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    Remma_KThasuike

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    Remma_KThasuike

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    アガルタの空23日目、実際の本編とかなり悩んだ有力候補のストーリー。グロ注意。
    状況把握のため明日香視点で考えてて、冬人さんが診療所で死にます。
    「シュウに、冬人さんとちゃんと話してほしかった。ふたりには、何か大事なことが話せないままでいるように見えたから」という明日香の一言が最後に流れ出てきたことで「せやな」と不採用になった。

    #アガルタの空
    agarthaSky

    アガルタの空「23日目」明日香視点診療所ver冬人さんがシュウを呼んだ。だから、翔太じゃなくて修徒だって。ふらふらしてるなと思っていたら何もないのに蹴つまづき、顔面からこけた。なにやってるんだろ、もう……。
    「え」
     ‎冬人さんの口から血が吹き出た。黒っぽい血。何を見たのか一瞬わからず一拍遅れて仰天し慌てて駆け寄る。呼んでも呻くばかりで返事がない。顔は真っ青、目をつぶり歯を食いしばり苦しげに唸っている。額に冷や汗が浮き、体をかがめて腹部を抱え込む。腹部を横目で確認したけど外傷はなく、しかし脂汗の浮いた手で力いっぱい抑え込んでいる。なか? お腹強打するようなとこは見なかったけど。先を歩いていた面々も異常を感じて振り向き、戻ってくる。冬人さん、呼びかけたが歯を食いしばったまま「う゛」「ぐ」と呻くばかりで返事ができない。
     ‎ふいにガタガタガタと肩を大きく震わせ体を折って、ごぼっと今度こそ本格的に量を吐き、げほごほとせきこんだ。こっちの血の気がひいた。喉に残ったようで苦しそうに首をかく。
    「冬人さん!」
     冬人さんの背中をロウヒさんがさすって、喉のものを吐き出させ呼吸を確保させようとする。しかし息を詰まらせたまま呼吸はもどらず、突然どぼどぼと恐ろしい勢いで大量に吐いて地面に突っ伏した。大きく広がった真っ赤な液体に足がすくんでしりもちをつく。口からびたびたと鮮血を噴き出しガクガクと身を震わせる。血溜まりを血が跳ねびちぴちゃと水音をたてる。吐血は止まらず次から次へと溢れて土に染み込んでいく。待って……待って、そんなに吐いたら死んじゃう、冬人さんが死んじゃう。チアノーゼをおこし、顔色がどんどん悪くなっていく。冬人さんの体が見る間に力を失っていく。突然悲鳴をあげて暴れ、ロウヒさんに押さえつけられた。
    ‎「冬人っ、おい冬人!」
    「冬人さん!」
     呼びかけても反応する余裕がなくのたうちまわり、体を弓なりに突っ張らせ、ガクリと意識を失った。ロウヒさんがあわてて呼びかけ、揺り起こそうとする。
    「冬人! おい冬人! 息しろ、吐き出…
     どうやら吐いた血で喉を詰まらせ窒息したらしく、それでとりあえず吐血は止まったが呼吸が戻らず、顔色が急速に悪化していく。ロウヒさんの手が冬人さんの腹部に触れ、ぐちょりと異様な音がしてへこんだ。まさか。
    「一旦診療所に戻るぞ!」
     冬人さんをかつぎ立ち上がる。
     ロウヒさんが立ち上がりかけたとき、ふとシュウの方を振り返って
    「シュウ……?」
     何か様子がおかしい。顔が真っ青で、冬人さんの状態にショックをうけたならわかるけどそれにしては目の焦点があってない。ひくっとしゃくりあげてガタガタ震え、ビシリとシュウを囲むように閃光が走った。
    「うああああああああああ!」
     ‎思わず目を見張った。
     ‎ボコボコ次々に地面から立体が生えてシュウを取り囲み、シュウが見えなくなる。生えた立体はどんどん太く高いものになっていき、空中で霧散しつつ範囲を広げ始めた。
    「やべっ……」
