Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    あすぺら

    良からぬ絵はこちらにおいていきます
    記念絵のラフとかも載せていくかもです

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 79

    あすぺら

    ☆quiet follow

    ユーニィとフィオルの話です

    大切な人やった、やっと越えられた。
    幾多の毒矢が突き刺さり、アリーナの砂地に倒れ込むフィオルを、わたしはじっと見つめる。
    この闘技場で彼女に何度負けたかわからない、負けた悔しさでなんど泣いたかわからない。
    でも、やっと勝てた。乗り越えられたんだ。

    フィオルの救護を待機していた薬師に任せると、わたしは宿舎へ脚を進める。かくかくとした脚はふらつくけど、今までのどのわたしの脚よりも軽くて前に進める気がした。
    宿舎に着くと備え付けのベッドに身体をしずめた。身体を埋め尽くしてた高揚感がほんの少し抜けて、全身が鉛みたいに重くなる。
    フィオルに斬りつけられた肩と脇腹が、ずきずきと痛みを発し始めた。脚は負荷を掛けすぎたのかぴくりとも動かせなくなって、わたしはただ昼上がりの景色を窓から見上げるだけになる。

    気がつけば、空の色はオレンジに切り替わっていた。
    少し軽くなった身体を起こす、酒場にでも行ってみようかな。クロエさんに会いたい。あの人、たくさん褒めてくれるから。
    少し軽くなった体を持ち上げて移動させる。
    宿を出て、少しグランポートの街並みを見回す。夕暮れに照らされてるけど、いつもどおりだ。
    オレンジの街並みを見渡しながら酒場へ向かう。気分のせいか、ほんのり明るい。酒場のドアをきいい、とあける。
    クロエさんの後ろ姿は見えたが、別の人の話し相手をしてるみたいだ。話し相手はさらりとした金髪の女の子で、わたしより背丈は大きい。たぶん、フィオルだ。

    少し気まずくなって、わたしはクロエさんから少し遠い席に座る。いつものようにジョッキで牛乳を頼むと、金髪の女の子にじーっと視線を向ける。
    フィオルには細かな矢傷を作ってしまった。二の腕にぷつぷつと、ふとももにぽつぽつと。顔にも矢が通り抜けた傷跡が何個もある。
    何個も、ごめん。素敵な顔なのに、きれいな身体なのに。戦った相手にそう思うことが失礼なのはわかってるけど、その感情がわたしの心のなかに浮かんでしまう。
    ちらり、とフィオルの頬のあたりにアザがあるのを見つけてしまった。長い前髪では誤魔化しきれない、こぶし大のアザだ。
    思わずユーニィは「わたしじゃない。だれがやった。」と荒げた声を出してしまった。
    ぎょっ、とした空気が酒場を満たす。ユーニィは背中がほんの少し冷える気がしたが、ぎょっとした空気に気づかないふりをする。
    ユーニィはつかつかと、フィオルのいる席に脚を進める。
    「フィオル、その頬のアザはなに?」少しパニックになりながら、ユーニィはフィオルに問い詰める。よくみるとふとももにもアザがあって、後頭部はたんこぶで膨れていた。
    「転んだんだよ。」彼女はあはは、と笑い、おどけた様子を見せた。
    「じゃあ、後頭部のたんこぶも?ふともものも?全部転んだからなんだ!?」誰にやられたんだ。という怒りを撒き散らしながら、ユーニィは問い続ける。
    「やめなさい。」クロエが諌めようとする。「人にはね、触れられたくない事情があるのよ。」諭すようにクロエは続けた。
    「でも…」とユーニィは口を開こうとする。フィオルは負けた自分が許せなくて、自ら傷つけたんだろう。でもそれでも言いたいことがある。
    「話すならふたりきりでしなさい。場所はとってあげるから。」
    クロエは困ったような顔を隠してそう伝えると、宿屋の広めの個室にふたりを案内した。
    フィオルは少し気まずそうな顔をして、ユーニィはこみ上げた怒りを必死に鎮めながら、二人は宿屋に向かった。
    「ごめんね、フィオル。」眉間の皺をごまかしながら、ユーニィはベッドにたたずむフィオルの隣に座り込む。
    「フィオル、わたしの話、聞いてくれる?」ユーニィは不安げな表情をして、そう問う。
    だいじょぶだよ、とフィオルは返してくれたけど、なんだか上の空だった。
    聞いてくれないのかな、悲しいな。わたしは思い通りにならない口を必死に動かしてるのに。
    「わたしね、フィオルの事が好きだよ。君と戦いたいってわたしのわがままを聞いてくれる所とか、素敵な笑顔を見せてくれる所が。」「いっぱい頑張ってて、いい匂いがして、だから…」
    「そんなフィオルを傷つけるの、やめてほしいな。」
    お見通しなんだよ、って顔でユーニィは話す。ほんとは怒りたい、怒鳴り散らして張り倒したい。わたしの尊敬する人、大好きな人を傷つけるなって叫びながら。でも、わたしはフィオルを傷つけたくない。笑ってほしい、苦しいならわたしに頼ってほしい。友達だって、大切な人になってるって伝えたい。

