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    miki_gkm

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    縛壱さんのお宅の式神パロ鯉月の超解釈三次創作です。
    ぽちを。さんと休日さんにエンクロージャーされて書きました。
    平安と江戸と明治のほぼ全部乗せ設定な上にググりながら書いた代物なので、何も信じずに読んでください。
    これでMMD沼に帰らせてもらえるんですよね!? そうなんですよね!?

    護国の鳥 まだ鶏も鳴かぬ夜半に、広げた翼の一丈にも届かんばかりの鳥が庭に降り立った。
     月の欠けた夜である。足元は闇に溶けて、夜露が蹴られて音を立てて散った。音を立てたから初めて夜露と知れるほど暗い中に、しかしもう舞い降りた鳥はいなかった。ぼんやりと白く霞むような狩衣の男が項垂れたまま、草を分ける音だけを立てて屋敷へと向かっている。紙燭も持たずに濃い夜の中をまっすぐに歩く男は、菅笠を被った上に俯いているから前の見えるはずもない。それどころか笠のうちには雑面が垂れていた。
     男は庭から直接濡れ縁に上がったが、白い足袋は濡れても汚れてもいなかった。相変わらず項垂れて、滑るように縁側を進んでいく。やがて障子から灯火の明かりが透けて見える部屋の前に至ると、待ち構えたようにすうと障子が開いた。見れば赤子ほどの背丈の細面の男が二人、それぞれ左右の障子の縁を掴んでいた。雑面の男が中に入ると、小さな男達は外から障子を閉めて消えた。
    「何故起きていらっしゃるのです」
     雑面の男は低くくっきりと輪郭を持った声で言った。
     灯火の傍らで、寝間着姿の男が脇息にもたれていた。敷かれた布団は半ばまでめくれていて、どうやら男が一度は床についたらしいことが窺えた。
    「お前が帰ってきたからだろう」
     答えた男は若かった。灯火の灯が映らんばかりの滑らかな肌は色が濃く、南の郷の匂いがした。
    「まだ明け六つまでいくらもございますのに」
     そう言いながら、雑面の男は静かに畳の上に膝をついて、手甲を着けた手を揃えて頭を下げた。
    「只今戻りました」
     うむ、と若い男は満足げな声で応えた。己が主であるとその声音は言っていた。
     主に比べてしもべの男は小さく、それでいて巌のような身体をしていた。雑面の端から覗く肌は乾いて、手甲から伸びた指は太く短かった。
    「こちらに来い。月島」
     主が呼ばうと、男は素直に灯火のそばまで進み出た。主の手が伸びて雑面の頬を指先で撫でる。唐紅の文様が緩やかに細くなった。
    「鶴見中尉殿を慕って帰ってこんのではないかと思ったぞ」
    「御冗談を」
    「大陸はどうだった」
     月島はわずかに顔を背けた。雑面のおもての唐紅が黒ずんだのは、灯火の影のせいばかりではなかった。
    「……伴天連の軍艦が来ております」
    「蒸気船か」
     はい、と月島は頷いた。
    「帆を張らぬ鉄の船が幾隻も」
    「大層なことだ」
     主は笑って、脇息に腕を置き直した。
    「鯉登少尉殿」
     月島の声には咎める色があった。みなまで言うなとばかりに、鯉登は手を振る。
    「大陸の流れはもう止まらん。連中は火薬樽を積み上げても満足せん。石炭も燃せば阿片も燃す。奈翁を恐れれば自国も焼く。我々が手を出しても文字通り焼け石に水だ」
    「しかし鶴見中尉殿は」
    「中尉殿は大局を見ておいでだ。大陸をどうこうなさりたいわけではなかろう」
     鯉登はじっと月島の雑面を見る。唐紅から薄墨が滲むようだった。
    「私にも大陸に行ってほしいか?」
     問いかけられて、月島はぎょっとしたようだった。小さく揺れた雑面の、唐紅が四方に細い細い川を作って流れた。
    「まさか。私は──ただ」
     鯉登は苦笑し、畳の上の月島の手甲を撫ぜた。
    「わかっている。意地悪を言った」
    「……」
    「私はこの国を守るものだ。鶴見中尉殿もそれをご存知だから、お前を私に預けてくれた」