     公正がじゃらっと縄刃を取りだしシュウに投げるが次々に阻まれ、やっと一本が巻きつく。その一本から次々に縄と同じ色の柱が飛び出しこっちまで伸びてきた。
    「ロウヒ! キャンセラー!」
    「強いやつしかないぞ! 副作用が……」
    「こいつは強いやつでもあんま効かねえんだよ、貸せ!」
     強いキャンセラー……確か、記憶障害とか起こるやつ。
    「シュウ……!」
     思わず駆け寄る。馬鹿、離れろ、公正の声が聞こえた直後、飛んできた破片が手に当たった。
     ぼこっ…
     鈍い音がして手が変形した。一瞬遅れて鋭い痛みが走って思わず悲鳴をあげる。手から立体が生え、どこを起点としたかわからない肉が皮膚を引きちぎり伸びていた。シュウと一瞬目があった気がした。溢れる涙ですぐ顔が見えなくなる。止めなきゃ。私が止めなきゃ。
    「お下がりください明日香様っ」
     声が聞こえて、黒い影がさっと割り込んだ。シュウの近くから延びた棒がその人をざしゅっと貫いて思わず悲鳴をあげる。
    「ご心配なく。アンドロイドですから」
     胸に開いた大きなあながぎゅるっと閉まり、アンドロイドはシュウに駆け寄ってパッと透明なドームを出現させた。シュウの周りから次々に生えていた棒が縮んでいくドームに阻まれ折れていく。クリスだっけ、アンドロイドの女の人は何度も串刺しになりながらシュウの後頭部を殴って気絶させ、手首に手錠をかけた。棒がバラバラと崩れて消える。

     ‎

    ‎「おじさん! おじさん助けて、冬人さんが……」
     診療所に駆け込んで医者のおじさんを呼ぶ。確か昔、冬人さんが大怪我した時はおじさんが治療にあたってたって言ってた。だからおじさんなら。
     ‎けれど返事がなく、おじさんを探してめちゃめちゃに荒らされた診療所内を走り回る。どうしてこんなに荒らされて、というところに今更気になり閉じた扉の前で足がすくんだ。おそるおそる手だけ伸ばして開ける。
    ‎「……!」
     人が倒れていた。医者のおじさん。駆け寄り、呼び掛けるが既に脈がなく冷たくなっている。死んでる。額に弾痕のような穴があいていた。
     ‎おじさんの〈力〉、確か組織再生……だっけ。ふと思い出して背筋が凍った。冬人さん。突然血を吐いて倒れたけど、それって。
    「明日香、医者はいたか」
     足音がしてロウヒさんが部屋に入ってくる。死んでる、と返すのもそこそこにおじさんの〈力〉が組織再生で冬人さんの怪我治療にあたったことがあると伝える。ロウヒさんの顔が凍りつき手術室に走り戻っていった。
     手術室に入ってすぐ冬人さんに全身麻酔をかけドレーンで喉に詰まった血を吸引した。幸い保存血が大量にあり、すぐに輸血もできてなんとか心停止を免れ呼吸も戻ったもののたびたび吐血しドレーンが手放せない。下血も激しく、敷いたハンカチはすぐにぐっちょり赤黒く濡れそぼった。出血量が尋常じゃない。ロウヒさんの指示で保存血を温め輸血速度を大幅に上げる。設定できるギリギリいっぱいまで。おそらく意識は無いが痛みからかずっと唸っていて時々悲鳴をあげ、痙攣や量の多い吐血を頻繁に起こしている。麻酔があんまりきいてない。見かねて縁利が「こいつ死なせてやった方が」と呟き栄蓮と昨日子に袋叩きにされていた。とにかくもとを絶たねば、とロウヒさんがメスを手に取った。今日破が冬人さんの体を手術台に縛り付け、固定する。心電図と測定器を発見したのでそれも取り付ける。脈が異常に速く呼吸が浅い。血圧がひどく下がっていて体温も低い。本来酸素マスクが必要な状態だが酸素ボンベが無かった。自分の〈力〉で作れるのはボンベだけで、中身の酸素は作れない。輸血だけで安定する見込みもない。手術を続行する。
    「明日香。そこに鉗子」
     ロウヒさんからの指示に従い、指定の場所に器具を出現させて手術を手伝う。人の生身が切り開かれていくのを見るのは二回目だが正直馴れない。こわい。でも、これは人を助ける手法なのだ。
