とある狼の日記20XX/XX/XX
今日から日記を付けることにする。
俺に初めての家族ができた。最初は「家族になってください」って言われた時は驚きもしたが、僅かに温かい気持ちになった様な気もした。
これが家族、なのか……これからなにがあろうと俺はお嬢を、家族を守っていきたい。
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俺はぎこちないながらも、お嬢を護衛したり、家族としてお嬢と二人、生活を共にしてきて最近は毎日が楽しいものだと少しだけだが感じる事もできた。
例え、ボスにお嬢を殺せと命令されていても、俺はこの生活を、無くしたくないと思う。それは俺の我儘なのだろうか?
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とうとう俺はお嬢を殺す様にとボスに釘を刺された。
眠るお嬢の枕元に立ち、俺はお嬢の寝顔を見る。
できない、こんなの、できるわけがない!
ぐるぐると考えていた俺に、まだ眠っていなかったのか、お嬢は「いいんですよ、やっても」とポツリと俺に投げかけた。
ああ、聡明なお嬢は気付いていたんだ、俺が殺す様に命令を受けていたことを。
でも俺はお嬢を殺したくない。
そう思った時、俺とお嬢はステラナイトに覚醒した。
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やってしまった。
あの白い悪魔の言葉に俺は……
これからどうなってしまうんだろう。俺は、もう喰べることを、やめられないのか……?
すみません、お嬢……お嬢……
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仕事で暗殺対象を殺した後、血の匂いにあてられた俺はその死体を喰べてしまった。あれからお嬢に隠れては喰べるのを止められなくなっている。自分でも抑えようとはしているのだが、血を見ると喰いたくて、疼いて仕方なくなる。
そうして人を喰べてきた後に、俺はお嬢にバレない様にシャワーを浴びて血を洗い流そうとしていたところをお嬢に見られてしまった。
そしてお嬢は喰べてもいいと、我慢しなくていいと俺のことを受け入れてくれた。
お嬢はなんて優しいんだ。
クララ、俺は一生お側で貴方に尽くし、貴方をずっと守ります。
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段々俺が俺でなくなる感覚がある。
確かに俺なのに俺じゃない何か……
考えても考えてもわからない。
何かが俺を蝕む気配がする。
そして、あれから喰べる量も増えた、お嬢が沢山沢山食べさせてくれる。本当に優しい人だ。
俺はその優しさにどのくらい応えられるんだろうか……?
お嬢を支えたい。
まだ、まだ耐えてくれ、俺はまだやれる……
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ああ、喰べたい
もういい……いらない!止めてくれ!
お腹が空いた
頭がおかしくなる……!
おかわりを頂戴?
嗚呼……
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今日は96階層で取引をしていて、今も元締めの依頼をこなしている。
その依頼の後で俺は獲物を喰べてしまい、それを見てしまったお嬢は気持ち悪くなったのだろうか、あれからお嬢は顔色が良くない。
あんな現場を見せるべきではなかったな。次からは気をつけるとしよう。
あと少しで取引もうまくいく、そうすればお嬢もきっとボスに認められる。
あと少しだ。
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ああ、そういえば日記をつけていたな!
本当に今は気分がいい!俺はやっと心を手に入れた!これでようやくお嬢に愛を囁いてあげられる。
長かった。
お嬢の目の前で父親であるボスを殺して喰べてしまった事は反省している。
賞味期限切れの羊は少々旨味は少ないが、それでも美味しかったと思う。お嬢はどんな味がするんだろう……
まぁ、お嬢は愛すべき家族であり、唯一無二の女だから食べる事は勿論しない。
あの時したキスは今でも興奮して忘れられないな。
これから楽しくなりそうだ、本当に!
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とある食事会に招かれた。
そこでいろんな肉料理を食べたけれど、特にラムチョップが美味しかった様に思う。骨まで柔らかくて全部バリバリと食べてしまった。
途中、俺が初めて喰べた人間が見えた気がする。懐かしいな。お嬢が怖がりそうなのでそれは言わない様にした、だって俺は優しいから。
最後に俺がお嬢に食べていて美味しかった、好きなお肉を食べさせてあげたら、とても美味しそうに食べるので俺も嬉しくなった。同じものが食べられるってとても嬉しいものだから。
ああ、幸せだな。
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彼方此方で大量のゾンビが発生した。
少し気になって食べてみたらまぁまぁ普通に食えた。
あの時もやはりお嬢は怯えていた。それはそうだ、ゾンビが辺りを徘徊しているのだから。なんとかゾンビを一掃して難を逃れたが、これがずっと続くのは勘弁願いたいところだ。
食糧も今持っているので足りるだろうか?なくなりそうならゾンビをどうにかするしかないか、とも考えている。
兎に角、何があっても俺はクララを守る。
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お嬢と話し合って俺たちは翌日、96階層でコロシアムを開催することにした。元締めには話は通してある。
負けた奴は俺が喰ってもいいとお嬢が言っていたからこれは楽しみだなぁ!
でも、お嬢はこのところ様子がおかしい。
精神が不安定な様でたまに泣いていたり、俺が声をかけるとなんでもないと言って逃げ出してしまう。
明日はコロシアムだからなるべくお嬢に無理はさせない様に俺が色々やるしかないだろう。
きっとこの催しは上手くいく。
俺は負けない、お嬢がいる限り!絶対な!!
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なんとなく、これが最期になりそうな予感がするからここに最後の言葉を残そうと思う。
もし、大丈夫だったらそれでいいだけだからな。
コロシアムの後、俺は冬志郎の言葉に目が覚めた。
お嬢とちゃんと向き合って全部何もかも俺が思ってる事や考え、純粋に俺はお嬢を愛しているということを伝えようと思った。
だから、あれからすぐさま行動に移した。
指輪を買って、銀の弾丸も用意した。俺の誠意が伝わる様に。
お嬢へ送る指輪にはペリドットという宝石が嵌め込まれている。お嬢の瞳の色に見えるので見た瞬間この指輪を選んでいた。
俺の左手の薬指にはめている指輪には紫色の宝石が覗いていた。これはアメジストと言っていたか、これもなんとなくて決めた物だ。
もし、お嬢が二人で選びに行きたかったと言ったら勿論また作りに行くつもりだ。
太陽の石と夜の石。これはこれで俺とお嬢みたいでとても気に入ってるんだ。気に入ってくれるといいな。
そして俺はこれからお嬢と教会で待ち合わせをしている。
全てを明かし、分かち合い、お互いの唯一になると誓うために……
さて、もう行かなければ。
今行きますね、クララ。