鳥弔 時時、夫の背中が堪らなく怖く感じる。
猫背で小さくて、シャツの皺が寄った背中。頼りない、みっともないと夫の友人は皆口を揃えて云うけれど、私はその背中を見て酷く恐ろしくなる時があるのだ。
決して、暴力を振るわれているだとか――そういう訳ではない。
寧ろ、夫は此方がひょいと不意に手を挙げるだけで怯えてしまうような人だ。
だからそういう驚異的な怖さではなく、多分あれは、
――幽霊みたいだ。
現世を離れ、浮世に逝く者の背中。冷たい道を歩き、寂しさを纏い、虚しさを背負い、闇がこびり付いている。
それはまるで死人のようで。
恐ろしい――。
悲しい――。
怖い――。
その背から覗く死の空気が、意図も容易く夫を向こう側に連れて往ってしまうのではないか。私には、それが堪らなく怖いのだ。
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