     ‎腹膜を開いてロウヒさんがうお……と声を漏らす。グロいのはわかっていたが思わず目をそらした。外傷なしでも吐血した人のお腹の中は血の海だと聞いたことはある。けれど冬人さんの場合は、血の海どころか血の中に内臓の残骸が沈んでいる状態だった。輸血した分が全部そこに流れ出てるんじゃないかと思う。ロウヒさんが震える手で処置を始める。無理だ、と声が漏れた。明日香は〈力〉の関係上医学書で何度も内臓図を見ているのでどれがどの臓器かわかる……はずだったがどれひとつわからなかった。いや、腸の一部であることはわかる。大部分が原型を留めておらず、肉団子よろしくぐちゃぐちゃに潰れた塊状になっている部分や胃や肝臓だったような破片もごちゃごちゃに混ざっていた。どうみても機能していない。ロウヒさんが眉間に皺を寄せて開腹時に切った表皮の断面をなぞる。すぐ死ななかったのはこれか、と呟き示したのは組織片を吐き出すとてつもなく小さな機械だった。アンドロイドのそれと違ってかなり動きが緩慢で吐き出す組織量も少ない。造血作用もあるのか極々少量の赤い液体を滲み出させている個体もあった。じわじわと傷を塞ごうとしているが動作は緩慢で、似たような機械は傷口にはいくつか見えたがぐちゃぐちゃになった内臓を修復している様子はまるでない。見ているとびくんと体が跳ねてまた口から血が溢れた。心拍が乱れ、がくがくと体が震える。腹部が引っ張られてぐちゅぐちゅと嫌な音をたてる。どうしてこれで生きてるんだろう。こんな……お腹の中ぐちゃぐちゃになってるのに。うああ、ぐう、と苦しそうな声が漏れた。もうほとんど死体だけどまだ、生きている。挫滅部を摘出し、というよりほぼドレーンで吸いだし、とにかく繋げられるだけ残った内臓と血管を繋いで後は落ち着いてからだとざっくり焼き塞ぐだけにして開腹部を閉じた。一度の手術で済ませるのは到底無理だ。手術は的確かつ迅速に。さもなければ心臓に負担がかかり、どっちにしろ死に至る。すでに脈が弱々しく、危険な状態だ。
    「冬人さん、助かる?」
     栄蓮が涙で顔をぐしゃぐしゃにしたままロウヒさんにたずねた。「無理だ」即答して栄蓮がまた泣き出す。
    「切り傷裂傷なら焼いて塞げる。が、こいつは挫滅細断だ。俺の〈力〉では何もできん」
    青い外套をポカポカ殴る栄蓮にチラリと目を配り、ため息をつく。
    「っていうか、あの量吐いたら普通即死だ。これでまだ生きてるってのは幸いでも何でも無い。縁利。さっき「殺してやった方が」って言ったな。今は俺も、そう思う」
     思わず息を飲む。ロウヒさんは眉間に皺を寄せて掌を見つめた。
    「もって数時間……いや、こいつのことだから一日もつかもしれん。意識はもう戻らん。さっさと死なせてやったほうがいいのかもしれんが、俺には答えが出せん」
     一応延命したが、それが良いことだったと思えないのだと目をつぶる。楽にしてやるべきだった。でも、死なせてやれなかったと。
    「明日香。さっきこいつの中身を見たならわかるな。こいつはもう助からん。万一意識が戻っても、延命はするな。……死ぬだけだ」
     はい、とは答えられなかった。生きて……生きて、欲しい。どうせ死ぬのだとしても最後まであがいて欲しい。少しでも長く、みんなと一緒に居て欲しい。

    ガタン、と何か倒すような音が聞こえて手術室をのぞいた。思わず息を飲む。冬人さんが起きていた。……喜ぶ余裕は無かった。中があの状態なのだ。無事なわけがない。顔は真っ青で口角を血が伝って顎へ滴り、咳き込みながら、しがみつく栄蓮を力なく引き剥がそうと必死になっている。栄蓮を下がらせてやると苦しげに呻いて腹部をおさえ歯を食い縛ってうずくまった。何度も意識を失いかけながら無理矢理座り直す。いつもの能天気さはない。やがて手を離し点滴を外しちゃったと軽い口調で手をふって見せたが欠片も笑顔を作れず、セリフを言い切る前に呻いてベッド上でうずくまった。息が荒い。かなり苦しそうだ。
     床に血だまりが広がっている。さっきまではなかった、その意味を察して冬人さんの顔を伺う。何ー? と今度はへらりと笑ってみせたが明日香はもう笑えなかった。口元には血がぬぐいきれずにまだべっとりついている。ふざけて色々しゃべってくれるのだがしょっちゅう言葉が途切れる。意識が飛びまくっていることに気がついていないのかしばらくして何事も無かったように続きを話す。しかし長くは続かずだんだん悲鳴じみたうなり声が混じるようになり、会話は中途半端にストップした。必死に腹部をおさえ、歯を食いしばっているのを隠すように笑顔を作ろうとするが、隠しきれていない。うずくまったまま顔をあげることすらできなくなり、苦しげに荒い呼吸をくりかえすだけになった。