    「そんな事思わせてたんだ、ごめんね。」フィオルは自分のふとももをに爪を立てて握りしめながら、ユーニィに謝る。滲んだ血の匂いが、ユーニィの鼻をひどくつついた。
    「私っていつもそうなんだ、普通じゃないから、みんなと違うから。迷惑をかける、傷つける。私なんて…」ギリギリと爪が、彼女自身のふとももに入り込んでいく。
    やめてよ、やめてよ。ユーニィは苦しい心を抑えつけながら、フィオルの自傷をみつめる。
    「私なんていなければよかったんだ。」フィオルがそう吐き捨てた。たぶん、フィオルはいつもこうして頑張ってきた彼女自身を否定して傷付けてきたんだろう。
    あのさ、と必死に怒気を抑えながらわたしは話しかける。そろそろ理性も限界だ。本当に怒鳴りながら張り倒しそう、フィオルを正したいとかじゃなくて、自分の感情をこれ以上抑えつけられる気がしない。
    「もういいよ、ありがとう。」無駄だってわかったでしょ?そんな感情がにじみ出てたお礼をフィオルがした。
    ぷち、とわたしの中でなにかが外れた音がした。
    「いい加減にしてよ!」気がつけば、フィオルの手を掴んで押し倒していた。
    傷つけるなって言ってるよね、話聞いてよ。苦しいのはわかるけど、だからってそんなことするのは間違ってる。
    怒鳴りながら言葉が溢れ出してしまう。フィオルは怒鳴られたショックで固まってるのか、凍ったように反応がなくなった。
    「もういいんだよ、私のために苦しまないで。」優しくて柔らかな言葉で、フィオルはわたしを拒絶した。
    「ふざけんなっ!」明確に、わたしは怒っている。冷静にならない頭を冷やそうとしながら、わたしはフィオルの事を抱きしめた。ほら、大好きなんだよ。やけっぱちになったわたしはフィオルに対してそうつぶやく。
    あったかいフィオルの身体を抱きしめながら、耳元で言葉をつむぐ。
    「君の事すっごくかっこよくて、尊敬してて、大好きなんだ。」「だから、フィオルのことを大切にしてほしいな。わたしのわがままを聞いてほしい。」
    フィオルは一方的に言葉と感情をぶつけられて驚いたけど、なんだかその熱に心を包んでいた氷が、少しだけ溶けて濡れていく感じがする。でも、わかんない。大切にしてほしいって言われても、みんなと違うフィオルが、母親に似た忌々しい顔が、母親と同じで自分のことしか考えられない自分が、憎らしくて仕方ない。
    大切にしてくれる人はいるのに、どうして…人に愛情を向けられても、それを返せない。本当に憎い、その憎しみがまた、所作に表れたみたいだ。気がつけば自分の腕に爪を立てていた。
    ユーニィは悲しい顔をして、私を見つめている。慌てて私は二の腕に立てた爪を離すと、ユーニィに抱擁を返す。
    「ありがとう、フィオル。」ユーニィは嬉しそうに目を濡らすと、フィオルの胸元に顔を埋めて、ぎゅーっとますます強く抱きしめる。
    「今日は、一緒に寝ていい?フィオルのにおい、好きなんだ。」鼻先を真っ赤にしたユーニィがそうお願いをする。
    「いいけど。ユーニィってもしかして、変態なの?」フィオルがいじわるに笑う。甘えられた事が、嬉しいみたいだ。
    「うるさい!」照れで顔中が真っ赤になったユーニィが、また怒った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭🙏🙏💒💒💒🍼🍼
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works