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    miyomimin

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    miyomimin

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    願いを叶える祠のお狐魏無羨と人に関わらずに生きている龍の藍忘機の話。龍狐AU。

    続き物の2話目。
    前回→https://poipiku.com/3917923/9223625.html

    龍狐AU。2話目。次の日も藍忘機は夷陵の地に降り立っていた。理由は至極簡単。ずる賢いあの男にまんまと逃げられてしまったからだ。体よく煙に巻かれたのだと気付いたのは、あの男がいなくなってからの事だった。実に鮮やかで、巧みな逃走劇だ。そしてなんとも憎らしい。巧みな話術で話題を逸らし、相手の意識を少しだけ自分以外のものへと外す。こちらが気が付いた時には時すでに遅し。意識の外でふらりと姿を消して、文字通り煙に巻かれたかのような感覚にさせられたのだ。あれはきっと常習的にあのような手段を行っているのだろう。なにせ彼は『厄介者』だ。その噂を聞きつけて、彼の行いに眉を潜めてここに来る神獣は藍忘機だけではなかったのだろう。
    眼前に広がる分かれ道を前に指先を伸ばして空に紋を描く。指先の動きに合わせるように視界がぼやけたかと思うと、先ほどまで確かに存在していたはずの分かれ道は消え、中央に新しい道が姿を現した。またこれだ。この山の中は結界だけでなくこんな風に迷いの陣が張り巡らされているのだ。おそらく、麓から山頂にかけて全てに。人間であれば迷う事はないだろう。なにせこの山の主は人間に肩入れしているような神獣であるのだから。だが、神獣となれば話は変わってくる。彼らの有する神聖なる霊力が陣の影響によって目的地を見失うようになっているのだ。祠を目指して歩いていれば、いつのまにか下山していた。なんて事は当然のように起こり得る。……昨日迷う事なく祠に辿りつけたのは、おそらくあの男の気まぐれだろう。あの楽しそうに笑っていた姿がまさにその証明だった。なんと腹立たしい事か。
    見の内に湧き上がる不快感に似た感情を誤魔化すように首を軽く振る。あんな男に心乱されるだなんてありえない。藍忘機と言う男は感情に流されるような男ではないのだ。
    元来、神獣と言う生きものは人が言う所の『感情』と言うものをあまり理解していない。そもそも、感情と言うものは人間が生み出したものだ。嬉しくて笑顔になってしまう事も、悲しくて涙が出てしまう事も人がそう定義付けしただけにすぎない。故に人間は大勢で集まり、集落を作る事が出来るのだ。
    だが、神獣は違う。
    神獣にとって感情とは必要のないものだ。悲しいと思う事も、嬉しいと思う事も神獣が神獣として生きる上でなんの意味も持たない。故に神獣は人が言う感情と言うものを理解出来ないものが多い。もちろん、まったく感情がない訳ではない。神獣であっても悲しいと思う事はあるし、喜ばしいと思う事だってちゃんとある。だが、人間とは種類が違う、そう言った方が分かりやすいだろう。
    藍忘機は特にその神獣の特徴を良く引き継いでいる神獣だった。藍忘機は生まれてこの方、一度たりとも悲しいと思った事も嬉しいと思った事もなかった。自分は神獣であり、人の世とは離れて過ごさなければならない。彼の厳粛な叔父に教え得られた神獣としての心得は、彼自身の中に強く刻み込まれているのだ。
    だから、こんな風に苛立つような感情を覚えるのも初めての事だった。腹の底が沸き立つような不快感。体の内側に何かがこびりついているかのような気持ちの悪い感覚。そんな感覚を覚えた事は生まれて初めての事だった。
    それもこれも全てあの狐男のせいだ。
    彼の事はまだ何も解決していない。なぜあんな事をしているのかも何一つ分かっていない。なぜ人間と関わるのか。なぜこんな山奥で結界を張って一人で住んでいるのか。その全てを藍忘機は解明しなければ気が済まなかった。あんなもので引き下がれる程、藍忘機と言う音は諦めの良い男ではないのだ。
    獣道をうねうねと東の方角へ進む。途中にある沢を超え、少し開けた場所で視線を木蓮の木が並ぶ石段が姿を現した。その石段をおよそ五十程。昨日とはうってかわって、ずんずんとまるで石段を足の底で叩き割ろうとしているかのような力で強く踏みしめながら素早く上った。
    その場所にその男はいた。
    藍忘機が来ている事を気配で察していたにも関わらず、隠れる事もせずに、祠の前に座り込み、ただ足元にいるうさぎたちと戯れているようだった。