     明日香たち後追い班は修徒たちのサポート班役として、ロウヒさんの部下を案内する役回りがあった。事前に公正から伝え聞いた内容を思い出しながらホワイトボードを前に配置を説明していく。冬人さんはいざというときの戦力要員として配置されているけど……視界端の冬人さんは脂汗を浮かべて呻き声を上げたりしていてかなりしんどそうで、これを戦線に戻すなんてどう考えてもありえなくて手順の続きを話すのをためらった。
     ふと口に手を当てたのでさすがに「大丈夫?」と声をかける。消えそうな細い声で「気持ち悪い……」と返答。吐きそうなら何か袋を持ってくる、と言うと「お願い」とつらそうな声を出して壁に肩を預けて息をつく。と、突然どぼおっと大量の血を吐いたので度肝を抜かれた。ゴボゴボと喉に残った血をもがきながら吐き出し、喘ぐように息をつなぐ。呻きながら指が食い込むほど強く腹を押さえる。したたる血の量に背筋が冷えた。戦線に戻すとかどうとかじゃない。これじゃ……これじゃもう、冬人さんは。
    ひとしきり吐いたあと、「ごめ、続けて」と虫の息のままつぶやいた。思わず頭を振る。できるわけない。こんなに血を吐いて、もう生きてるのが不思議なくらいなのに、戦いに戻ってなんて言えない。
    「続けて。例え立ち上がれなくても、這ってでも僕は行く。……ぅあっ……、ぐ……」
     言ったそばから呻いて呼吸困難に陥り、栄蓮が背中をさすりながら必死に声をかけ続けて数分、やっと薄く息を吸い、喉がひきつったような荒い呼吸で再びぐったりと壁にもたれた。そのまま意識を失う。必死に声をかけるが目を覚まさない。血塗れの手が、手術跡辺りに思いきり食い込んでいる。局部麻酔はまだ効いてるはず、と気づいて息をのむ。……シュウ。……早く、はやくかえってきて。

     様子がおかしい。声は抑えているが半ば悲鳴まじりに痛がるようになり呼吸が急に荒くなった。目の前に居るのに細い声で必死に明日香を呼ぶ。食器棚の下から薬を取ってきて欲しいという。確かにあった。痛み止めとして使われる医療用麻薬と古いがマシン入り血液製剤。自分で射とうとするが予想以上にガクガク腕が震えていてとにかく安定しない。数回フッと意識を飛ばして取り落としかけているのに無理矢理刺そうとするので取り上げた。射ち方を教わって代わりに射す。鎮痛用医療麻薬4本。詳しくないが過剰摂取は間違いない。けれどそうまでしないと効かないほどの状態……ってことだよね。射ってすぐ呼吸が落ち着き意識も安定したが明らかに目の焦点がぶれるようになり舌が回らなくなった。顔色が格段に悪くなり吐き気が増したのか口に手をあてている。あまりに吐血が頻繁で輸血が間に合っていない。どんどん顔色が悪くなり脳貧血を起こしたか五六分の長い失神状態に陥ってその間呼吸が完全に止まってしまい(吐いた血で詰まったのだと思う)、早鐘を打っていた心拍が急速におちていったので本気で焦った。意識が戻ったのを奇跡と喜んでいいのか、何度も痙攣を起こして暴れ、まともな会話はほぼ成立しなくなった。こちらの言葉を聞き取る余裕が無く、何か言いかけては気絶する。痙攣が激しくあちこちぶつけるので手術時と同じようにベッドに縛り付けることにした。少しでも傷口が広がらないようにだから、と囁くと苦しげに頷いた。目を離すともう気を失っている。もう助からん、ロウヒさんの言葉が頭をよぎる。嫌だ、嫌だ、だけど。無理な延命はするな、死ぬだけだ。続いた言葉を思い出して泣きそうになる。けれどもうちょっともってほしい。せめて、シュウが戻るまでは。輸血を続けているのに血圧が緩やかながら下がり続け、痙攣以外ほぼ動かなくなっている。失血はとっくに致死量を越えていて、もう、いつ死んでもおかしくない。
