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    戌丸アット@94

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    戌丸アット@94

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    半サギョwebオンリー「Peach tea Time」での公開作品になります。

    #半サギョ
    #吸死_腐
    suckTheDead_rot

    縁は奇なもの、セロリ味なりその日、誰も予想していなかった事が起きた。
    それは下等吸血鬼の大量発生が起きた日。
    よく現れるアブラムシのような小物ではなく、下等吸血鬼の中でも危険度の高いものだった。
    可能な限り捕獲、というVRCからの要請に退治人たちも吸血鬼対策課のメンバーも難色を示したが共に奮闘したことで捕獲も何体か実行できるほど自体は一晩で片がつき、あー疲れたなぁと解散しようという雰囲気だった。
    しかし本当の予期せぬ事態は、その直後に起きた。

    「ぐぁッ!はん、だ先輩ッ!?」
    「さ、ぎょう…ッGurrrr!!!」

    吸血鬼化のような症状と共に半田が共に片付けをしていたサギョウを噛んだのだ。
    下等吸血鬼たちとはいえ中型の大量発生を捕獲や討伐する為に、半田桃は本人も気付かぬうちに無理をして半田はオーバードーズ、いわゆる血液錠剤の過剰摂取により仮性吸血鬼のような症状が一時的に起きてしまったのだ。
    ロナルドを筆頭とした退治人たちとは別行動なのも無理をした原因だったのかもしれない。
    すぐさま異変に気付いたヒナイチとカンタロウにより半田は引き剥がされ、気絶する事で落ち着いた。
    しかし半田に噛まれた翌日のサギョウは、血も出るほど歯型を付けられておりヒリヒリと痛む喉の皮膚に憂鬱となっていた。
    痛みで何かを飲んでも、ケホッと咳き込んでしまう始末で更に痛むという負のジレンマが起きているのだ。
    しかし、それは傷の話。
    そんな傷の痛みよりも隣の席の半田から向けられる視線の方が痛い。
    配置されているディスクの右側から鬱々とした視線を向けられたサギョウは、如何したものかと溜め息をつきそうになって堪える。
    絶対に今の半田先輩は勘違いしそうだよなぁ、と。

    「さ、サギョウ!のど飴いるか?」
    「え!あぁー……肌がヒリついてるのが気になるだけなんで大丈夫です」
    「そ、うか……すまん」
    「あー……えっと、美味しそうだし、やっぱり貰いまッ、抹茶じゃなくてセロリ飴かよっ!?」

    流石に僕でもキツイですから!と突き返すと結局、落ち込んでしまった半田に何とも言えぬ気持ちになる。
    アンタが悪い訳じゃない、誰も悪くない、と言いたいが噛まれてしまったのは事実だ。
    寧ろサギョウからすると事故の翌日にも関わらず出勤している半田の身の方が心配だったが、サギョウの方も手当てや検査などまでさせられてヘトヘトな状態だろうと出勤している身だ。
    もちろん人手が足りない筈にも関わらずヒヨシは休んで良いと言ってくれた。
    しかし寮で休んでいると鮮明に思い出してしまうし、何よりオーバードーズを引き起こした半田も出勤していると聞いては様子を見たくて、いても立ってもいられなくなってしまったのだ。
    ただそんな心配すらヒヨシと話し込んで頭を下げている半田の珍しい姿を見てしまって、声をかけそびれてしまっていた。

    「分かった、半田……その気持ち、汲んでやるが今日はギリギリまでデスクワークに専念するんじゃ、いいな?」

    ポンポンと優しく半田の肩を叩きながら声をかけるヒヨシたちを背にサギョウは、巡回のためにカンタロウと共に署を後にする。
    本来ならば共に巡回へと同行してくれるのは半田だ。
    しかし半田にデスクワークを言い渡されている姿を見てしまうと、どう声をかけたら良いのか分からなかった。
    同時にオーバードーズを引き起こしたんだ、身体にも負担があって当然だよな……と自分のことは棚上げしたサギョウは分解している狙撃銃を背負い直す。
    サギョウもまたヒヨシに我儘を言って出勤している身だ、半田に休めとは言いにくい。
    だからこそひっそりと巡回をする為にカンタロウを連れ、街を歩いていた。
    今は寮で休むよりもポンチ吸血鬼たちを相手に働いている方が気分が紛れるので世も末だ。

