認識阻害ローランに助けてもらうモブ女 あれは一年ほど前、今日みたいに寒い日のことです。
私は叔父の家へ向かう道を急いでいました。歩き馴れていない迷路のような裏路地で、太陽がどこへ沈んでいるのかも分からない夕暮れでした。とはいえ、数少ない親戚の一人と久しぶりに再会できるのですから、私はその足取りも苦ではありませんでした。
事が起きたのはその夕暮れの赤い光が今にも尽きそうな頃です。
何本か隣の道から――それは私の意識を貫くように、大きな悲鳴が聞こえてきました。理解するよりも早く私の鼓動は勢いを増し、辺りを思わず見渡していると、続けて何か大きな音が聞こえてきました。
後から思えば、あれは何かを潰す音だったのでしょう。私は絶対に逃げなくては、ととっさに来た道へ引き返します。ヒールの高い靴では走りづらく、それでもどうにか出来る限りの速度と歩幅で石畳を蹴りつけて走ります。
2725