    「おー、藍湛か。今日は随分早いな。昨日は眠れなかったのか? それとも」

     男が言葉の続きを続ける前に、藍忘機は剣を引き抜いた。切っ先はもちろん男の方へと向ける。白銀の剣身は真っすぐに男へと向かい、青白い美しい輝きを放っていた。

    「おいおい!いきなり物騒だな!」
    「御託はいい!昨日はなぜ逃げた!」
    「そりゃ逃げるだろ!お前、俺を切る気満々だったじゃないか!そんな物騒な状態で逃げないヤツがどこにいるっていうんだ!」
    「問答無用」

    悪には正を。邪には聖を。その志こそが藍忘機が教えられてきた全てだ。間合いを測る。距離にすれば藍忘機の足で五歩にも満たない程だ。その間合いを一気に詰めようと地面を蹴ろうとした瞬間、男の足元で戯れていたうさぎ達が突然視線を寄越し藍忘機の方へと走り寄ってきた。

    「っ……!」

    突然の動きに一瞬だけ怯んでしまったのは事実だ。瞬きの後、視界から消えた男は藍忘機の後ろに立っていた。

    「なぁ、藍湛。昨日も言っただろ?ここは俺の領域なんだ。例えお前がどんなに腕っぷしが強くてもこの領域内ではそんなもの何の意味も持たない。俺は別に戦う気はないんだ。だから剣を収めてくれよ、藍湛」

    そう言ってへらりと笑う男に、藍忘機は返す言葉もなく悔しそうに奥歯を噛みしめた。憎らしい。こちらの話など真面目に聞く気は無いとばかりの、のらりとした態度はどうしたって苛立ちを覚えてしまう。こちらの分が悪い事など分かっている。だがそうしなければあの男は話すらも真面目に聞く気が無かったのではないかとそう思うのうだ。無謀は所詮無謀でしかない。不満を感じながらも藍忘機は大人しく剣を鞘へとしまった。

    「……名前」
    「ん?ああ、藍湛って呼び名を何で知ってるかって事か?そりゃ知ってるさ。お前結構有名人だぞ?」

    藍忘機が意図したのはそういう事ではない。気安くその名を呼ぶなと言いたかったのだが、それを訂正する事も面倒だと思ったのでそのままにする事にした。どうせ言った所でこの男はそれを改めはしないだろう。のらりくらりとした態度で、間違いを正す事なく、逆にこちらが間違っているのだと誤認させてしまうのだろう。なんと腹立たしい。この男とはまだ会ったばかりではあったが、男の本質的な部分の事はなんとなく分かってしまったような気がした。
    藍忘機はひとつ溜め息を吐き出した。名前の呼び方など、この際どうでもいい。今、気にすべき事にくらべれば些細な事だ。

    「この式紙は君が?」
    「あれ?良く式神だって分かったな」

    男の足元で大人しくしているうさぎに視線を向けてそう問えば、男は大げさに驚いたような顔を見せた。

    「なんでかは分からないんだが、俺は動物にはあまり好かれないんだよ。俺が近寄るとみんな逃げてしまう。でもさ、山を守る神獣が獣の一匹にも好かれないだなんて可笑しな話だろ?だから式神を俺に懐く獣に見立てているのさ」