     ふっと意識を取り戻した冬人さんが手術用の止血注射をして、と言ってくる。躊躇した。だって、これは、確かに血止めの最終兵器なだけある薬品だけど、再度血流を戻すことを前提にしたものだ。治癒しない傷に用いれば再通流時に傷口が大きく広がる副作用がある。死ぬために射つようなものだ。
     しかし容態が急速に悪化し吐血が止まらなくなった。意識を取り戻したと思ったら痛がって悲鳴をあげたりうめいたりして口から血がごぼごぼ溢れすぐ気絶する。声がどんどん弱くなっていくのに吐く量は増えていく。数回目には吐くことすらうまくできなくなり、噎せて窒息しかけ、肩を持ち上げてやるとかなりの量が口から溢れた。喘ぐように吐き続けた後呼吸が止まりがくりと頭が落ち、すでによわよわしかった心拍の数値までもがすうっと落ちていくのを見て思わず腕を引き寄せて針を刺した。震えの止まらない腕を押さえ付け、三本。肌の冷たさにぞくりとする。射つ間にも吐血は続き、替えたシーツはあっという間にべたべたになっていった。なんとか呼吸は戻ったが意識が戻らない。苦しそうに顔を歪めて唸り声が漏れる。……何で射ってるんだろう。こんなの痛いに決まってる。苦しいに決まってる。死なせてあげた方がいいんじゃないの、死んでほしくないのは私のわがままだ。それに、これを射っても……しんじゃうのに。
     ようやく目を開けたがもう目の焦点が合わなかった。途切れ途切れに呼吸を繋いでいた。しばらく休憩してから、起こして、ときえそうな声で言う。
     ‎その状態で起き上がるのは体に相当な負担がかかりそうだけど……。弱々しいながら咳き込み、気管に入った血を必死で吐き出そうとするので理解した。壁と布団で体を支えて安定させた後即失神し、血圧も急下降して数分どころか十分以上応答しなかったが呼吸は無事だった。
     ‎止血剤の効果は絶大だった。真っ青を通り越して白くなっていた頬にわずかながら血の気が戻り始め、かなり激しかった痙攣が大分静かになった。流石冬人さんというべきか、たった数分で再び会話ができるまでに回復する。目が開かないままだが笑顔すらつくってみせた。
    けれど。血の気が少し戻ったとはいえ顔色は死人のように土気色で、改善したとは言えない。心拍も弱いまま、血圧がかなり低く意識も朦朧としているのか反応はするが鈍い。腹部に食い込ませていた手は足の横に滑り落ちている。しょっちゅう力のない空咳をし、今にも血の塊を吐きそうでひやひやする。息は荒いというよりヒューヒュー抜けるような音がするし無理矢理吸って吐いているようにも思えた。噎せたようにごぷっと音がして、薄く開いた口から鮮血がつうっと垂れた。苦しげに小さくうめき声をあげる。
    「大丈夫……?」
     他にかけるべき言葉を思いつかなくてそうきくと、わずかに視線をあげて少し間があり、疲れたように小さく首をふった。カタカタと歯のあたる音がする。寒いのかと毛布を差し出したが断られた。ぐったりと壁にもたれてうなだれ、表情が見えない。浅く早いが弱々しい呼吸。悲鳴まじりのうめき声。すごく辛そうなので何かできれば、と思うけど……またロウヒさんの言葉が頭をよぎり、無理矢理追い払った。
     ‎口の周りが血でベタベタになっていて不快そうだな、とふと思い立ち上がる。
    「ちょっと、タオル取ってくるね」
     あまり目が見えてなさそうだったので一声かけて離れた。

    白いタオルだと洗濯しても色が残るだろうか。棚から取り出した一枚のあまりの清潔さに戸惑いながら他の段から使い古しを引っ張り出した。口周りだけきれいなの使って、シーツに付いたのはこっちを使おう。手術室に戻り、お待たせ、とベッドにタオルを置いた。また気を失っているのか反応がなく、ため息をついてとりあえず血でべたべたになっていた口周りをふく。反応の無さにざわりと不安を覚えた。
    鼻の前に手をかざす。首筋に手をあて耳をすませる。
    「冬人さん……?」
    聞こえなかった。さっきは弱々しいながら残っていた鼓動がもう聞こえなかった。
    「冬人さ、冬人さんっ、返事して、冬人さん!」
    動転してガクガク揺さぶってしまい、はっと手を離す。ちょっとの振動で出血につながり吐いてしまう状態のはず……けれど何も起こらず、冬人さんはうなだれたままだった。
