たったったっと、軽い足音。
確かにこちらに近付いてはいるが、あっちへ行ったりこっちへ寄ったりと忙しない。
「見つけたのー!」
それが漸く到達した。
「見つかった。」
大きく反響する高い声と、小さくくぐもる低い呟き。
白く広いバスタブから立ち上がった男は、そのままぼそぼそと話し続けた。
「遅かったじゃないか、名探偵?」
「む!そんなことないの!」
反論する高音はまだ幼い。
探偵ごっこ、もとい、かくれんぼは、最近のお気に入りの遊びのようだった。
「じゃー次はタイサがメータンテーの番!」
「おっと、もうお昼寝のお時間だぞレディ。」
「アラ!なら、おはなしして!寝るまで!」
「ハイハイ。」
バスタブを跨いだ男は、そのまま少女を持ち上げた。青いスカート がひらりと舞う。お昼寝号、出発進行。少女はきゃっきゃと喜んで、男に身を預けた。
「到着。」
「ありがとうございますなの!」
どういたしまして。始終ご機嫌な少女は、素直にベッドの上、横になった。両脇に、顔の良く似た人形をボディガードとして携え、少女はその間に挟まっていた。
「で、なんのお話をしようか?」
男はベッドサイドに近くの椅子を寄せて、腰掛けた。
「タイサが寝る時のおはなしして!」
「寝る時?オレの?」
「タイサはセンソーっていう怖いところから来たんでしょう?夜寝るのが、怖くはなかった?」
「あー……」
男は困ったように、頭を掻いた。後ろで一つに括った髪が揺れる。
「実は、今の方が怖い。」
「そうなの!?」
「ああ。昔の方が、強がるのが得意だった。」
そうなの……。どこまで分かっているのか判じ得ないが、少女の眼差しは至ってあたたかだった。
「いつもタイサはどうしたら良く眠れるの?」
男は身じろぎし姿勢を崩すと、窓辺へと目を向けた。
「寝室の窓を開けておくんだ、ほんの少し。」
「それで?」
「そうすると、歌がきこえる。」
「どんな?」
「さぁ?だが、なんとも軽い調子のモンだよ。」
「そうなの。」
「ああ。だが、綺麗なんだ、それが。だから、他の色んなことも、綺麗に思えてくる。良い事じゃないけど、綺麗に通り抜けてたなぁ、とか、顔には傷一つなかったなぁ、とか、寧ろその場所全部更地になって、綺麗になっちまったなぁ、とか。」
ふと顔を上げると、幼い相槌は健やかな寝息に変わっていた。
男は閉じた瞼を眺めながら、ボディガードを雇った彼女の父親の仕事が、滞りなく進むことを願った。