    つらつらと言葉を並べたままに男は足元にいたうさぎを持ち上げた。白いうさぎは大人しくされるがままに男の腕に収まり、まるい赤い目で藍忘機の方をじっと見上げていた。

    「どうだ?よく似てるだろ?どこからどう見ても本物そっくりの式紙のうさぎだ。毛並みもふわふわし、目だって赤い。撫でると気持ちよさそうにもするし、お前も触ってみたくなるだろ?」

    そう言ってにやりと笑う男の視線に釣られて、うさぎの方へと視線を向けた。男の腕に抱かれたうさぎは確かに式紙とは思えない程に本物のうさぎのような容貌をしていた。ふわふわとした毛並みに、まるく赤い瞳。僅かな隙間風にすらも柔らかく靡く毛並みは、撫でればさぞ気持ちがいい感触はするのだろう。だが、その誘惑に乗ってうさぎを撫でる事にはどうにも抵抗を覚えた。この男の口車にのれば、男はきっとうさぎを撫でる藍忘機の事をにやにやと人の悪い笑みで見てくるのだろう。堅物そうなお前もうさぎの可愛さには勝てないんだなと、とんでもない事を言いだすかもしれない。それ以前に、うさぎの話は藍忘機が本当にしたい話とはかけ離れている。そんな事をしている暇など藍忘機にはあるはずもない。だと言うのに。視線はうさぎから離す事が出来ない。うさぎには罪はない。柔らかな毛並も赤い瞳も決して悪いわけがない。うさぎに罪はない。そう罪はないではないか。ちょっと背を撫でたって、何が悪いと言うのか。
    そんな事を頭の中で試行していると、石段の方から楽しそうな声が聞こえた。

    「母さん、足元気を付けてね」

    慌ててそちらへと視線を向けると、昨日の少女と、その少女の横に大きなお腹を抱えた女性がゆっくりとした足取りで石段を登っている所であった。

    「あいやー、あの人あんなにお腹が大きいのにまたここまで来ちゃったのか」

    そう呟いた男が、そっと指先で空に陣を書くと一陣の風が木々の間を通り抜ける。頬を撫でる風はほんのりと温かい。恐らく、守護の力が宿っているのだろう。その風の行方を藍忘機はただじっと見ていた。

    「おいおい、怖い顔するなよ。ただの守護の風だって。効果はこの祠の近くでしか利かないけど、この中であれば絶対に転ばないし母体の安全は絶対に守られる。それだけだって」

    そう言ってにこりと笑うと男は大きく飛び上がって、木の枝に飛び乗った。それについて行くように藍忘機も枝に飛び乗ると、少女と母親を木の上から見下ろした。元来、神獣と言う者は人から隠れる必要はない。霊力によって姿を消す事が出来る故に隠れるという挙動が不要である為だ。だからこの行為は隠れると言うよりもこちらのが良く見えるとでも言いたいのだろう。確かにこの高さであれば十分に祠の周りを見渡す事が出来るだろう。青々と茂った葉は容易に視界を遮る。顔に掛かる葉をそのままにしていれば、男は可笑しそうに小さく笑って視界が開けるように葉を避けてくれた。

    「お母さん、足元に気を付けてね。この石段は緩やかだけど転んだら大変だから」
    「はいはい、気を付けますよ」
    「もうっ!お母さんが悪いんだからね。お狐様にお礼をしたいだなんて言うから!」
    「ふふふ、でもお礼は大切でしょ?あんなに栄養価の高い果物なんてこの辺の山じゃ取れないものなのよ?あれをくださったのはお狐様が私達の事をちゃんと見守ってくださっているからなのよ。そんなお狐様にお礼もしないだなんて、失礼でしょ?」
    「そうだけどさ……」
    「さ、お狐様にお参りしましょう。どうか私達家族が幸せでいられますように、って」
    「はーい!」