    「ケホッ!」
    「大丈夫でありますか?サギョウ先輩!」
    「あぁ、大丈夫ですよ。これ痛くて出てくる咳なんで」
    「むむ、そうでありますか?何かあれば休憩も止む無しかと!」

    巡回に同行しているカンタロウが「本官、のど飴とか持ってるであります!サギョウ先輩!」と言いながら個包装されたのど飴を差し出してきて困惑する。
    いや、俺の喉が痛いのは噛み跡の痛みって言ったばかりでしょうが!と思いはしたものの彼なりに心配してくれているのは本当だ。
    そもそも突っ込む気力が今のサギョウに無いほどには疲れが出ていた。
    普段は組んだりしないカンタロウと共に行動している為、少し緊張しているのはある。
    サギョウは狙撃手ゆえに近接は他のメンバーには劣る、と言うのは本人の言い分だ。
    比較する相手がズバ抜けて近接特化のヒナイチやオールマイティに動ける半田なので、入隊の頃に世話になったカズサの腹心でもあるヤギヤマからは「狙撃手にしては充分な戦闘力だよ」と困った顔をされた記憶は新しい。
    ましてやカンタロウは意外にもパイルバンカーや銃の取扱いに長けており遠距離、中距離を得意とする隊員である。
    確かにペアになるのは珍しく、近距離戦闘に不安はあったが、相談相手として今のサギョウには有難かった。

    「そういえば何故、避けているのでありますか?サギョウ先輩。半田先輩であればサギョウ先輩の愛をきっと受け止めて下さると本官、思うであります!」
    「ちょっ!?声がデカイですよ!」
    「あ、も、申し訳ありませんッ」

    そう、避けているのではない。
    本当は意識しすぎているから、というのが事の真相だ。
    今回の事故のように噛まれたい訳ではなかったが、それでもずっと本人どころか周りにもバレないように隠してきた恋心だ。
    なんだかんだと真面目な半田なので真剣に悩んでくれるだろうが本人の自覚は兎も角、彼はロナルドが好きなのだろうと思ったサギョウは半ば諦めていた。
    ならば何故カンタロウに恋の相談を?と思う人も居るだろう。
    無論、相談相手にカンタロウをサギョウ自身も選んだわけではない。
    そもそも隠すつもりなので誰にも相談するつもりなんてなかったのだ。
    もしも相談するとしても、モエギは驚きつつ相談に乗ってくれそうだが周りの人に隠せそうにないので除外するだろうし。
    吸対の癒やしルリちゃん、なんだかんだと頼れるヒヨシ隊長なんかも相談に乗ってくれていたかもしれない。
    しかしサギョウは誰にも言うつもりはなかった。
    信頼していない訳ではなく、実らせるつもりがなかったので仲間には要らぬ心配をさせたくなかったのが本音だ。
    サギョウ自身も諦めた、と言うより今は仕事に集中していたかったし、尊敬している半田は年上の男性だ。
    同性である半田に想いを寄せていても、それは本当に恋なのか?ただの憧れなんじゃないのか?と己を冷静に客観視して自問自答していた。
    自分の中で答えが決まってないのに告白はしたくない。
    にも関わらず、サギョウはミスをした。
    誰にも言うつもりのなかった半田への気持ちを年末の小さな忘年会の際に、カンタロウに対して絡み酒をしたらしい。
    カンタロウ曰く、その絡み酒の際にサギョウは吐露してしまったらしいのだ。
    詳しい事情は知らない筈のモエギから「あんなに普段、騒がしいのにアイツがあんなに縮こまってるのは初めて見たぞ……」と言われた程だった。
    記憶の朧げなサギョウからすると申し訳なさより、日頃は困っている身なので物珍しさから縮まるカンタロウの方が見てみたいものである。
    兎にも角にも忘年会以来、隣の暑苦しい男は驚いた様子を見せたものの「応援しているでありまーすっ!サギョウ先輩!!!」と一人で応援団ばりの声援を送ってくれている。
    意外なことに誰にもバレていない事から上手く隠してくれているカンタロウからの応援は、サギョウの心を少し軽くしていた。
    誰かに気持ちを知っていてもらい、更には応援されている事実はサギョウを孤独にはさせなかったのだ。
    しかし今のところ安心しているが、噛み付かれて喜んでしまったとは流石に事情を知るカンタロウにすら相談できない。
    ましてや本人の顔を見ると脳裏に噛み付いてきた半田の視線や体温、力の強ささえ過ぎってしまう有様で仕事に集中出来ずにいる。
    もう隠す事は限界に近いんだろうな、と痛感しているとルリから駆けつけてほしいという連絡が入った。

