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    いろいろ置き場(ほぼローラン)
    「できた」タグが文
    新しめの文はぷらいべったー版も各説明にリンク載せてます。ゴシック体なので読みやすいはず。
    Pass:ローランの誕生日(Roland's birthday mmdd)

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    らくがき(文)です
    ローラン夢かと思いきやそんなことはない

    認識阻害ローランに助けてもらうモブ女 あれは一年ほど前、今日みたいに寒い日のことです。
     私は叔父の家へ向かう道を急いでいました。歩き馴れていない迷路のような裏路地で、太陽がどこへ沈んでいるのかも分からない夕暮れでした。とはいえ、数少ない親戚の一人と久しぶりに再会できるのですから、私はその足取りも苦ではありませんでした。

     事が起きたのはその夕暮れの赤い光が今にも尽きそうな頃です。
     何本か隣の道から――それは私の意識を貫くように、大きな悲鳴が聞こえてきました。理解するよりも早く私の鼓動は勢いを増し、辺りを思わず見渡していると、続けて何か大きな音が聞こえてきました。
     後から思えば、あれは何かを潰す音だったのでしょう。私は絶対に逃げなくては、ととっさに来た道へ引き返します。ヒールの高い靴では走りづらく、それでもどうにか出来る限りの速度と歩幅で石畳を蹴りつけて走ります。

     ところが、私の向かっている方角からも何か大声が聞こえました。走るのに必死で、それがどのくらい離れている声なのか分かりません。怒鳴っているような声にも聞こえましたが、それが次第に苦しそうな声に変わっていくことに気づきました。走ってきた元の道からも大きな音がして、私の前後に薄暗く続いている曲がり角の両方に、その「何者か」がいるのだということが分かりました。つまり私は、逃げ場を失ったのです。

     辺りを見渡しても壁だけで、潜り込めそうな窓や隙間などはなく、よじ登れそうな場所もありません。どこかで風がシャッターを叩く音か、それとも何者かの歩いてくる音か、次第に大きくなるその音と共に鼓動も張り裂けそうになります。助けを呼びたいのに、呼べば気づかれてしまう恐怖が叫びと共に喉につっかかっているようで、呼吸をするのすら苦しくなりました。
     バタン、バタン!と大きな音が近づいて、私は壁に寄りかかり、なすすべもなく目を閉じました。死ぬ準備をしたのです。目を瞑る寸前に大きな槌のようなものを持った人間の姿が見えましたが、恐怖でもう一度見る気にはなれませんでした。

     突然大きな音がして、ついに私の死ぬ番がやってきたと思いました。しかし、目を瞑って恐怖にしばらく耐えていても、その番は来ません。よく考えれば、その大きな音も少し遠いような気がしました。私はおそるおそる目を開けて――目を開けるのがあんなに怖いことが二度とあるでしょうか――そして何が起きたか、確かめようとしました。
     しかし、「確かめる」なんて手間をかけるまでもなく、そこにあったのは真っ二つになった槌と、同じく腹あたりで綺麗に切断された大きな胴体と、真っ赤に染まった石畳が全てを物語っていました。私は「ひっ」と悲鳴をあげかけて、堪えました。まだそこに誰かがいるのです!

     そこにいる誰かは、私のほうを見ていました。そして、ゆっくりと歩いてきます。その手には赤く染まった黒い剣が握られていました。その剣に私も貫かれる、あるいは切り捨てられるのではないかと思って私は後ずさりします。私を狙っていたのは槌を持った人なのだから、もしかしたら助けてくれたのかもしれませんが、そうではなく私は何かしらの闘争に巻き込まれているだけかもしれません。

    「大丈夫か?」

     突然、目の前のその人が言いました。それを聞いた瞬間、私の張りつめた心臓は落ち着きを取り戻しました。その人は、私を助けてくれたのです。

    「は、はい……、」
    「ならいい」
    「あの、向こうからも、…音が……、大きな…、悲鳴みたいな声と…」
    「分かった。危ないから俺の後ろについて歩いて来い」
    「はい…」

     淡々と告げるその声の、なんて頼もしいことでしょうか。口調からは冷たい印象を与えそうなものですが、凍てつくような恐怖の前では何よりも温かみを感じました。
     私の命の恩人。私はその後もずっとずっとその人に感謝し続けました。
     暗くなった道の向こうから、私たちは何度か襲撃を受けましたが、その人は軽々と、そしてどこか優雅にその殺人鬼たちを屠りました。きっとその人は有名な騎士の方なのでしょう。
     ―—しかし悲しいことに、私はその人の姿を全く思い出せないのです!
     立ち振る舞いはあんなに美しいのに、顔はもちろん、どんな格好をしていたかも思い出せません。

     後日、あの時はチャールズ事務所のフィクサーが来ていたと耳にしました。チャールズ事務所と言えば一級事務所です。きっと優雅な騎士様もそこの所属かもしれません。私は叔父の家にしばらく滞在した後、自分の家へ帰る前にそのチャールズ事務所へと足を運びました。改めて感謝を述べたいのもそうですが、それよりも、あの騎士様をもう一度目にしたかったのです。一体あの麗しいお方はどんな方だったのか、私はどうしても知りたかったのです。


    「あの日、西区画にいたのって誰だかオリヴィエは分かる?」
    「誰だ…? 俺ではないことは確かだな。みんな結構走り回ってたみたいだし、時間にもよるよな」
    「あの時は夕方でした!」
     私は二人にそう言いました。チャールズ事務所で迎えてくれた二人のフィクサーにです。振る舞いと証言からその二人は騎士様ではなさそうです。

    「騎士様ねえ…。アストルフォのような気がするんだけど、アストルフォはそもそも別の任務に出てたからな」
    「ローランは?」
    「ローランが騎士様はないだろ」

     ありがたいことに、二人はずっと考えてくれています。しかしピンとくる人はいないらしく、もしかするとチャールズ事務所の方ではないのかもしれません。一級ともあろう方々にだんだんと申し訳なくなってきた私は、「そのローランという方は?」と最後に聞きました。

    「あぁ、あそこで寝てる奴なんだけど…」

     片方の人が指をさした先、ソファの上で居眠りをしている人が目に入りました。

    「確かに剣の腕は良くて、綺麗なんだよな。でもあんな風に寝てる奴が騎士様かって言われるとな」
    「お客さんがいるというのにあんな見苦しくて申し訳ないけど、実力はあるんだよ。まあ、騎士様じゃないだろうけど……」

     私は目を凝らしてその人を見ましたが、じっと目を閉じているその人からは何も感じませんでした。

    「別の所を当たってみます。すみませんでした」

     私はそう言って事務所を後にしました。
     その後も数件、他の事務所を当たってみましたが、騎士様はいらっしゃいませんでした。

     今でも思い返すだけで、強いあこがれの気持ちが呼び起こされます。きっともう二度と会うことはないのかもしれません。私の命の恩人。麗しの騎士様。もしかするとあれは何か、神の使いだったのでしょうか。

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