    嬉しそうに笑う少女とそんな少女を優しく見つめる母親。そんな親子の様子を、藍忘機の横にいる男はとても楽しそうに見つめていた。目を細め、口元を緩やかに綻ばせて。まるで、とても嬉しいものを見つけた無邪気な子供のような笑顔は、藍忘機にとってとても不思議なものに見えた。なぜ、自分の事でもないのにそんなに楽しそうな顔が出来るのだろうか。あの親子の会話は決して笑えるようなものではない。微笑ましく感じる要素は確かにあるが、この男が微笑ましいと思えるようなものではない。それなのになぜこの男はこんなにも愛しみの籠った瞳で親子の事を見つめているのだろうか。藍忘機にはそれが分からなかった。

    「なぁ、藍湛。お前は人間が好きか?」

    当然、男はそんな言葉を口にした。今思いついた事を、そのまま口にしただけのような口調に藍忘機は一瞬面食らってしまった。
    人間が好きかだって? そんなもの考えるまでもない。

    「私達は神獣だ。そう言った感情に左右されていい存在ではない」

    はっきりとした口調でたったそれだけの真実を告げた。悩むまでもない。神獣は人と人の世を守る為に存在している。人の守る事が生まれた意味なのだ。故に好き嫌いと言った感情でどうにかしてはいけない。そこにどんな理由があろとう神獣は人を傷つけてはいけない存在として生まれた時から定義付けされているのだ。いや、そんな感情を持つ必要がないと言った方が正しいだろう。どの人も等しく神獣の前では庇護する存在であり、それ以外と言うものは存在しない。難しい事などない。たった、それだけの事だ。それを何故、この男はこんな風に聞いてくると言うのだろうか。藍忘機にはそれが分からなかった。

    「ははは、教科書みたいな答えだな」

    可笑しそうにけらけらと笑った男は再び祠の前にいる親子へと視線を向けた。大きな木の根っこに腰を降ろした母親とは対照的に、少女の方は懸命に祠の周りを掃除しているように見える。なるほど。こうやって定期的に掃除をする者がいるからこの祠は年代物の割に綺麗な姿をしているのか。そんな事をぼんやりと考えていると、男は言葉を続けた。

    「俺は人間が好きだ」

    はっきりと。神獣であれば出るはずのない言葉が男の口から零れ落ちた。その言葉に藍忘機は驚きが隠せない。感情を表に出す事の少ない藍忘機の目が見開かれた事を目ざとく目に止めたのか、男はいたずらに笑って見せた。

    「お前には分からないかもしれないな。でもな、俺はああやって懸命に生きている人間がすごく愛しいと思うんだ」

    男の瞳が柔らかく細められる。まるでいつくしむかのように。その柔らかな視線が祠の前にいる親子……いや、『人間』に向けられていた。喜び。愛しさ。慈愛。男の顔は優しくどこかきらきらと輝いているかのように感じられた。藍忘機は何故かその顔から目を離す事が出来ず、ただ何もじっと男の顔を見つめている事しか出来なかった。

    「おっと……そろそろ帰るのか。じゃあ、今日も果物をやらなくちゃな」

    懐に手を差し込み一枚の紙を取り出して空中で文字を書き込むと、それをそっと親子の方へと投げた。空を舞う式紙は空に放られるのと同時に小さなうさぎの姿に変わり、その背に器用にまるまるとした桃を背負うと、親子の方へと懸命に走って行った。

    「母さん、そろそろ帰ろう……あれ?」

     額に滲む汗を乱暴に衣の袖で拭い、木の下に座る母親に声を掛ける。その足元にうさぎがすりすりと擦り寄れば、少女はその背に背負われた桃の存在に気が付いて大きく目を見開いた。

