ユーニィのお話わたしがフィオルに負けたその日の夜。わたしは、グランポートの宿屋の部屋で寝る事になった。
闘技場では、楽しかった、強すぎるよ、そんなことを口に出して、明るく振る舞ってた。
この部屋には2つベッドがあるけど、誰が来るのかな。
彼女と顔を合わせたくないな。悔しくて泣いてしまいそうだから。負けた景色が、頭の中で繰り返される。
あと一歩だったのに。あそこであの斬撃に耐えれたら、わたしが勝ててたのに。
そんな意味のない考えを繰り返してるうちに、涙が滲んできた。
悔しい、本当に悔しい。鼻も目も涙が詰まって、息が少し苦しくなった。
こんこん、とドアを叩く音がした。
「ルーセッタだ。入ってもいいか?」素っ気ない様子で、ノックの主が言ってきた。
ルーセッタ、どんな人なんだろう。鼻が詰まっていて、匂いがわからない。とりあえずわたしは、ポケットに入れていた布で鼻をかんで、返事をした。「少し待ってて!今開けるから!」
ん、とルーセッタは言った。
がちゃん、と私はドアを引いて、ルーセッタを見て、彼女の匂いを感じた。柔らかくて優しくて、でも守ってくれそうな強さを感じる。そんな匂いだった。そして、声とは裏腹に、幼い外見の女の子だった。
「なっ!?お前なのか!?」彼女は驚いて本音が出たようだった。「初対面に"お前"って…えぇ?失礼だよ?」わたしはびっくりした。
「あぁ、ごめんな。びっくりしてしまって、つい…」しゅん、とした様子で、彼女は謝った。
「大丈夫だよ、ルーセッタちゃん。」少し笑みを浮かべながら、わたしは大丈夫と伝えた。「あぁ、ありがとう。ところでなんだが…」彼女は何か言いたげだった。
「うん。」わたしは相槌を打った。
「闘技大会の試合、オレも見てたんだ。すごくかっこよかった、素敵だった。」お前はすごいよ。そんな意味が込められているのかな。ってわたしは考えた。でも、それを言われるのは辛かった。
「ごめん。その話はしないで。」涙ぐみながらわたしは言った。
「あぁ、そうか。」彼女は少し気まずそうにした。
少し沈黙が流れたあと、彼女はこう言った。
「夕ご飯に食べたいものはあるか?オレが作ってくるよ。」
わたしは嬉しくなって「えっ!?作ってくれるの!?ありがとう!」と言った。「あんなに頑張ってる姿を見せられたら、美味しいご飯を食べてほしいってなるだろ?」にいっ、と彼女は口角をあげて言った。
「えへへ、頑張った甲斐があったかも!それじゃあね…」わたしも笑顔になった。
「鳥のグリルが食べたい!丸焼きのおっきいの!」
「わかった、作ってくるよ。」
「ありがとう!楽しみにしてるね!」わたしが凄く嬉しそうなのを見て、彼女は幸せそうに部屋を出た。
がちゃん、とドアが閉まる。
ふと、わたしが「がんばった甲斐があったかも!」と自分で言ったことが頭に浮かんだ。
悔しい、だとか勝ちたかった、とか。頑張った自分から目が離れてた。
わかんないや。フィオルはどんな気持ちで、わたしと戦ってたんだろう。きっと会う機会はいずれあるから、その時聞いてみようかな。それにしても…
「おなかがすいたなぁ。」と情けない言葉が口から出た。なんだよ。おなかがすいたなぁって。あまりにもまぬけで、あはは。と自分でも笑ってしまう。
でも、笑えてしまう自分が居ることに安心する。
ふと、わたしのことをすごい人だって、頑張り屋さんだって褒めてくれたクロエさんの事を思い出した。
わたしのことを認めてくれる人は、きっとたくさんいる。そんな事を考えていたら、美味しそうな鶏肉の匂いが鼻を通った。「ありがとう!ドア開けるね!」わたしはあわててドアを開ける。
「ごめんな、遅くなって。」ルーセッタが言った。
「ううん、そんなことないよ。」「すっごく美味しそう、今日頑張ってほんっとうによかった!一緒に食べよ!」わたしがそう言うと、ルーセッタも笑顔になった。
「パンと牛乳も持ってこないとな。」と彼女が言った。
「じゃあわたしも手伝う!」と言うと、「そういう頑張り屋さんな所、素敵だよな。」って彼女は言ってくれたんだ。えへへ。
ルーセッタのごはん、楽しみだなぁ。