    「それは……」
    「おっしゃっていたぞ。月島に大陸の水は合わんだろうとな」
     月島はいたたまれないようだった。唐紅が揺らいで、明滅した。
    「お前も守るものだ。そういう式神だ」
     そう言いながら、鯉登は脇息を離れ、月島の膝の上に頭を乗せた。月島は始めおずおずと、やがて穏やかな手つきで鯉登の艶のある髪を撫でた。
    「……私はお仕えするだけの者です。守るなど大それた……」
    「守りたいと思うものは畢竟守るものだ」
     鯉登は言い切って、月島の雑面の裾を指先で揺らした。月島は短い沈黙を挟んで、おもむろに己の雑面を手ですくい上げた。
     現れたのは無骨な、凹凸に乏しい男の顔である。
     鯉登はその頬に直接手のひらを当てて、呟いた。
    「いつ見ても美しい目だ。浮世のものなら宜陽殿に仕舞われていたやもしれん」
     月島は眉を寄せた。不機嫌にも見えたが、雑面の裏からうっすらと広がった紅色が見えて、そうではないことが窺えた。
    「あなたはいちいち大袈裟なのです」
    「思ったことを言ったまでだ。この目が人と同じものを映していると思うと不思議だな」
    「……」
    「お前が識神だった頃の瞳も見てみたかった。遅く生まれたことが口惜しい」
    「……期待なさるようなものではありません。凡庸な男の目です」
     月島は鯉登から視線を外して言った。翠の瞳に灯りが射し入って、いっそう深く美しく見えた。
    「識神が人の身で生きるのはつらかったろう」
    「…………鶴見中尉殿に封じていただかなければ、あなたに退治されていたかもしれませんね」
    「お前はすぐにそういうことを言う。成らなかったことなど、いくら考えても遊びのようなものだろう」
    「あなたのは遊びですか」
    「そうだ。想像するのは楽しい。識神のお前の目に私はどのように映っただろう」
     月島は唇を結んだ。鯉登は膝の上で目を閉じて、笑ったかたちの口だけを動かして言った。
    「人心の善し悪しが色で見えたと言ったな。悪しきものは海より昏く青かったと。善行を積んだものは血のように赤かったと」
    「……はい」
    「私は善行など積んだ覚えはないから赤くは見えまい。かといって悪に成り下がった覚えもない。だいたい、そんな二極に偏った心で大陸の理不尽な火が払えようか」
    「……そうかもしれません」
     淡々と応える月島に、鯉登はぱちりと目を開けて言った。
    「中庸のものがいい。月島、お前、紫は見えなかったのか?」
    「は?」
    「赤と青の間の色だ。透明はつまらん。識神のお前の目に、私が紫色に映っていたら、さぞ誇らしかろうなぁ」
     あたかも今そうして称賛されたかのように笑んで、鯉登は月島の目許を撫でた。
     月島は翠の、人と同じものしか映さぬ目で鯉登の顔を眺め、そして何か言いさしたが、結局何も言わずに身を屈めて、鯉登の額に唇を当てた。
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    護国の鳥 まだ鶏も鳴かぬ夜半に、広げた翼の一丈にも届かんばかりの鳥が庭に降り立った。
     月の欠けた夜である。足元は闇に溶けて、夜露が蹴られて音を立てて散った。音を立てたから初めて夜露と知れるほど暗い中に、しかしもう舞い降りた鳥はいなかった。ぼんやりと白く霞むような狩衣の男が項垂れたまま、草を分ける音だけを立てて屋敷へと向かっている。紙燭も持たずに濃い夜の中をまっすぐに歩く男は、菅笠を被った上に俯いているから前の見えるはずもない。それどころか笠のうちには雑面が垂れていた。
     男は庭から直接濡れ縁に上がったが、白い足袋は濡れても汚れてもいなかった。相変わらず項垂れて、滑るように縁側を進んでいく。やがて障子から灯火の明かりが透けて見える部屋の前に至ると、待ち構えたようにすうと障子が開いた。見れば赤子ほどの背丈の細面の男が二人、それぞれ左右の障子の縁を掴んでいた。雑面の男が中に入ると、小さな男達は外から障子を閉めて消えた。
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