分厚く覆われた雲が覗く。あの日から空は厚い雲に覆われたままだ。
「もう暫くすればこの辺りも吹雪となるだろう……分かるかい、冷気が近付いているのだ」
大通りをふたつほど渡った先は既に氷に覆われている。溶けることのない永劫の棺だ。
手を伸ばし、横たわる男の頬を撫でる。既に熱は喪われ、ひやりと冷気を纏っているようだった。
ふっと、息を吐く。
「……君はこの私を殺すと言った、真祖の血を引くこの私に、愚かにも」
手を組めと言ったのはこちら。その目的を果たすまでの間手を取ることをこの男は選んだ。そしてそれを果たせば必ず殺すとも。
ゆっくりとグローブを外し足下に落とす。
「君にそれが果たせるとは思えんが、一度吐いた言葉は飲めんぞ」
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