蜂と猫と月時雨雨が降っていた。
傘を差し、裏路地を通ると猫が雨に打たれながら縮こまっていた。それを見て何となく雨に当たらないように傘を置いた。ただの気まぐれってやつだ。
俺は雨に打たれながらまた歩き出す。
一瞬背後から衝撃と冷たさを感じた。
そしてズルリと己から引き抜かれる。
『ああ、これは刺されたんだ』
そう考えられるくらいには俺は冷静だったと思う。
「お前のせいで俺の大事な妹は死んだんだ!これは仇だ!」
俺を刺した男がいう言葉も熱と痛みでどうでもよくなってくる。俺はどんな顔をしていたんだろう?男は俺を見て走って逃げてしまった。
ああ、痛いな
今まで人に誇れる生き方はしてこなかったと自分でも思っているし、いつ死んでもおかしくないとも思っていた。
ここでやっと俺も生きることに怯えず、これから先のことを考えなくてもいいんだ、そう思ったらなんだか笑えてきた。
落ちるのは確実に地獄だろう、それでも俺には天国に違いない。
「さよなら、くそったれな世界」
そしてごみの中に埋もれるようにして倒れこんだ。
体温も次第に感じなくなり、意識も沈んでいく、これで俺は終わるんだ、そう思うと少しだけ寂しくもあるがそれ以上に喜びの方が勝っていた。
ある男がごみ溜めの中で死んでいた、死因は刃物で刺されたことによるものの様だ。
しかし、その男は微笑んで亡くなっていた。
安らかに、安らかに。