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    Haru17mam

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    GODARCA HO愚者:Argus=Coggie
    ある年のクリスマス

     クリスマス、というのは特別な祝いの日であり、華やかで喜ばしく、大多数の人間が待ち遠しく思う日――――らしい。
     十二月も後半に差し掛かってくると、軍部とはいえ空気が浮つき始める。家族や友人、恋人とどのように過ごすのか計画しはじめたり、贈り物を考えたり。そんな彼らは皆一様に幸福そうな表情をしており、それを見ていれば「悪くないな」とは思う。張り詰めた日々の中、息抜きや娯楽は必要不可欠と言っても過言ではない。それを各々が勝手にやってくれるというのであれば、こちらもあれこれ用意する手間が省けるというものだ。
     ほとんどの隊員には当日休暇を出し、勤務の隊員にも早めに帰宅指示を出す。自分まで早く帰る必要はないのだけれど、残っていると気を遣って帰らない人間が出てくるため致し方ない。分厚い紙束を鞄に仕舞い込み、早々に帰路につく。
     刺すように冷たい冬の空気も、この日ばかりはどこか柔らかく包み込まれるような心地がした。街もあちこち華やかで、いつもは忠実な騎士のように隣を歩く友人たちも、どこかソワソワと落ち着かない様子だ。その空気がどうにもむず痒くて、帰路をゆく足が早まった。

     暗く冷え切った室内に最低限の明かりを灯し、暖炉に薪をくべる。軍服を着替えて湯が沸く頃には、暖炉からはパチパチと小気味いい音が聞こえており、その前で身を寄せ合い丸まっている二匹分の尻尾が見えた。持ち帰った資料と淹れたばかりの紅茶を机に並べて腰かける。一番上に重ねていた報告書をつまみ上げ、背もたれにゆったりと体重を預けて紅茶を一口。熱が身体の中心を通り抜けていく感覚に、思わず息が漏れる。
     特段代わり映えしない夜だった。
     いつの間にか足元にすり寄ってきていた彼らの頭を撫でる。揺れる尻尾と手のひらから伝わるぬくもりが、己の内側、奥深くにある何かを少しだけ溶かす。

     何も特別なことなど無い。
     けれど今日この瞬間、この手には確かに小さなぬくもりがある。
     それのなんと特別なことか。




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