    ぐったりと力の抜けた体を仰向けに寝かせ、もう一度脈を確認する。何もかえってこない。閉じた目をこじ開ける。瞳孔は開ききっていた。耳がさーっと冷えた。冬人さん、冬人さん、さっき躊躇ったことを忘れて無我夢中で揺さぶる。だんだん涙声になるのが自分でもわかって、手を離した。
    目をおおう。もたなかった。間に合わなかった。シュウに、冬人さんとちゃんと話してほしかった。ふたりには、何か大事なことが話せないままでいるように見えたから。
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    Remma_KThasuike

    MEMOアガルタの空23日目、実際の本編とかなり悩んだ有力候補のストーリー。グロ注意。
    状況把握のため明日香視点で考えてて、冬人さんが診療所で死にます。
    「シュウに、冬人さんとちゃんと話してほしかった。ふたりには、何か大事なことが話せないままでいるように見えたから」という明日香の一言が最後に流れ出てきたことで「せやな」と不採用になった。
    アガルタの空「23日目」明日香視点診療所ver冬人さんがシュウを呼んだ。だから、翔太じゃなくて修徒だって。ふらふらしてるなと思っていたら何もないのに蹴つまづき、顔面からこけた。なにやってるんだろ、もう……。
    「え」
     ‎冬人さんの口から血が吹き出た。黒っぽい血。何を見たのか一瞬わからず一拍遅れて仰天し慌てて駆け寄る。呼んでも呻くばかりで返事がない。顔は真っ青、目をつぶり歯を食いしばり苦しげに唸っている。額に冷や汗が浮き、体をかがめて腹部を抱え込む。腹部を横目で確認したけど外傷はなく、しかし脂汗の浮いた手で力いっぱい抑え込んでいる。なか? お腹強打するようなとこは見なかったけど。先を歩いていた面々も異常を感じて振り向き、戻ってくる。冬人さん、呼びかけたが歯を食いしばったまま「う゛」「ぐ」と呻くばかりで返事ができない。
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    MEMOアガルタの空23日目、実際の本編とかなり悩んだ有力候補のストーリー。グロ注意。
    状況把握のため明日香視点で考えてて、冬人さんが診療所で死にます。
    「シュウに、冬人さんとちゃんと話してほしかった。ふたりには、何か大事なことが話せないままでいるように見えたから」という明日香の一言が最後に流れ出てきたことで「せやな」と不採用になった。
    アガルタの空「23日目」明日香視点診療所ver冬人さんがシュウを呼んだ。だから、翔太じゃなくて修徒だって。ふらふらしてるなと思っていたら何もないのに蹴つまづき、顔面からこけた。なにやってるんだろ、もう……。
    「え」
     ‎冬人さんの口から血が吹き出た。黒っぽい血。何を見たのか一瞬わからず一拍遅れて仰天し慌てて駆け寄る。呼んでも呻くばかりで返事がない。顔は真っ青、目をつぶり歯を食いしばり苦しげに唸っている。額に冷や汗が浮き、体をかがめて腹部を抱え込む。腹部を横目で確認したけど外傷はなく、しかし脂汗の浮いた手で力いっぱい抑え込んでいる。なか? お腹強打するようなとこは見なかったけど。先を歩いていた面々も異常を感じて振り向き、戻ってくる。冬人さん、呼びかけたが歯を食いしばったまま「う゛」「ぐ」と呻くばかりで返事ができない。
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    「シュウに、冬人さんとちゃんと話してほしかった。ふたりには、何か大事なことが話せないままでいるように見えたから」という明日香の一言が最後に流れ出てきたことで「せやな」と不採用になった。
    アガルタの空「23日目」明日香視点診療所ver冬人さんがシュウを呼んだ。だから、翔太じゃなくて修徒だって。ふらふらしてるなと思っていたら何もないのに蹴つまづき、顔面からこけた。なにやってるんだろ、もう……。
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