    「分かりました!行きましょう、カンタロウさん!」
    「了解しました!本官が注意を引きつけるでありまーすっ!!!」

    近くのビルに許可を貰い、狙撃準備に入る。
    繋げたままのスマホから響くカンタロウの声で「前に出ます!」と言う報告を受けて、スコープを覗くとパイルバンカーを構えた姿が見えたので、チラッと己の腰にある支給品の刀を確認する。
    カンタロウの戦闘能力を信じていない訳ではないが、万が一はいつだってある。
    いざと言う時の為に接近戦も考えなければならないな、と考えながら銃の撃鉄を起こす。
    あとはトリガーを引いて下等吸血鬼を狙撃するだけ。

    「あっ!?カンタロウさん、正面八字の方向!」
    『え!?く、了解!』

    電話でも割れるカンタロウの声に眉を潜めつつ、カンタロウから見て左後ろの下等吸血鬼を伝える。
    簡単にパイルバンカーを振り回して退治するカンタロウに当初は驚いたっけ、と懐かしんでいると。

    「サギョウ、気を抜くな!」
    「え」

    居る筈の無い声が真後ろから聞こえて思わず顔をあげて振り向く。
    まさか、どうして現場に?と呆気にとられながら目の前に居る半田桃その人が刀で下等吸血鬼を砂に変えてサギョウを守ってくれている姿だった。
    頬に降り掛かってくる砂の感触が幻覚などではないのだと知らしめてくる。

    「カンタロウから目を離すな!囲まれる前に親玉へのサポート出来るか?」
    「そ、りゃ勿論!背後、頼みます」
    「当然!」

    スコープや目視でカンタロウを囲もうとする下等吸血鬼たちを的確に撃ち抜いていく。
    時折、後ろから下等吸血鬼の奇声が聞こえたが一切、振り返ったりはしない。
    少し多いように感じられる様々な下等吸血鬼たちに違和感を感じながらも、背中越しで感じる半田の存在に心が荒らされていたのが嘘のように今は安心してトリガーを引けた。

    『こちらヒナイチ副隊長と合流して対象の砂化を確認したであります!』
    「了解、こちらでVRCに報告するので合流して下さい」

    了解でありまーすっ!と音割れ気味なインカムに半田と二人で苦笑いで顔を見合わせて、ようやく気付く。
    そういえば今日、初めてまともに半田先輩と顔を見合わせたかもしれない。
    と気付いた時には目の前に居る半田が頭を下げていた。
    え、どうして?と呆気に取られている。

    「サギョウ!お前の身体を傷付けてしまった責任を取らせて欲しい!」
    「は?え、ちょっと待っ」
    「勿論お前の気持ちは最優先にする!だが、どうか俺にチャンスを」
    「そんなこと期待させるようなことを簡単に言っちゃダメですよ?先輩。僕、アナタのこと好きなんだから」
    「……え?」