    「母さん!母さん!お狐様よ!きっとお狐様がまた母さんの為に果物をくれたんだわ!」

     喜ぶ少女とは裏腹に驚いたような顔をしている母親。良く似た顔が真逆の表情を浮かべている姿はまるで噛み合わない歯車のように見えた。親子は互いに目を合わせると、瞳に涙を浮かべ、そうして手を合わせて深々と祠へ向けて頭を下げた。二つの頭がゆっくり持ち上げられると互いに手を取る。そうして、来た時と同じ速度でゆっくりと階段を下りていった。

    「妊婦には栄養が必要なんだ。なぁ、藍湛。お前は今日も俺を理に反していると怒るか?」

    そう問いかけてくる顔に藍忘機は僅かに息を飲み込んだ。鼓膜を震わせた言葉は体の中に留まる事なくほろほろと崩れていく。風の音も、親子の楽しそうな声もそのどれもが藍忘機の耳には届かなかった。自分の心臓の音がやけにうるさい。呼吸の仕方が分からなくなる。ただ藍忘機の玻璃色の瞳に移った男の柔らかな笑顔だけが、この世のどの宝石よりも美しいもののように見えていた。

    「藍湛?」

    男の呼びかけに藍忘機の意意識は現実に引き戻される。消えていたはずの音が再び鼓膜を震わせ、どくどくと大きく脈打っていた心音が少しだけ平静を取り戻したかのように静かになって行った。未だ少しぼんやりとするような頭を小さく振る事で誤魔化すと、藍忘機は小さく息を吸い込んだ。

    「…………あの母親はもうすぐ子を産む。その為に体力をつける事は必要不可欠だ」
    「ハハハ、ありがとな。藍湛」

     らしくない事をした。頭の中では自分の行動の不可解さに疑問を感じていた。だが、それが間違っている事だとは思わなかった。……だめだ。思考が混濁している。今日は少し調子が悪いようだ。笑う男に背を向けると、藍忘機は剣を取り出した。今日はもう帰ろう。藍忘機にはこのざわつく心を落ち着かせる必要があった。
    この場を離れようとした時、男の声が藍忘機の背中に掛けられた。

    「藍湛!」

    呼ばれた声に反応するように振り返る。男はまるで太陽のような満面の笑みで綺麗に笑っていた。

    「俺、魏嬰って言うんだ。明日も来てくれよ。お前ともっと話をしてみたい!」

    その顔が頭から離れない。先ほど落ち着かせたはずの心臓も再び大きな鼓動を打ち始めた。
    魏嬰。
    小さく口に出した男の名前は、甘い響きとなって藍忘機の心を震わせた。
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    miyomimin

    DOODLEA○Fの魔法使いと使い魔AU。
    魏嬰が消えたあとの藍湛と使い魔たちのあれそれ。
    私の鏡。使い魔は鏡だ。
    そう教えてくれたのは私の叔父だった。

    使い魔は鏡だ。己の内面を映し出し、己の内面によってその性質がきまる。故に、使い魔を制御するには己の内面を鍛える必要がある。利己的にならず、奢らず、常に謙虚な姿勢を保ち、礼儀正しく清く生きる。それこそが、優秀な魔法使いと優秀な使い魔なのだ、と。

    その言葉を思い出しながら私は自分の使い魔を見下ろした。
    床にぺたりと座り込み、ただじっと目の前で眠り続けている魏無羨の使い魔を眺めている私の使い魔。
    幼くまろみのある頬は年相応の容姿をしているのに、何の感情も見せない瞳が大人びてように見える。そのちぐはぐな使い魔が見つめる先には小さな寝台がひとつある。寝台の上を埋め尽くすかのように色とりどりの花が並べられ、その中で丸まって眠る魏無羨の使い魔が穏やかな寝息を立てていた。眠る使い魔はもう数年、目を覚ましていない。彼のマスターである魏無羨がいなくなった日から、彼の使い魔はずっと眠り続けているのだ。己を封印したのだろうと、誰かが言っていた。己のマスター以外には従わない。己のマスターにのみ従属する。その感情の表れが彼の使い魔を眠りの世界に誘ったのだ。
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