あなたへの贈り物なにか夢を見ていた。私に友達が出来たり、仲間が出来たり、選ばれし者、だとか、そんなおおごとに付き合わされたり。
柄にもなく、自分の心に蓋をして、仲間を守るとか名目を付けて、自分を危険にさらしたり。
その中で私が壊れたって、しょうがないんだ。私って、こうしないと生きる意味も、価値もないから。
私って、向いてないものを頑張りつづけたら、ああなるのかな。嫌な夢だった。
いや、あれは夢じゃなかったんだ。
それに私が気付くと、恐ろしく重いまぶたを開いた。
グランポートの宿屋の天井。昼下がりの日差しが、景色を忘れた私の目をついた。
あぁ、眩しいな。と思うと、私の身体が痛む感覚が、急に広がってきた。
瓦礫から拾ってきたぬいぐるみのような自分の手や、痺れた感覚しかない両足。
私のそれらには包帯ががんじがらめに巻かれて、そこには赤色と黄色のシミがてんてんとついている。
ははっ、こんなに迷惑かけさせて。死ねばよかったのに。
そんなことをぼそっと、私は言う。
そうして上体を起こして、部屋を見回す。
机には、「フィオルへ」と書かれた、包装をされた本があった。
へぇ、誰へのプレゼントだろう。たぶん、私のかな。
机には手が伸びない、痛みに勝てるほど、その本に興味がないから。
上体は起こしたけど、何にもできないや。これからどうするんだろう、私って。
気が付くと、私は寝てしまったみたいだ。
「ーー!きこえ…ないか。今日も、身体を拭くね。」
はつらつな声が、寝ていた私を呼んだ。今日も?もしかして私、ずっと寝ていたのかな。
「包帯、外すね。痛かったらごめん。」するりと私の包帯がとれて、柔らかい濡れた布が私の手足を拭う。
「あんなにきれいだったのに、私のせいで。」声の主は、私の身体を拭うとぼそっと呟く。
彼女は続けると、背中や胸、首筋とかを拭い始める。普通は触られるとぞくりとする所のはずなのに。この子に触れられるのは不愉快な感じがしなかった。
私の身体を拭き終えると、彼女は言葉を続けた。聞こえてるかもわからない私に対して。
「ごめんね。いっぱいおしゃれしたかったよね。」
「いつか君が起きたら、音楽のこと、おしゃれのこと、たっくさんお話したいんだ。」
今でもいいよ?と私は口を開く。眼の前のはつらつな少女は、驚いてベッドから転がり落ちた。
私は転がり落ちた少女に驚き、慌てて少女に手を伸ばした。
だけど、フィオルの身体はちゃんと私を支えてくれない。
転けたフィオルは少女に覆いかぶさるように、墜落した。
フィオルと少女の目が合うと、あははと少女は笑う。
少し間が開くと、慣れた手付きで少女はフィオルをベッドに座らせた。
「意識戻ってたんだ。いつからかな?」一呼吸置いて、少女は私に聞いてきた。
「たぶん、今日の昼頃。」私は曖昧な返事をする。だって、曖昧にしかわからないから。
ユーニィは少し口角を上げて、話を続ける。
「そっか、そういえばだけど。」「わたしの事、覚えてたりする?」
私ははどきりとした。覚えてなんかない。フィオルへの憎悪と怒りしか、自分に残っているものはないから。
私は気まずそうに話す。
「ごめん、覚えてない。」
少女は眉を下げて、少し寂しい表情を見せた。そして、自己紹介をした。
「わたしね、ユーニィっていうの。」「きみの友達で、えっと…」
ユーニィはフィオルとの思い出がたくさんあるのか、言葉を詰まらせた。
「もしかして、ユーニィも覚えてないの?」フィオルはいじわるな笑みを浮かべて、言葉を投げてからかった。
「ちがうよ!」顔を真っ赤にして、ユーニィは否定した。
怒った彼女は、不機嫌そうにラッピングがされた本をフィオルに差し出した。
「ほら!」
怒った顔がかわいらしいな、とフィオルはにやにやとする。
「ラッピング、開けられないよ?」フィオルはにやけた顔で、ユーニィをじっと見つめる。
「もう、わかったよ。」ユーニィはそう言うと、丁寧にラッピングをといて、本の表紙をフィオルに見せる。
厚手の表紙には、フィオルへ、ありがとう。とだけ描いてある。フィオルが表紙を見つめると、すぐにユーニィはページをめくった。
表紙の裏と中表紙を見る限り、本の内容はどうやら洋服のカタログギフトみたいだ。
ユーニィは向かい合って、本のページをめくろうとする。そんな彼女に、フィオルはお願いをした。
「隣で見せてくれない?」
ユーニィは少し驚いたが、了承してくれた。少し鼻先を赤くして、フィオルの傍に座って本を開いた。
私はふらついた身体でユーニィに寄りかかる。
ユーニィは小さいけどなんだか厚みがあって、寄りかかると少し汗と石鹸の匂いがして、すごく安心感があった。
ユーニィが見せてくれた本の中には、色んな服を着た女の子の絵がたくさんあった。
深紅に煌めくドレスや、フリルがたくさんついたゴシックスタイルのスーツ。そうそう、騎士みたいな甲冑もあった。私が頼んだら、仕立て屋がこれを作ってくれるみたい。
私、こんなことされる価値なんてあるの?
フィオルがふと口を開き、卑屈さを言葉にする。
わたしは少し笑顔が曇ったけど、本をベッドの近くに置くと、太い腕でフィオルをぎゅっと抱き寄せた。
「ごめん、わたし疲れちゃった。空も暗くなったし、一緒に寝てよ。」
細くなって、髪の伸びたフィオルにわたしはお願いしてみる。きっとフィオルはわたしの事は思い出してくれないけど、今からでも思い出はつくりたい。
「わかった、おやすみ。」
そう言うと、フィオルは横たわる。海のような瞳を私に向ける。
ユーニィはその海に視線を向けると、フィオルを抱きしめて眠りについた。