった。だから、相手も同じ気持ちであれば良いと思った。