    あ、言っちゃった……と呆気に取られた半田の表情でサギョウは自暴自棄にも似た感覚で困ったように笑う。
    伝えるつもりはなかったのは本当だ。
    だが、こっちを勘違いさせるような事を言ってくるのなら別ではないか。
    黙っていられるほどサギョウは優しくはなれないし、終わらせるならば早い方が切り替えられる。
    流石の半田先輩も引いたろうな……と鼻の奥が痛むのを誤魔化すように慌てて踵を返すと、背中が温かいものに包まれて身を固くした。
    そんな筈はない、と思いたいのに己を包む力はサギョウを引き留めるように力強い。
    病み上がりだなんて、誰が言ったんだ。

    「え!?ちょっ、なにをっ!」
    「サギョウ、お前に勘違いをさせたのなら済まない」
    「勘違い?と、とりあえず銃が危ないですから離れてくだs」
    「ッ!……イヤだ」
    「なっ!?……んで……」

    サギョウにとっては何気なく言ったつもりだった。
    しかし離れてほしいと言われた半田からすると胸を締め付けられるほどには寂しい言葉で、抱き締める腕を更に強めた。
    身動ぎはするものの抵抗しないサギョウに嬉しさはあるものの、心臓の音が聞こえてきそうなほどに緊張している半田にサギョウは気付かない。
    お互いに心臓が飛び出しそうなほど緊張しているなら尚更だろう。

    「その、順序が違う事は分かっているんだ」
    「順序って……一体なんの話をしてるんですか?」
    「それ、は……お前を誰にも譲りたくない、と言ったら良いのか?いや、お前を物扱いしたい訳ではないんだが」
    「……えっ?」

    一向に背中から離れずに言葉を続ける半田から自分の都合の良い言葉が出てきて思わずサギョウは、ゆっくりと振り向く。
    確実に近いと分かっていたが夢ではないのかと確認せずにはいられなかったのだ。
    すると間近に現れた美丈夫が金の瞳で真っ直ぐにサギョウを見つめており、再び目が合うとバチンと火花が飛んだように全身に痺れが走る。
    はからずも月明かりで輝く金色の瞳を間近に見て動けなくなったサギョウは、スルリと頬を撫でられて漸く気付く。

    「嘘、でしょ……」
    「嘘は好まん、こんな形になって悪いが俺はお前がs」
    「サギョウ先輩!ご無事でありま………えッ!?」

    バンッと屋上の扉を破壊するつもりなのか、と思う程の音を立てながら登場したにも関わらず絶句した声にハッとする。
    そういえば今は仕事中でさっき合流すると言っていたではないか、と錆びたペダルのようにぎこちなく前を向いて扉を見る。
    何より理解を示してくれたとはいえ、こんな場面を見せるのは気に病まれると思っているとカンタロウが俯いて、申し訳なさが増す。
    いつも元気が服を着て歩いているような男であるカンタロウが俯く姿で事の大きさを暗にサギョウに知らしめてくる。
    なんとか声をかけなければ、と思うのに不思議と言葉にならない。

    「あ、こ、これは!その!」
    「お二人とも、まさか……まさか!遂に!!!お付き合いでありますか!?おめでとう御座いまぁぁぁす!!!」
    「う、耳がッッッ!」
    「なんてこと叫んでんだ、アンターっ!!!」
    「お前たち無事かって、うわぁあ!?カンタロウ!!?」

    予想外の事が起きると人は何をするか分からない。
    ボコォとセロリのブーケがカンタロウに突き刺さる音に驚くヒナイチの声。
    そんなヒナイチの声を添えて、いつの間にか握られていたセロリのブーケは見事に祝福の言葉を叫ぶカンタロウの頭に突き刺さった。
    その後、己に突き刺さったセロリのブーケをカンタロウが処理する事になったのだが何処へ消えたかは、また別の話である。

    「お前の身体を傷つけた責任は、きっちりと取るからなっ!」
    「もう!そういうの良いですから、ちゃんと言ってくださいよ」
    「む、そうか?……その、すッ、……俺はお前が好きだ、サギョウ」
    「ははっ!はい……僕も好きです、半田先輩」

    照れはするものの、ちゃんと言葉にしてもらえることほど嬉しい事はないのだと己を包む半田の手の温もりにサギョウは微笑み返すのだった。



    END
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